トヨタが新型SUV「カローラ・クロス」を2021年9月14日に発表した。ついにカローラもSUV化した……。古い世代には、カローラといえばコンパクトセダンの雄、という意識が強いものの、歴史を振り返ると、折りに触れて発表された派生車種がけっこう多く、おもしろいモデルが散見される。なかには、いま見ても“いいね!”と思えるものもある。
読者のかたもご存知のとおり、世のSUVブームはまだまだ衰えていない。フェラーリも2022年にSUVの発表を予定しているというし、2021年8月に上海で開催された自動車ショーでトヨタが「クラウン・クルーガー」なるSUVを発表したことも記憶に新しい。
クラウンがモデルチェンジするときはSUVになる、という噂が日本国内の自動車ファンの話題になっていたタイミングと重なっていたため、中身は「ハイランダー」であるクラウン・クルーガーを見て、「次期クラウンはこうなるのか」と、騒がれた(クラウンのSUV化は見送られた模様)。
過去のカローラ派生車種のなかでもっとも有名かつ人気が高いのは、スポーツモデルの「カローラ・レビン」だろう。パワフルなエンジンに後輪駆動システムを組み合わせたクーペで、まもなく発売が予定されている「GR86」のプロトタイプ試乗会がジャーナリスト向けに開催された際も、会場には往年のカローラ・レビンが飾られていた。
いっぽう、「時代のニーズにつながるものを提案してきた」(カローラ・クロスの資料より)と、メーカーが自負するだけに、カローラには、いまの言葉でいうSUVやクロスオーバーをコンセプトとした派生モデルも多い。そちらは今回のカローラ・クロスの直接のオリジンといえるかもしれない。
(1)カローラ・リフトバック
カローラ・リフトバックには、当時、新鮮なスタイルだなあと思った記憶がある。3代目カローラ(1974年4月発売)の派生車種で、1976年1月に追加。このときのカローラには、5つものボディバリエーションが存在した。ある意味、トレンドに強く傾きがちな昨今より、多様性が重んじられた時代だったかもしれない。
リフトバックは4120mmの全長をもち、スタイリングコンセプトの特徴は、クーペとステーションワゴンのクロスオーバー。このときは、同様のスタイルだったボルボ「P1800ES」(1972年登場)にちょっと似ている、と思った。
開発期間からして、ボルボを見てからデザインを始めたわけではないだろう。いまならシューティングブレークなどと呼ばれそうな、ハッチゲートつきのボディの独自性は、当時もっと評価されてよかったはずだ。
後席バックレストは分割可倒式で、スキー道具なども車内に搭載できた。さらに、1977年1月のマイナーチェンジで、ツインカムエンジン搭載の「GT」モデルが設定された。
ツインカムエンジン(2T-GEU)搭載の「レビン」の復活に合わせたもので、私にとっては正鵠を射た打ち出しに思えた。スポーティ・エステートみたいなコンセプトをもっと追求したら、しっかり市場が作れたかもしれない。あいにく2年後の1979年のフルモデルチェンジでカタログから落とされてしまった。
(2)カローラⅡ(4代目)
カローラでなくカローラⅡは、数字は増えているけれど、じっさいはカローラより若いマーケットを志向したモデル。初代は1982年、トヨタ車のラインナップのベースを受け持つスターレットの上に位置するターセルとコルサとの3姉妹として設定された。
ターセル(牙)とコルサ(レース)といった、あきらかに名前負けする全長4m弱の姉妹車との関係でいうと、カローラⅡというネーミングはやや意図が不明。それでも、小さなクルマで充分という割り切った購買傾向を持つユーザーのニーズをつかまえるのに成功した。
1994年9月に発売された「カローラⅡ」は、かつてのようなボディの多様化はやめ、2ドアハッチバックのみに。最大の特徴は、「女性」をメインターゲットに据えたことだ。運転席のハイトアジャスター、UVカットグラス、バニティミラー、ワイヤレスドアロック、それに途中から前席エアバッグや抗菌インテリアも採用された。小沢健二が歌ったCMソング『カローラIIにのって』も大きな話題だった。
カローラの名前を捨てなかったのは、この頃はまだ、カローラはよく出来たベース車という概念がユーザーのあいだに定着していたからだろう。トップモデルは1.5リッターのツインカム16バルブエンジン搭載で、リアサスペンションは、フォルクスワーゲン「ゴルフ」いらい前輪駆動ハッチバック車のお約束ともいえるトレーリングツイストビーム。まっとうに作られたクルマだった。
(3)カローラ・セレス
シリーズ史上もっともバブルっぽいモデルが、1992年に発売された「カローラ・セレス(とマリノ)」。ピラードハードップ(外部からはセンターピラーがないように見える)ボディが特徴的で、カローラがここまで! と、当時は驚かされた。
「コロナ・エクシヴ」や「カリーナED」といった、当時人気を集めたスペシャルティカーのイメージを最大限活かしているのが特徴。1991年の7代目カローラをはじめ、1992年に同時発売された「カローラFX」などとプラットフォームを共用している。
カローラセダンより全長は伸ばしつつ、全高は下げてスタイリッシュに。内装もカーブを多用したダッシュボードなど、高い質感を追求している。もちろん、カローラの名前を持っているだけあって、コロナ・エクシヴなどよりはひとまわりコンパクトだ。
横幅がやたら長いヘッドランプをもつフロントマスクのデザインは、当時からいまひとつかなあという印象があったのは事実。でもプロポーションは、トヨタ車の常で端正で、リアビューなどは、いまみても古くささを感じさせない。
1998年まで作られたのだから、けっこう長命のモデルだ。ただし後継車は生まれなかった。その頃から市場の人気は、スポーティセダンへ。いっぽうで、1997年に「プリウス」が誕生し、あたらしい時代が始まるのだった。
(4)カローラ・スパシオ(初代)
カローラは市場の動向にフレキシブルに対応するシリーズだった。1997年1月に登場した「カローラ・スパシオ」は好例。当時いわゆるRVブームがおこっており、そこに向けて開発されたモデルだ。
2465mmと比較的コンパクトなホイールベースのプラットフォームを使い、3列シートを並べてしまった6人乗りも設定。パッケージングがユニークだった。
前年の1996年には、2735mmと長めのホイールベースを持つSUV「イプサム」が発表されている。7人乗りまであって、スタイリングもソツなくまとまり好感がもてるモデルだった。カローラ・スパシオは、それよりすこし下に位置するモデルとして開発されたのだ。
もうひとつ、カローラ・スパシオの特徴は、後席用ドアをスライド式とせず、一般的な前ヒンジを守ったこと(イプサムと同様)。当時の日本では、スライドドアは商用バンのイメージがまだ強かったせいもあろう。(北米ではいまもスライドドアが忌避されるのは同じ理由)。
全高を1690mmまであげつつ、しっかりボンネットをもったハッチバック的なプロポーションを守ったのは、ユーザーの心理的バリアを下げ、クロスオーバーという新しいジャンルを定着させたいという考えもあったはずだ。
個人的な意見では、あいにくスタイリングが魅力的でない。パッケージングの要件が先にあって、スタイリングを担当したデザイナーが四苦八苦して作りあげたような外観だ。やっぱりなんでもカローラにやらせるのは無理がある、というのが当時の私の結論だった。
文・小川フミオ