Column

みんなで選挙に行こうよ

2021年内に実施されることだけは確実な「衆議院議員総選挙(第49回)」のカギを握るのは投票率だ。無名の選挙候補者たちの奮闘に光を当てた『黙殺』の著者、畠山理仁が投票しよう、と叫ぶ。

2009年衆議院議員総選挙で自民党は歴史的大敗を喫した。ボードをバックに呆然とした表情を浮かべるのは、菅義偉選対副委員長(当時)。今年の総選挙はどうなる?

ROBERT GILHOOLY

いよいよ第49回衆議院議員総選挙が行われる。多くの人は意識していないかもしれないが、毎回、総選挙には600億円もの税金が使われている。これだけ多くの経費をかけた大イベントなのに、日本では有権者の2人に1人が貴重な1票を捨てている。

私は不思議でしかたがない。わかりやすくたとえるなら、自分で行き先を決めずに飛行機に乗る人が半数近くいるようなものだ。

私たちはいま、収入の44.3%を税金や社会保障費として納めている。これを飛行機のチケット代だと考えてほしい。そして、そのお金の使い道を決めていくのが政治家だ。政治家は私たちが生きていく上でのルールも決めている。つまり、すべての政治家は私たちが乗る飛行機のパイロットのような仕事を請け負っている。

本来、私たちは自分が乗る飛行機の行き先を決める権利を持っている。これが選挙権だ。私たちに選ばれたパイロットは、乗客の意思を尊重して行き先を決めていく。操縦桿を握る政治家の任期は4年で、一度乗ったら降りられない。だから私たちは選挙で慎重に政治家を選び、希望する行き先を伝える手段を持っている。それなのに多くの人が行き先を選ぶことすらしていない。

いま、私たちが乗った飛行機の行き先を決めているのは、確実に選挙に行って投票し、パイロットに目的地を伝えている人たちだ。選挙に参加しない人たちは、自分以外の多数派が決めた方針に従い、どこかへと向かっていることになる。それで大丈夫なのか。

選挙は誰もが参加できて、自分の1票が結果に影響を与えるお祭りだ。それなのに参加しない人が多すぎる。もったいないを通り越して、怖いとしか言いようがない。

今回の総選挙に限らず、選挙の醍醐味は勝つか負けるかだ。そして、選挙後の勢力図が今後の政治に影響を与える。端的に言えば、政権交代が起きるかどうかが焦点になる。

だから選挙の前になると、各メディアが情勢を報道する。しかし、実際の結果がどうなるかは誰にもわからない。有権者の投票行動次第で結果が大きく変動するからだ。

ところが投票率に変化がないと、議席予想はほぼ当たる。それくらい、「必ず選挙に行く人たち」の投票先は固定化されていてブレがない。簡単に予想ができてしまうため、見ていて面白くない。選挙を面白くするのは「動きが読めない人たち」の行動しかない。

いま、菅義偉内閣の支持率は30%前後で推移している。永田町では「支持率30%は黄信号、20%は赤信号」と言われてきたが、投票率に変化がなければ、この常套句はアテにならない。内閣支持率が30%もあれば、自公政権はこの先も続いていくはずだ。

思い出してほしい。かつての日本には、支持率1ケタの内閣が存在した。2000年4月5日から2001年4月26日まで続いた森喜朗内閣だ。2000年6月25日に行われた第42回衆議院議員総選挙で、森総裁率いる自民党は解散前の271議席から233議席へと議席を大きく減らした。しかし、自民・公明・保守の連立与党で過半数を超えた。内閣支持率が1ケタでも、それに代わる受け皿への投票行動がなければ政権交代は起きない。

内閣支持率と選挙結果が連動しない理由は簡単だ。世論調査は電話に答えるだけでいいが、実際の選挙は投票所に行って名前を書かなければ票がカウントされないからだ。

選挙前によく行われる世論調査の結果を思い出してほしい。「選挙に行くか」という質問が投げかけられると、7〜8割の人が「かならず行く」または「行く」と答える。しかし、選挙が終わって実際の投票率を見てみると、半数以上の人が選挙に行っていない。日本人は「口だけ」の人がとても多い。

選挙に行った経験がある人なら知っているはずだ。実際の投票にはほとんど時間がかからない。自宅から投票所までは歩いて約10分。投票用紙に候補者名を書いて投票箱に入れても1分。選挙管理委員会から送られてくる投票所入場券を忘れても、失くしても、手ぶらで行っても投票できる。それほど1票の権利は大切にされているのに、投票に行かない人がいる。だから「必ず選挙に行く人たち」の意思が選挙結果に表れている。

私は今回の総選挙の見どころは投票率だと考えている。ふだんは選挙に行かない人たちが実際に投票するかどうかに注目している。投票率が低ければ変化は起きないだろう。反対に、投票率が高くなれば何が起きるかわからない。

私たちは選挙で政治を変えることも、変えないこともできる。この国の最高権力者は、政治家ではなく有権者一人ひとりだ。そのことに気づく人が何人いるか。何人に気づかせることができるか。総選挙が面白くなるかどうかは、ここにかかっている。

畠山理仁(はたけやま・みちよし)

フリーランスライター。1973年、愛知県生まれ。早稲田大学第一文学部在学中の1993年より雑誌を中心に取材・執筆活動を開始。無名の選挙候補者たちの奮闘に光を当てた2017年の著書『黙殺 報じられない"無頼系独立候補"たちの戦い』(集英社)で開高健ノンフィクション賞を受賞した。

Words 畠山理仁 Michiyoshi Hatakeyama

Robert Gilhooly / アフロ