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サイケデリックな愛のセラピーとは?──カップルカウンセリングの最前線を知る【愛で勝つためのコラム集 NO.2】

近年、アメリカでは幻覚剤の合法化や罰則緩和が急速に進んでいる。うつ病の治療や、末期がん患者の不安解消に有効だという。セラピストのジェイン・ガンペルに、カップルが一緒にトリップすることで得られる「癒やしの力」について訊いた。
Illustration of blue mushrooms with dotsKeir Novesky

1970年代、20代だったジェイン・ガンペルは南米に住んでいた。「山のなかで裸馬に乗り、キノコをかじる生活をしていた」という。そんな彼女がトリップを体験したときに抱いた感想は「すごい。これは世界のためになる」というものだった。

それから数十年が経ち、科学が当時の彼女に追いついたようだ。ドラッグを摂取し、その体験を事後のセラピーで精査する「サイケデリック・インテグレーション」なるものが主流に乗りつつあるのだ。複数の研究でうつ病や不安障害、依存症、そしてPTSDへの効果が示され、オレゴン州では2020年秋にシロシビン(いわゆるマジック・マッシュルーム)が合法化された。また、カナダでの研究によれば、カップルにMDMAを投与した場合に良い効果が期待できるという。

現在、ガンペルは臨床ソーシャルワーカーの免許をもち、カップルのセラピーに従事して25年以上の経験がある。サイケデリック・インテグレーションを取り入れるセラピストを養成する組織「フルーエンス」でも仕事をしている。セラピーに訪れる人々にMDMAやシロシビンを勧めたり投与したりすることはない(法的にもできない)が、もし試してみたいといわれればトリップ体験への準備を手助けする。トリップの後には、その時に得たもの(ガンペルによれば「非常に奥深いものであることが圧倒的に多い」という)をカウンセリングで整理して、問題解決への足がかりとする。

GQ サイケデリック・インテグレーションが成功したケースからはどんなことが見えてくるのでしょうか?

ガンペル 間違いなく言えるのは、不首尾に終わったものはないということです。というのも、困難で辛いシロシビン体験だったとしても、正しく行われて何が起きたかをきちんと話せる安全な場を作ることができれば、何かを学ぶ機会は常にあるからです。あるカップルがシロシビンによるトリップをニューヨーク州ハドソンバレーで行いました。ハドソンバレーはアングラ文化が発達している場所なのです。2人は別々にではなく結ばれた状態でトリップ体験をしたいと望んでいました。一緒に座って手をつないで、互いの目を見ながらトリップしたかったのです。そして彼らが共に体験したのは、誕生前に一緒に過ごしたというものでした。前世を体験したのです。そこでは彼らは兄弟でした。

GQ すごい。

ガンペル そうですね。現実世界でこのレベルの話をすると、とてもあり得ないようなことにも聞こえます。でも、彼らは生き別れた兄弟だったのです。火事か地震か、何か大きな災害があって、その人生では再会できませんでした。互いを失って、そのつらさを感じていました。それぞれ1人になって互いを探していたので、2人とも泣いていました。そして互いを見つけて、すごく幸せそうでした。このカップルは、前世で兄弟だったことのある夫婦として、現実世界に戻ってきました。事後のセッションに訪れたとき、2人はその前世体験をメタファーとして用い、「今世でも本当に互いを失ってしまっていたようだった」と話していました。

GQ そのカップルにはどんな問題があったのでしょうか。

ガンペル 2人とも関係が壊れたように感じていました。男性の酒量が多く、女性は自身の父親がアルコール依存症だったこともあって、男性に怒りを覚えていました。彼女が幼い頃に父親は家族を捨ててしまっていたので、女性の人生には大きな喪失感がありました。

2人が離婚の危機にあったとはいいません。彼らには子どもがいました。でも、互いが兄弟であるかのような暮らしをしていました。性生活はなく、相手とのつながりがなくなり、幸せを感じられなくなっていました。ここに、2人のシロシビン体験との類似が見られます。喪失、別離、不安、苦悩といったものです。兄弟であったことや、兄弟として困難をくぐり抜けたことについて話せるようになり─つまり兄弟たちに声を与えた─彼らは自分たちの経験を素直に聞くことができるようになりました。それも、互いにまったく被害者意識をもつことなく、です。

GQ そのカップルはトリップで学んだことを、どのように自分たちの結婚生活に取り入れたのでしょうか?

ガンペル ゲシュタルト療法を多く行いました。「兄弟になって、向き合って座ろう。トリップに戻ったみたいに話そう」というやり方です。これは非常に効果がありました。互いを失い、再び見つけるとはどんなことなのかをまとめるなかでは、たくさんの涙が流れました。

GQ あなたのもとを訪れるカップルで、トリップに対してそれぞれが大きく違った反応をすることはありましたか?

ガンペル 悪い方向にということですか?

GQ そうです。同じ方向を向いていないとか。1人は何かものすごく得るものがあったのに、もう1人はそうでもなかったといったことです。

ガンペル 地球の破滅的な状況に気づいて、トリップ中ずっと泣いていた女性がいました。彼女は自然を撮影する写真家だったのですが、「どうしよう。人間はどうしようもないクズだ。水を汚染している」といった感じで6時間泣きどおしでした。彼女が経験したのは、森のなかで泣いている木々だったんです。これは彼女には本当につらいものでした。

一方、彼女のパートナーはまったく違う経験をしました。宇宙に住む親戚を訪ねるというものだったのです。事前に求めていたように2人が一心同体になれなかったことを気にするのではなく、彼は宇宙空間を独りでいても大丈夫で、孤独を感じる必要のない場所であるととらえました。そして、彼女の魂が自分とは違ったあり方で自然と結びついていると考えました。この体験を通して、彼女との関係のあり方がガラリと変わりました。

GQ あなたが長い間見ているカップルのなかで、サイケデリック・インテグレーションの後に関係が飛躍的に改善されたケースはありますか?

ガンペル もちろんあります。相手を許すことがとても楽になります。手のひらを差し出すか、拳を突き出すかくらいの違いがあります。シロシビンを経験するのは、手のひらを差し出すようなものです。自我の縛りを解き放ち、苦しみへの執着も解き放ちます。私たちが存在というタペストリーを織りなす意識の結び目だということが分かるのです。これが非常に意義深いものになる人もいます。結婚して15年とか20年経ち、関係が悪くなってシロシビン体験にやってくるような人で「なんてことだ。こんなことで何年も喧嘩をしていたなんて信じられない」と言う人もいます。問題だと思っていたことの意味がなくなって、単に消え失せてしまうわけです。

GQ カップルにサイケデリック・インテグレーションを施すことを通じて、愛に関してどんなことを学びましたか?

ガンペル 相手をより思いやること、気長になること、そして気をもまないことですね。多くのことについてこだわりがなくなり、残ったものをより大切にするようになりました。カップルは自分たちの人生を非常に親密な形で見せてくれるので、ありがたい気持ちになります。

Words ガブリエラ・パイエラ Gabriella Paiella / Translation 河野陽子 Yoko Kono