ライバル多し
XT4は群雄割拠のSUV市場においても最も競争の激しいC〜Dセグメント系のカテゴリーに投入されたモデルだ。同時に、日本においてはキャデラックのブランドエントリーを担うことにもなる。
ボディは全長4605✕全幅1875✕全高1625mm。この車格感から測れば、近似値を持つのはメルセデスの「GLCクラス」、BMWの「X3」、アウディの「Q3」、レクサスの「NX」、ボルボの「XC60」辺りになるだろう。ブランドステータスからみればジャガーの「Eペイス」も肩を並べそうであるものの、比べれば全長が短く全幅が広いというやや特殊なプロポーションとなっている。いずれにせよ、ずらり居並ぶのは会社の屋台骨を担うモデルたちだ。
この中でXT4に期待されることといえば、精緻な内外装の作り込みとか、SUVの常識を覆すハンドリングとか、そういう方角とは異なるアメリカ的なラグジュアリーらしい鷹揚さというかユルさではないだろうか……と、そういう先入観で向き合ってみると色々な面で驚かされる。
日本仕様に準じてみると、XT4のグレード展開は価格順にプレミアム、スポーツ、プラチナムの3つ。プレミアムとプラチナムの装備差はタイヤサイズや大型サンルーフ、液晶メーターパネルなどで、その違いはさほど大きくはない。先進安全装備もあらかたのものは同等に装備されるが、プレミアムはアダプティブ・クルーズ・コントロールとヘッドアップディスプレイが未搭載だ。
スポーツはモール類の加飾がブラック基調になり、電子制御可変ダンパーによって走りが色づけられていることが特徴となる。オプション設定される装備はなく、スポーツとプラチナムについては満艦飾であると思ってもらって構わないだろう。
横置きに搭載されるエンジンは2.0リッター直列4気筒ガソリン直噴ターボで、最高出力は230ps、最大トルクは350Nmを発揮する。このスペック自体はライバルと居並ぶものだが、XT4の場合は巡航などの低負荷時に2気筒ぶんを休止する「シリンダーオンデマンド機能」が搭載されているのが特徴だ。くわえて組み合わせられるトランスミッションは9ATで、悪路走行にも高速巡航にも効くワイドなギア比を実現している。
全グレードで採用される4WDは前後に配されるクラッチをドライブモードに応じて制御するツインクラッチAWDで、駆動配分は100:0、つまり前後を繋ぐプロペラシャフトもまわさない完全なFWD(前輪駆動)状態を基本として、最大50:50、つまり50%の駆動力を後輪側へと展開出来る。
さらに後軸のクラッチはその駆動力を左右輪へと適切に展開することが可能。悪路脱出時でもコーナー旋回時でも積極的に左右輪を差動させる。
質感上々
“アメ車”といえば静的質感がパッとしないとお思いの人もいるかもしれないが、XT4の内装の作り込みはライバルのアベレージに比肩するものだ。ダッシュボードや樹脂パネルのシボ感、ソフトパッドやメタリックパーツの仕上げ、配される本杢オーナメントの艶やかさなど、要所はしっかりと押さえられている。
装備面でもBOSEの13スピーカーサラウンドサウンドシステムや常に最新の地図情報が反映されるクラウドストリーミングナビなどは全グレードで標準。Apple CarPlayやAndroid Autoとの連携も万全で、エンターテインメント性に関してもまったく不満はない。これらに鑑みた上でライバルとの価格差をはかるに、コストパフォーマンスは納得出来る範疇にある。
右ハンドル地域の仕向地需要が少ないこともあって、日本市場では左ハンドルのみの展開になるのはほかのモデルにも共通するキャデラックの弱点だ。が、この点を除けばXT4の扱いに特別なことは何もない。
ライバルも含め、この車格になると込み入った街中での取りまわしも自在とは言えないが、XT4にはそれをフォローするサラウンドビューモニターもクリアランスソナーも標準で用意されている。
そして、これらのセンサーが感知したアラートを、ビープ音だけでなくシートの振動やモニター画像なども通じて多面的に伝えてくれるところも親切だ。監督官庁や消費者団体の反応が販売を大きく左右するアメリカのクルマは、こと安全性については日欧のクルマより入念に考えられている、という点もある。
先進安全装備で驚かされたのはアダプティブ・クルーズ・コントロールの前車追従ぶりだ。設定した車間をビタビタにキープしながらの走りっぷりで、渋滞の首都高のように左右からの車線変更にも気遣う状況でも充分に通用するものとなっている。
ゆったりした時の流れを楽しもう
1760〜1780kgと軽くはない車重でありながらも、XT4の走りはなかなか軽快で、アクセル操作に対するクルマの応答性も元気がいい。ごく低回転域からきっちりトルクが盛られた4気筒ユニットに9ATの組み合わせがそれを巧くフォローする。
高回転域は近頃の直噴ターボにありがちな、トップエンドの伸び感が今ひとつ寂しいものだ。が、クルマの性格的にはエンジンをギャンギャンまわして走らせる類のものではない。そう考えられるなら充分リーズナブルにまとまっていると思う。
細かな凹凸は巧くなましつつ、大きな入力はしっかりと吸収して上屋を余計に動かさない。足まわりのフラットなキャラクターは欧州のライバルを思わせる。
確かに近年のキャデラックは、ドイツの御三家のライバルを上まわるほど締められたサスでコーナーを大好物とするような、時にそんなダイナミクスのモデルも送り出したりするが、XT4は低中速域でのゆったりとおおらかな動きと、高速時のロールを抑えて引き締まった旋回感とを巧く両建てしているようだ。
今日的な洗練された速さだけではなく、キャデラックらしくゆったりした時の流れも楽しめる……。
そんなコンパクトSUVに仕上がっていると思う。
文・渡辺敏史 写真・安井宏充(Weekend.)