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俳優・永山絢斗の“ヤングタイマー”探訪記──Vol.2 ランチア・デルタHFインテグラーレ

近年、1980年代前後に販売されたちょっと古いクルマ、通称“ヤングタイマー”に注目が集まっている。そこで、クルマをこよなく愛する俳優・永山絢斗が当時の車両を取材する。第2回はランチアのホットハッチ「デルタHFインテグラーレ」。
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Hiromitsu Yasui

デルタ・HFインテグラーレの変遷

“ハッチバック好き”を公言する永山さんは、かつてデルタHFインテグラーレの購入を考えたという。愛車のフォード「フォーカスRS500」の修理期間が長期間に及ぶということで、当時、購入候補にあがったという。が、相場の高騰によって断念したそうだ。

【前話】Vol.1 メルセデス・ベンツ500E

「ウェブの中古車情報サイトで検索したのですが、気になる個体はいずれも高価だったので、別のクルマを探すことにしました」

とはいえ、永山さんにとってデルタHFインテグラーレは憧れの1台であるのに変わりはない。だから取材時、実車と対面した瞬間「やっぱりカッコいいですね!」と、感嘆の声をあげた。

取材車のランチア「デルタHFインテグラーレ」は、1995年に登場した限定モデル「ディーラーズ・コレクション」。正規輸入されなかった希少車だ。

Hiromitsu Yasui

実物のインテグラーレに触れるのは人生初とのこと。

「ウェブサイトでは見ていましたが、価格が価格だっただけに実車を見に行きませんでしたね……」

目前のデルタHFインテグラーレは1995年に販売された最終ロットの限定モデル「ディーラーズ・コレクション」。ヨーロッパ市場で180台のみ販売された超希少モデルだ。

はじめて見るデルタHFインテグラーレに興奮する永山さん。

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ベースモデルである初代デルタは、1979年に登場した。ボディ形状は5ドア・ハッチバックのみで、1.3リッター/1.5リッターの直列4気筒ガソリン・エンジンを搭載するFWD(前輪駆動)モデルだった。

エクステリアは、ジョルジェット・ジウジアーロが率いるイタルデザインが担当。内装に人工皮革の「アルカンターラ」を使い、“小さな高級車”ともいうべき仕上がりが特徴だった。

1979年に登場した初代デルタ。ジョルジェット・ジウジアーロが率いるイタルデザインのペンによる5ドア・ハッチバックだ。

HFインテグラーレは、モデル途中に追加された高性能ヴァージョンだ。世界ラリー選手権のホモロゲーション(国際自動車連盟のレース出場に必要な形式認定)用に開発された「HF 4WD」(1986年)の流れを汲む。

5000台以上の義務生産台数が課されたHF 4WDは、最高出力165psを発揮する2.0リッター直列4気筒ガソリンターボ・エンジンを搭載。駆動方式は、センターデフにビスカス・カップリングを用いた4WD。外装は、ヘッドライトが角型から丸目に、シートはレカロ社製に変更された。

1986年に登場した「HF 4WD」。その後のインテグラーレに続くモデルだ。

ステアリング・ホイールやシートが専用デザイン。

その後、パワーアップして登場したのが「HFインテグラーレ」だ。外観はブリスターフェンダーを採用し、最高出力は185psに向上した。HFインテグラーレはその後、「HFインテグラーレ16v」、「HFインテグラーレ16vエヴォルツィオーネ」、「HFインテグラーレ16vエヴォルツィオーネII」へ進化した。ディーラーズ・コレクションは、HFインテグラーレ16vエヴォルツィオーネIIがベースで、内外装に手がくわえられている。

「レッドのボディカラーも、これまで写真で見たHFインテグラーレと比べツヤが違いますね」

取材車両を販売する株式会社コレツィオーネの代表取締役・成瀬健吾氏によれば「これはレッドパールになります」とのこと。

ボディカラーはレッドパール。ストライプのデカールが入らないのも特徴だ。

Hiromitsu Yasui

販売価格は1000万円オーバー

フロントに搭載するエンジンは、16バルブ化された2.0リッター直列4気筒ガソリンターボで、最高出力は215ps、最大トルクは313Nmに達する。

試しにエンジンを掛けてみる。取材車は、インパネ上部に設置されたエンジン・スターター・スウィッチを押すタイプにカスタマイズされていた。

エンジン・ルームをチェックする永山さん。

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フロントに搭載するエンジンは16バルブ化された2.0リッター直列4気筒ガソリンターボ。最高出力は215psに達する。

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「はじめてエンジン・サウンドを聴きましたが、シビれますね! やっぱりHFインテグラーレは魅力的です。天井にある“コレ”はなんですか?」

永山さんが気になったのは、ルームミラー付近にある液晶画面。成瀬さんに訊くと、デジタル時計とストップウォッチを兼ねているという。モータースポーツのために開発されたモデルならではの装備だ。

ベージュレザーを使ったレカロ製シートも状態はよく「座り心地がいいですね」と、永山さん。リアにまわりテールゲートを開けると実用的なラゲッジ・スペースが。「スペアタイヤがラゲッジルームサイドにありますが、広さは十分ですね」。

ラゲッジルームをチェックする永山さん。その目は“購入者視点”だった。

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レカロ製シートはレザー表皮。通常モデルは人工皮革「アルカンターラ」を使う。

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リアシートにヘッドレストレスはない。

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ラゲッジルームサイドにはスペアタイヤが置かれている。

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取材車はヨーロッパからの並行輸入車。新車からずっとおなじオウナーが愛用していたという。ちなみにディーラーズ・コレクションは日本への正規輸入はおこなわれていない。

価格は“ASK”。はたして、金額はいかに? 「1280万円です」とのこと。

「標準のHFインテグラーレ16vエヴォルツィオーネIIでも程度の良いものは700〜900万円はくだらないですね」(成瀬さん)
「数年前、ウェブで調べたときはたしか500〜600万円でした。相場は高騰しているんですね」(永山さん)

年々、台数が減っているうえ、海外へ流出する個体も多いという。その結果、相場が上昇傾向にあるそうだ。ただし成瀬さんは「できたら日本のユーザーに乗っていただきたいんですけどね……」と、思いを述べる。すかさず永山さん、「日本の道でデルタHFインテグラーレとすれ違いたいですよね。信号待ちで隣に並びたいですもん」。

「デルタHFインテグラーレを知ったきっかけはラリーでの活躍でした」と、永山さんは話す。

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そういえば10年ほど前まで、都心部ではデルタHFインテグラーレを見る機会が多かった。

「たとえばオークションに出品されている車両をチェックすると、落札された車両が市場で販売されないんです。考えられる主たる理由は、海外へ輸出されているか、ないしはオウナーに直接販売されているかのいずれかです。したがって、店頭に並ぶ中古のデルタHFインテグラーレはあまり多くありません」(成瀬さん)

内装のコンディションは上々。

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ステアリング・ホイールは専用デザイン。エアバッグは備わらない。

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トランスミッションは5MTのみ。

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ペダル類の状態も良い。

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対策済みの車両がほとんど

弱点はいかに?

「狭いエンジンルームのなかにターボチャージャーやインタークーラーなどを搭載しているので、熱がこもりやすく、それに伴うトラブルはあるかもしれません。また、タイミングベルトが非常に細いため、2〜3年に1回は交換が必要になります。交換時はエンジンを下ろさなくてはなりません」(成瀬さん)

試乗車の走行距離は約4万8000kmだった。

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現在、中古車市場に流通する個体の多くは、弱点箇所に“対策”を施しているそうだ。

「具体的にはどのような対策を施しているんですか?」(永山さん)
「たとえば、ラジエターの容量を増やし、冷却効率をアップさせるなどです」(成瀬さん)

したがって、夏場も問題なく乗れる個体が多いとのこと。ただし、エアコンの効きはあまり良くないそうだ。もっとも、エアコンにも対策方法があって、夏場でも冷たい風が出るようにできるという。たとえば、コンプレッサーをオーバーホールするか、いっそのこと換装するのも手だし、熱変換効率のいい社外品のエバポレーターに交換するという対策もあるという。

対策済みのエアコンであれば、真夏でも冷たい風が吹き出るという。

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センターコンソールの、ディーラーズ・コレクションをしめす専用プレート。

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「オウナーさんによっては、20万km以上乗っている人もいらっしゃいます。とはいえ、ランニングコストについては正直、掛かりますね」(成瀬さん)
「なるほど。本当にデルタHFインテグラーレを愛さなければ乗りこなすのは難しいかもしれませんね」(永山さん)

続けて永山さんは「パーツの供給状況はどうですか?」と、訊く。

「オリジナルの純正パーツは減ってきていますね。ただ、OEMで作られているパーツはいくつもあるので、維持するには困らないと思います」

ボディサイドのエンブレムやアルミホイールのセンターキャップなど、細かな部品も流通しているそうだ。

純正のアルミホイールは16インチ。

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天井の内張は、経年劣化で垂れてくるそうだ。が、現在流通する個体の多くは、すでに張り替えられているという。

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ルーフスポイラーの角度は任意で変えられる。

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「オイルや水まわりなど、各所に手をくわえれば、普通に乗れるということですね」(永山さん)
「はい、大丈夫です」(成瀬さん)

憧れのクルマの細かい情報を知った永山さんは、おもわず「いやぁ、嬉しいですね」と、述べた。相場が相場だけに、「今すぐ購入へ!」とはならないかもしれないけれど、いずれ購入するときの参考になったはずだ。

【俳優・永山絢斗の“ヤングタイマー”探訪記】
Vol.1 メルセデス・ベンツ500E

Hiromitsu Yasui

【プロフィール】

俳優・永山絢斗(ながやまけんと)

1989年3月7日生まれ。東京都出身。2007年『おじいさん先生』(日本テレビ系列)で俳優デビュー。連続テレビ小説『おひさま』や『べっぴんさん』(NHK総合)、『ドクターX〜外科医・大門未知子〜 第5シリーズ』(テレビ朝日系列)、そして2021年には『俺の家の話』(TBS系列)に出演。映画では2010年の『ソフトボーイ』で第34回日本アカデミー賞・新人俳優賞を受賞。

2021年8月13日(金)放送の終戦ドラマ『しかたなかったと言うてはいかんのです』(NHK総合・22時〜)には冬木克太役で出演する。

【取材協力】
株式会社コレツィオーネ
世田谷本店/東京都世田谷区等々力7-2-32
TEL: 03-5758-7007/FAX: 03-5758-7008

Hiromitsu Yasui

【衣装】
ブルゾン ¥ 6,600 (JANTIQUES/03-5704-8188)
Tシャツ、パンツ、シューズ、ソックス/スタイリスト私物

まとめ・稲垣邦康(GQ) 写真・安井宏充(Weekend.) スタイリスト・Babymix ヘア・松本明男 メイク・中村了太 撮影協力・コレツィオーネ