「新たな挑戦をしたかった」──トップデザイナー・三原康裕が語るGUとコラボレーションする意義

GUとMIHARAYASUHIROがコラボした。デザイナー・三原康裕を直撃!
三原康裕

GUジーユー)は、Dior Homme(ディオール オム)を率いるキム・ジョーンズとのコラボレーションを皮切りに、EXILE NAOTOが手がけるSTUDIO SEVEN(スタジオ セブン)、東京ストリートの重鎮・清永浩文主宰のSOPH.(ソフ)など、ここ数年の間で豪華メンバーとたびたびコラボレーションを発表し、脚光を浴びてきた。

そのGUが新たなパートナーに選んだのは、ミラノパリコレクションにも参加するデザイナー、三原康裕だった。「実は過去に一度、某ファストファッションブランドからのオファーを断ったことがあって」、そう語る三原氏はなぜ、数年の時を経てGU×MIHARAYASUHIROの実現に踏み切ったのか。marble studioは同氏のアトリエで、本コレクションに込めた想いを探った。

三原康裕。1972年生まれ、福岡県出身。1996年よりシューズメーカーのバックアップを受け「archi doom」を立ち上げ、大学卒業後「MIHARAYASUHIRO」に改名。今なおシーン最前線を走り続ける世界的デザイナー。

サステナビリティへの挑戦

「緊急事態宣言が発令されて、コロナの不安が一斉に蔓延した時期だったかな、最初に相談をもらったのは。僕も考える時間が増えて、新しいことに挑戦したいという想いが芽生えたタイミングでのオファーだったと記憶しています」

ゆっくりと回想しながら丁寧に言葉を選ぶ三原氏は「特別、何かをリクエストしたわけではないんだけど……」と前置きしたうえで、こう続けた。

「“サステイナブル”に貢献できることをやりたいという気持ちを伝えました。僕は最近、“サステイナブル”という言葉がトレンドワードのように扱われていることに不安を抱いていて、これは流行ではなく、社会的・環境的義務であることを提示したかった。いきなりすべての意識や生産背景を変えるのは無理でも、GUとならラディカルに取り組めるという感触があって、今回のコラボレーションを決意した理由は、GUもその想いを汲み取り、共に挑戦したいと言ってくれたからです」

この1年を回顧しながら、三原氏は繊細に言葉を紡いでいく。

今回のコレクションにおいて、三原氏とGUはファッションとサステイナビリティの両立を目指した。現に、オープンカラーシャツやワイドテーパードトラウザーズのセットアップには、ペットボトルをリサイクルして作られたREPREVE™(リプリーブ™)が、そしてボウリングシャツには再生可能な木材を原料とするLENZING™ECOVERO™(レンチング™エコヴェロ™)が使用されている。

「到達点の見えない仕事は嫌いだけど、GUとの取り組みを想像したときに『何かをやらなくてはいけない』という使命感を感じました」。インタビュー中、三原氏がコラボレーションのパートナーが誰でもよかったわけではないことをたびたび強調している姿は、取材終了後も深く印象に残っている。

“Good Inspiration”に込めた想い

GU×MIHARAYASUHIROは“Good Inspiration”というテーマを掲げており、コレクションの着想源は、クリエイションに明け暮れた美大生時代の自分だったという。

三原氏の学生時代はバブルが弾けた頃で、2021年の今の社会情勢と同じく、先行きにたいする不安に直面する毎日がつづいていた。だが、それでも真摯に作品制作と向き合っていくなかで、かすかな希望を見つけることができたと語る。

「クリエイションをして人生を切り開いていかないといけないのは、今も昔も変わらないと思ったんです。いつだって、次の時代を作るのは若い世代です。だから、僕は現代を生きる若者に未来にたいしてネガティブな気持ちを抱いてほしくないし、自らの手で新しい時代を作り上げていってほしいと心から願っています」

「Never bend your head. Always hold it high.(=決してうつむいてはいけません。いつでも前を見つめなさい)」。これはアメリカに生まれた社会福祉活動家、ヘレン・ケラーの言葉だ。

ジョン・レノンは“Love”や“Imagine”といった名曲のタイトルから歌詞に至るまで、世界中から理解されるようなシンプルなワードにこだわった。“Good Inspiration”もまた、込めた想いが歪むことなく伝わるように、意図してメジャーな単語を並べたという。

「InspirationにGoodがつくだけで一気にポジティブになると思わないですか? 僕はGoodっていう言葉が好きなんだよね、子供でもわかるから。それはデザインも同じで、僕らはファッションという言語を使っているけど、相手に何を伝えたいか、そしてそれが伝わっているかは、ものづくりをするうえでとても大事なことだと位置付けています」

「GUと共にファッションで世間を明るくなんて、とても言えないけどね」、前向きなメッセージを解説しながら恥じらう三原氏。

三原氏のデザイン言語×GUのクオリティー

コレクションアイテムについて尋ねてみると、三原氏は迷わず、シェフジャケットとシェフパンツのセットアップに手を触れた。

「学生って、忙しいじゃないですか。だから、ファッションでありながらも、作業もできるような実用性を随所に取り入れています。例えば、このジャケットは、モレスキンのノートがぴったり入るポケットにペンポケット、そして学生証やSuicaなどのカード類が収まるカードポケットなど、昨今のスマートライフにも合うようなデザインにしました。今の時代、Suicaがあればどこにでも行けて何でも買えるし、ノートとペンがあればアイデアを記しておくことができる。僕の学生時代はスマホも普及していなかったので『そういえば、僕も学生時代は喫茶店でずっと絵を描いて時間を潰していたな」と思ったりもして、そういう意味では結構メランコリックなメッセージも入れているかもしれません」

愛用品であるモレスキンのノートとペンを実際に入れて解説する三原氏。このデザインで価格はなんと3990円(税別価格)。

「GUの人気アイテムであるシェフパンツも僕なりに解釈させてもらいました。実際に手に取ってみると、ベルトループがなく、前にジップやボタンフロントのないデザインにドイツ製のヴィンテージワークウェアのような雰囲気を感じて、そこからワークのエッセンスを取り入れています。汚れてもカッコよく履けるような仕上がりになったなと」

これまで幾多のコレクションを発表してきた三原氏だが、GUとのクリエイティブには様々な気づきと学びがあったという。48歳のデザイナーは、プライスからは想像もできない商品基準の高さに言及し、その過程の多くから感銘を受けたようだ。

デザイナーならではのディテールへの気付き。「丁寧かつ質の高い仕事に感動した」と三原氏。

「裾のスリットなどは手間がかかる分、工賃も高いので嫌がる工場もあります。でも、GUは作りで甘いところが一切ない。僕らは通常、製品完成までにプロトタイプを作って進行していくんですけど、GUは最初からほぼ完成品に近い状態で仕上げて、そこから修正をしていくんです。これをコラボ以外でもやっているんだから、クオリティ維持に対する執念には本当に刺激を受けました」

スニーカーは、どちらも3000円台ですからね。ラバーソールのスニーカーは、僕が10年以上前に作ったモデルへのオマージュだけど、アウトソールの絶妙なはみ出し具合も綺麗に表現してくれている。もう一方のモデルは、コバの削りが下手だった昔のワークシューズをイメージしています。トウガードをつけていて、これも何度もサンプルを作っては手直しをしてくれました」

スニーカーはヴァルカナイズド、ワークシューズモチーフの1足は、いちから設計したオリジナルのアウトソール。フットウェアは、三原氏とGU屈指の意欲作。

次の世代への期待とエール

通常であれば、三原氏はデザインチームと協力しながらひとつのコレクションを作り上げるが、GUとのコラボレーションでは全33型のアイテムを同氏1人でデザインした。全力を出し切った洋服にはコレクションデザイナーも納得の出来で、それを手に取る姿には好きなことに真っ直ぐな子供のような純粋さが滲み出ていた。

「何かやりたいという初期衝動に素直になって、コラボレーションが本来持つ化学反応を地肌で感じたかった。楽しく取り組めましたよ。早くみんなに見せたいと思いながら、コレクションを作り上げました」

20年以上のキャリアを積んだ今もなお、ものづくりへの探究心を燃やす三原氏。インタビューの最後に、これらの洋服を手に取ってくれる未来ある若者に向けて、改めて思いを馳せた。

「どんなに才能のある人でも、みんな不安の中で戦っています。それは僕の学生時代も今も同じことだと思います。学生は皆、社会的・世間的には何も認められていないかもしれないけれど、その子たちが次の時代を作るわけだから、僕たち大人がその可能性を潰してはいけない。どんなに暗い世の中でも、彼らは何かを変えてゆく原動力を秘めているし、僕はどこかで彼らに期待しているところがあるんだなと思いますね」

ギャラリー:「GU×MIHARAYASUHIRO」コレクション
Gallery28 Photos
View Gallery
「GU×MIHARAYASUHIRO」コレクション

発売日:2021年3月5日(金)
商品数 :メンズ全33型(展開店舗等により取り扱い商品が異なります)
商品価格帯:490円~5990円(税別価格)
展開店舗:全国のジーユー店舗およびオンラインストア

文・marble studio 写真・Hidetoshi Narita