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威風堂々なれど優し──新型メルセデス・ベンツSクラス試乗記

フルモデルチェンジしたメルセデス・ベンツの最高峰セダン「Sクラス」に小川フミオが試乗した。
メルセデス・ベンツ mercedesbenz Sクラス 高級車 ダイムラー Sclass
Sho Tamura
メルセデス・ベンツ mercedes-benz Sクラス 高級車 ダイムラー S-class
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新世代のメルセデス

セダンの最高峰でありつづけるのが、メルセデス・ベンツ「Sクラス」だ。8年ぶりにフルモデルチェンジを受け、2021年1月28日に日本市場に導入された新型に乗ってみて、たしかに、運転してよし、後席に乗ってよし。みごとな出来映えだ! と、感心した。とくに注目は、ハイテクの数かずをドライバ−を中心に、乗員のために惜しみなく使っている点だ。これがあたらしい。

新型Sクラスは、2013年に登場した従来型の後継モデル。大きな弧を描くような輪郭をもったサイドウィンドウをもつプロファイル(サイドビュー)は、まごうかたなきメルセデスのセダンである。

【主要諸元(S500 4マティック・ロング)】全長×全幅×全高:5290×1920×1505mm、ホイールベース3215mm、車両重量2170kg、乗車定員5名、エンジン2996cc直列6気筒DOHCガソリンターボ(435ps/6100rpm、520Nm/1800〜5800rpm)、トランスミッション9AT、駆動方式4WD、タイヤ255/50R18、価格1724万円(OP含まず)。

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試乗車はオプションのAMGライン(99万8000円)装着車だったので、アルミホイールは20インチだった。

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いっぽう、大きなフロントグリルは輪郭を含めて意匠変更が加えられたし、ヘッドライトやリアのコンビネーションランプなども薄型になった。フロントとリアの印象はぐっとシンプルな造型で、新世代のメルセデス・ベンツのセダンと、ひと目でわかる。

乗った「S500 4MATICロング」は、日本に導入された4つのグレードのうち最上級車種。ほかには、「S400d 4MATIC」「S500 4MATIC」「S400d 4MATICロング」がある。今回、3.0リッター直列6気筒のガソリンターボと、やはり3.0リッター直列6気筒のディーゼルターボの2本立てと、すっきりしたエンジン・ラインナップだ。

ドア・ハンドルは、メルセデスとしては初めて格納タイプになった。これも空力の改善に役立っている。キーを携帯した人が近づくと、ボディ面から自動でせり出す。事故時にも自動でせり出すことはいうまでもない。

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ドア・ハンドルは、メルセデスとしては初めて格納タイプになった。これも空力の改善に役立っている。キーを携帯した人が近づくと、ボディ面から自動でせり出す。事故時にも自動でせり出すことはいうまでもない。

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新型も“ドライバーズ・カー”

S500 4MATICロングが搭載する2996ccの直列6気筒ガソリンターボは、従来型からの継続だ。パワフルで、回したときのフィールがよく、たいへんよく出来たエンジンだと、今回もあらためて思った。320kW(435ps)の最高出力に、520Nmの最大トルク。くわえて、16kWと250Nmの電気モーターがそなわる。

エンジンとモーターを使ったシステムは、メルセデス・ベンツが「ISG(インテグレーテッドスタータージェネレーター)」とよぶもの。いわゆるマイルド・ハイブリッド・システムである。走り出しとか加速や変速のときとか、エンジントルクが一瞬低くなるところを、モーターのトルクでおぎなう。

Cd(抗力係数)値は0.22とされており、空力的洗練度がきわめて高い。

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搭載するエンジンは2996cc直列6気筒DOHCガソリンターボ(435ps/6100rpm、520Nm/1800〜5800rpm)。

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そもそもスーパーチャージャーとターボチャージャーで”武装”したパワフルなエンジンであるところにもってきて、48ボルトシステムを使ったモーターの力が加わるので、今回のS500も、すばらしい、と形容したくなるダッシュ力をみせてくれた。

ギアボックスは9段オートマチック。つねにフロントに45%、リアに55%のトルクを振り分ける「4マティック」と呼ぶ電子制御式4WDシステムと組み合わせられる。

トランスミッションは電子制御式9ATのみ。

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WLTCモード燃費は11.0km/L。

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Sクラスはドライバーズ・カー、つまり運転を楽しませるセダンというキャラクターを大事にしてきた。それは新型になっても変わらないというのが、走りだしての第一印象だ。軽快な出足と、カーブを曲がるときの俊敏な動き。

従来型から50mmも延びた3215mmのホイールベースをもったロングボディでも、ステアリング・ホイールを切ったとき、アクセルペダルを踏んだとき、あらゆる操作に対してクルマの動きは俊敏だ。

しかも新型には、後輪操舵機構が搭載された。約60km/h以下では、後輪を前輪とは逆方向に最大4.5°動かす。これにより回転半径 が小さくなるので、狭い場所での取りまわしが向上する。いっぽう、車速が約60km/hを超えると、たとえば高速でのレーンチェンジのときなど、後輪を前輪と同じ方向に最大3°動かす。走行安定性を増すのが、同位相に動くメリットだ。

フルデジタルのメーターは、速度計などが立体的に見える「3Dコクピットディスプレイ」がオプションで選べる(13万円)。

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走行モードは5種類。うちひとつは任意でエンジン特性や足まわりの組み合わせを調整出来る「インディビジュアル」だ。

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先進装備のアップデート

乗りごこちは、標準の「コンフォート」でもソフトすぎることはないものの、さらに、シャキッとしたレスポンスが欲しいという向きには、ダッシュボードに新設された12.8インチの大型センターディスプレイ下に「ダイナミック(本当はアルファベットで書いてある)」とあるスイッチが役立つ。

ドライブモードを一瞬で切り換えられるので、「スポーツ」あるいは「スポーツプラス」を選ぶと、加速などにおいて、さらに反応がするどくなる。全長5290mmの大柄なボディであるのに、首都高の小さなカーブが楽しくなるほどだ。

360度カメラシステムは映像が、より鮮明になった。

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キーは新デザイン。

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もうひとつ、新型Sクラスの大きな特徴として、「人間中心の最新技術」(メルセデス・ベンツ)というのが、たいへん印象的だ。ひとことでいうと、運転支援システムにくわえて、快適性を重視した操作性の向上である。

そのために、従来のステレオマルチパーパスカメラに360度カメラシステムが追加された。操舵支援システムの「アクティブ・ステアリング・アシスト」で対応できるカーブが増え、高速道路上では、より精密に車線中央を維持することができるようになった。

実際にアダプティブ・クルーズ・コントロールをオンにして、このアクティブ・ステアリング・アシストとアクティブ・レーン・キーピング・アシストを作動させると、たいへんスムーズにドライバーの補佐をしてくれる。メルセデス・ベンツ車の常で、制御が緻密だし、つねに一定速度を維持するのにも、あらためて感心するのだ。

ステアリング・ホイールの3本スポークは、ユリの花をモチーフにしたデザイン。

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花粉情報にも対応

2018年からメルセデス・ベンツ車(最初はAクラス)に搭載された対話型インフォテインメントシステムの「MBUX(メルセデス・ベンツ・ユーザー・エクスペリエンス)」がさらに進化した、というのも新型Sクラスの注目すべき点だ。

今回初めて、 前後あわせて計4席のどの席から、「ハイ、メルセデス」と、システム起動のための”発話”がなされたかをシステムが聞き分けるようになった。アンビエント・ライトでその席をハイライトしたうえで、発話者のゾーンのみ温度設定を変更出来たり、エンターテインメントシステムを操作出来たりするなど、細かい設定ができる。

LEDによる室内用のアンビエントライトは、先代の40個に対し、新型は、標準ボディで247個、ロングボディーで263個へと、大幅に増やされ、先代比10倍の明るさを実現したという。

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パノラミックスライディングルーフは標準。

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運転者のジェスチャーでさまざまな操作を可能にする「MBUXインテリア・アシスタント」がEクラスに続いて搭載されている。指のVサインによって、プリセットされた操作ができるシステムだ。さっとVサインを作ると、それを車内のカメラが読み取り、読書灯やサーチライトの オン・オフやパノラミックスライディングルーフとサンシェードの開閉もできる。

すごいのは、ドライバーがバックギアに入れて後ろを振り返ったとき。頭の動きをカメラがとらえて、リアウィンドウの電動ブラインド(を閉めていても)が自動で開くのだ。そのうち眼の動きやまだたきだけでも、ある程度はシステムが動かせるようになるだろう。

ブルメスターの15スピーカーで構成される3Dサラウンドシステムは標準。ロングボディにはオプションで「ブルメスター・ハイエンド・4Dサラウンド・サウンド・システム」も選べる。これは30個のスピーカー(1750W)で構成され、くわえて各シートに振動を伝達する「エキサイター」機能も搭載する。「シートの振動で音楽を表現」する、とのことだ。

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ラゲッジルーム容量は505リッター。

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ラゲッジルームのフロア下には小物入れ付き。

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新型Eクラスで話題を集めた「ARナビゲーション」も進化した。ARは(ご存知のように)拡張現実のことで、カメラによるリアルタイムの映像に、進むべき方向を示す矢印が、まるでアニメーションのように重ねられるのだ。

大型ヘッドアップディスプレイにもこのシステムの表示は組み込まれていて、ナビゲーションシステムを頼りに知らない道を走るさいに、おおいに助けになる。ただし運転しながら、生き物のように動く矢印を眼で追うのは少々疲れるかもしれない。助手席のひとに任せておこう。

ナビゲーション・システムでは、新型Eクラスに次いでAR(Augmented Reality = 拡張現実)機能が搭載された。従来は、目的地を設定して行先案内をする場合、地図上に進むべき道路が、ハイライトされただけだったが、新型Sクラスでは、それに加えて、車両の前面に広がる現実の景色がナビゲーション画面の一部に映し出され、その進むべき道路に矢印が表示される。

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そういえば、日本法人であるメルセデス・ベンツ日本が、「これも注目です」(広報担当者)と、強調したのが、モニター画面でチェックできる花粉情報。ウェザーニュースの情報を使い、地図上で地域ごとの花粉の濃淡がわかるようになっている。もしこれにナビゲーションの案内が連動して、“花粉の濃いところを避けたルート”などという選択が将来できるようになったら、花粉症に悩まされている私などはたいへん嬉しい。

快適すぎるリアシート

そういえば、試乗車は通常モデルより110mmも長いホイールベースを持つ「ロング」ボディであり、後席では助手席後ろの席に乗るひとのために「リアコンフォートパッケージ」をオプションで選べる。

オプションのリアコンフォートパッケージ(125万円)装着車のリアシート(助手席側)は、フットレスト付きになる。

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リアコンフォートパッケージにはリアシート用SRSエアバッグも含まれる。

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リアエンターテインメントシステム用のワイヤレスヘットフォン。

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ボタン操作で、バックレストが大きく倒れ、同時にサイドウィンドウのブラインドが上がる。バックレストが倒れる角度はロングボディで43.5°、ショートボディでも37°にもおよぶそうだ。たしかに、眠くてしようがないときなど、楽チンな移動が楽しめる。

移動をさらに楽しめるようリアシート用エンターテインメントシステムやエアコン、マッサージ機能なども搭載する。

リアコンフォートパッケージに含まれる11.6インチのリアエンターテインメントシステム。

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リアシート用タブレットも搭載。手元で各種操作が出来る。

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リアシートのセンターアームレスト内には、スマートフォンのワイヤレス・チャージング機能付き。

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リアシート用エアコンは標準。

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しかも、左右リアシート用のエアバッグもあるので、安全性も大幅に高まった。至れり尽くせりである。

試乗した「S500 4MATICロング」の価格は1724万円。「S400d 4MATIC」は1293万円、「S500 4MATIC」は1375万円、「S400d 4MATICロング」は1678万円だ。「AMGラインベース」などオプション装備を事前に盛り込んだ「ファーストエディション」も「S500」の2つのモデル(標準とロング)に用意される。

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