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たかが125cc、されど125cc──新型ハスクバーナ・モーターサイクルズ・スヴァルトピレン125試乗記

スウェーデン生まれのハスクバーナ・モーターサイクルズの「スヴァルトピレン」に追加された125ccモデルに田中誠司が試乗した。おしゃれな原付二種の実力とは?
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Hiromitsu Yasui

価値ある125cc

この、アイコニックなデザインをもつモーターサイクルが53万9000円で入手できると聞いて、驚くひとは多いのではないだろうか。

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いざ近寄ってみると品質感が高くなくてガッカリ、というようなことも決してない。ハスクバーナ・モーターサイクルズ「スヴァルトピレン125」のパワートレインを除く大半の部品は、373ccの兄貴分である「スヴァルトピレン401」と共通である。

400ccクラスの品質がかならずしも高いわけではないけれども、インドで生産されるこのスヴァルトピレンのように、アジアでつくられるモーターサイクルには、日米欧で生産したものでは到底実現できないすぐれたコストパフォーマンスのものが存在する。

エンジンには12 V/8 Ahバッテリーを動力とする電動スターターが内蔵されており、ピーク出力は11 kW (15ps)に達する。「街乗りに最適な出力特性」と、うたう。

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ハスクバーナ・モーターサイクルズは、日本では馴染みのないブランドかもしれないが、モトクロス世界選手権やエンデューロのバハ1000など、モーターサイクルの競技では昔から世界に名を轟かせる存在だった。

もともと、ハスクバーナはスウェーデンで銃器、工具、アウトドア製品家電自転車などをつくる総合メーカーである。モーターサイクルの分野には1903年に参入した老舗であるものの、1987年にその部門はイタリアのカジバに譲渡された。さらに2007年から2013年まではBMWグループの支配下にあり、2013年からKTMと同じくオーストリアのPierer Mobility AGに属している。

スヴァルトピレンはスウェーデン語で“黒い矢”を意味し、エクステリア・デザインはオーストリアのキスカ社が手掛けた。キスカの顧客にはアディダス、スキーのアトミック、光学機器のツァイス、筆記具のラミーなど錚々たる名前が並ぶ。こうしたブランディング要素にKTM「デューク」の基本構造を組み合わせたのが2018年に誕生したスヴァルトピレン・シリーズである。

スヴァルトピレンには373ccの「401」(71万5000円)、248.8ccの「250」(61万5000円)がすでに存在する。

ハスクバーナのアイコンである丸型のヘッドライトはLED。

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「401」と「250」はフレームやサスペンション、ブレーキなどの基本構造を共通化しており、そのグループに今年2月、125ccの「125」が2021年モデルとして初めてくわわった。

日本において原付二種として位置づけられる排気量125cc未満のモーターサイクルは、高速道路には乗り入れられないものの、比較的取得が容易な小型二輪免許で運転できる。くわえて50cc未満の原付一種のように2段階右折の義務や一般道での30km/h制限がなく、任意保険もファミリーバイク特約を利用できるメリットが大きい。

ヨーロッパでも、EUで統一された規則で、18歳未満では排気量125ccまたは15ps以上のものは運転できないことになっているので、この範囲内に収まるエンジンサイズのクラスは激戦区となっている。

力不足は感じない

この単気筒4ストロークDOHCエンジンに接した印象を先に話すと、さすがに15ps/9500rpm、12Nm/7500rpmの出力は、パワフルとまではいえない。リッターバイクなどに身体が毒されているだけでなく、スズキ「RG125Γ」、ヤマハ「TZR125」、カワサキ「KDX125SR」など、2ストローク・エンジンが許された時代の125ccの記憶が筆者の中にかすかに残っているせいもある。

トランスミッションは6速MT。

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とはいえ、燃料を除く車両重量が146kgに抑えられていることもあって、エンジンスペックから想像するほどの力不足は感じない。トップエンドであるおよそ13000rpmの少し手前まで延々とパワーは伸びていくし、6000rpm前後から目覚めるトルク感も手応えがある。

車体をふくめ全体の精度が高く、高回転域まで回しても気に障るほどの振動が出ないので、低めのギアを選んでエンジンスピードを落とさないコツさえ身につければ、快適かつ活発に街を駆け抜けることが可能だろう。

水冷単気筒4ストローク125 ccエンジンは、バランサーシャフトによって滑らかさを実現しているという。

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ボッシュ製ABSシステムを搭載。

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作り込みの確かさ

3倍近い馬力がある(44ps)スヴァルトピレン401と共通の基本構造を持つ車体はがっちりしていて、アップハンドルや大振りなリアのグラブバーを介した取りまわしもいい。ピレリのブロックタイヤを履いており、オンロードでのグリップレベルは限られそうだが、ちょっとしたオフロードも楽しめそうだ。

WP製の倒立フロントフォーク、ABS、燃料タンク上のラゲッジキャリア、LEDヘッドライトなど、標準装備も充実している。

ハンドルバーはオフロードタイプ。

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メーターはモノクロのデジタル。

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そして、もっとも魅力的なのは作り込みの確かさである。フレームの溶接、各部の鋳物や樹脂部品の工作精度など、どこを見回しても手抜き感が一切ない。この値段にしてこの作り込みは、買い得感が高い。

ハードウェアとしての懸念事項は、シート位置が高い(835mm)ので地面が遠いことくらいだ。そしてインポーターの歴史が浅いので、整備やパーツの供給・価格が将来的に維持できるか心配ではある。

しかしこの車両価格と、原付二種の維持費の安さや中古車相場の高さを思えば、細かいことを気にせず、時計を1本買うくらいの感覚で入手してしまうのもいいかもしれない。もし動かなくなったなら、筆者ならキレイに掃除して床の間に飾っておこうと思う。