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時の流れに身をまかせ──新型キャデラックXT4試乗記

キャデラック初のコンパクトSUV「XT4」に渡辺敏史が試乗した。その印象とは?
キャデラック Cadillac XT4 SUV XT5 アメ車 4WD
Hiromitsu Yasui
キャデラック Cadillac XT4 SUV XT5 アメ車 4WD
ギャラリー:時の流れに身をまかせ──新型キャデラックXT4試乗記
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ライバル多し

XT4は群雄割拠のSUV市場においても最も競争の激しいC〜Dセグメント系のカテゴリーに投入されたモデルだ。同時に、日本においてはキャデラックのブランドエントリーを担うことにもなる。

ボディは全長4605✕全幅1875✕全高1625mm。この車格感から測れば、近似値を持つのはメルセデスの「GLCクラス」、BMWの「X3」、アウディの「Q3」、レクサスの「NX」、ボルボの「XC60」辺りになるだろう。ブランドステータスからみればジャガーの「Eペイス」も肩を並べそうであるものの、比べれば全長が短く全幅が広いというやや特殊なプロポーションとなっている。いずれにせよ、ずらり居並ぶのは会社の屋台骨を担うモデルたちだ。

【主要諸元(プラチナム)】全長×全幅×全高:4605×1875×1625mm、ホイールベース2775mm、車両重量1780kg、乗車定員5名、エンジン1997cc直列4気筒DOHCガソリンターボ(230ps/5000rpm、350Nm/1500〜4000rpm)、トランスミッション9AT、駆動方式4WD、タイヤ245/45R20、価格670万円(OP含まず)。

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アルミホイールはエントリーモデルが18インチ、それ以外は20インチになる。

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この中でXT4に期待されることといえば、精緻な内外装の作り込みとか、SUVの常識を覆すハンドリングとか、そういう方角とは異なるアメリカ的なラグジュアリーらしい鷹揚さというかユルさではないだろうか……と、そういう先入観で向き合ってみると色々な面で驚かされる。

日本仕様に準じてみると、XT4のグレード展開は価格順にプレミアム、スポーツ、プラチナムの3つ。プレミアムとプラチナムの装備差はタイヤサイズや大型サンルーフ、液晶メーターパネルなどで、その違いはさほど大きくはない。先進安全装備もあらかたのものは同等に装備されるが、プレミアムはアダプティブ・クルーズ・コントロールとヘッドアップディスプレイが未搭載だ。

搭載するエンジンは2.0リッター直列4気筒ガソリンターボで、最高出力230ps/5000rpmと最大トルク350Nm/1500〜4000rpmを発揮する。低負荷時に2気筒を休止する「アクティブフューエルマネジメントシステム」を搭載し、燃費向上を図っている。

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組み合わされるトランスミッションは9ATだ。

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スポーツはモール類の加飾がブラック基調になり、電子制御可変ダンパーによって走りが色づけられていることが特徴となる。オプション設定される装備はなく、スポーツとプラチナムについては満艦飾であると思ってもらって構わないだろう。

横置きに搭載されるエンジンは2.0リッター直列4気筒ガソリン直噴ターボで、最高出力は230ps、最大トルクは350Nmを発揮する。このスペック自体はライバルと居並ぶものだが、XT4の場合は巡航などの低負荷時に2気筒ぶんを休止する「シリンダーオンデマンド機能」が搭載されているのが特徴だ。くわえて組み合わせられるトランスミッションは9ATで、悪路走行にも高速巡航にも効くワイドなギア比を実現している。

ボディは全長×全幅×全高:4605×1875×1625mm。サイズの近しいモデルとしてはボルボ「XC60」(4690×1940×1660mm)やメルセデス「GLCクラス」(4680mm×1890mm×1655mm)などがある。ボルボやメルセデスがコンパクトSUVとうたう「XC40」(4425×1875×1660mm)や「GLAクラス」(4440mm×1859mm×1605mm)に比べると、より大きい。

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インパネ上部には8インチのインフォテインメントディスプレイを設置、Apple CarPlayやAndroid Autoなどスマートフォンと連携するほか、ゼネラルモーターズ・ジャパンがゼンリンデータコムと共同開発した完全通信車載ナビゲーションシステム「クラウドストリーミングナビ」も全車に搭載している。クラウドストリーミングナビは、常に最新の地図をストリーミングする。

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360°カメラも搭載。

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全グレードで採用される4WDは前後に配されるクラッチをドライブモードに応じて制御するツインクラッチAWDで、駆動配分は100:0、つまり前後を繋ぐプロペラシャフトもまわさない完全なFWD(前輪駆動)状態を基本として、最大50:50、つまり50%の駆動力を後輪側へと展開出来る。

さらに後軸のクラッチはその駆動力を左右輪へと適切に展開することが可能。悪路脱出時でもコーナー旋回時でも積極的に左右輪を差動させる。

センター・コンソールにはワイヤレス・チャージング機能も備わる。

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BOSEの13スピーカー・システムも標準。

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電動パノラミックルーフは標準。

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質感上々

“アメ車”といえば静的質感がパッとしないとお思いの人もいるかもしれないが、XT4の内装の作り込みはライバルのアベレージに比肩するものだ。ダッシュボードや樹脂パネルのシボ感、ソフトパッドやメタリックパーツの仕上げ、配される本杢オーナメントの艶やかさなど、要所はしっかりと押さえられている。

装備面でもBOSEの13スピーカーサラウンドサウンドシステムや常に最新の地図情報が反映されるクラウドストリーミングナビなどは全グレードで標準。Apple CarPlayAndroid Autoとの連携も万全で、エンターテインメント性に関してもまったく不満はない。これらに鑑みた上でライバルとの価格差をはかるに、コストパフォーマンスは納得出来る範疇にある。

ハンドル位置は左のみ。

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電動調整式の本革シート(前後ヒーター機構付き)は全車標準だ。

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マッサージ機構も備わる。

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右ハンドル地域の仕向地需要が少ないこともあって、日本市場では左ハンドルのみの展開になるのはほかのモデルにも共通するキャデラックの弱点だ。が、この点を除けばXT4の扱いに特別なことは何もない。

ライバルも含め、この車格になると込み入った街中での取りまわしも自在とは言えないが、XT4にはそれをフォローするサラウンドビューモニターもクリアランスソナーも標準で用意されている。

リアシートはセンターアムレスト&ヒーター機構付き。レッグスペースは、クラストップレベルの広さをうたう。

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リアシート用エアコン吹き出し口やUSBポートも備わる。

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そして、これらのセンサーが感知したアラートを、ビープ音だけでなくシートの振動やモニター画像なども通じて多面的に伝えてくれるところも親切だ。監督官庁や消費者団体の反応が販売を大きく左右するアメリカのクルマは、こと安全性については日欧のクルマより入念に考えられている、という点もある。

先進安全装備で驚かされたのはアダプティブ・クルーズ・コントロールの前車追従ぶりだ。設定した車間をビタビタにキープしながらの走りっぷりで、渋滞の首都高のように左右からの車線変更にも気遣う状況でも充分に通用するものとなっている。

電動テールゲートは全車標準。

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リアシートは40:60の分割可倒式。

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ラゲッジルーム下には小物入れもある。

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ゆったりした時の流れを楽しもう

1760〜1780kgと軽くはない車重でありながらも、XT4の走りはなかなか軽快で、アクセル操作に対するクルマの応答性も元気がいい。ごく低回転域からきっちりトルクが盛られた4気筒ユニットに9ATの組み合わせがそれを巧くフォローする。

高回転域は近頃の直噴ターボにありがちな、トップエンドの伸び感が今ひとつ寂しいものだ。が、クルマの性格的にはエンジンをギャンギャンまわして走らせる類のものではない。そう考えられるなら充分リーズナブルにまとまっていると思う。

外装は、キャデラックの若手デザインチームが手がけたという。フロントまわりは、大型のグリルやシャープなLEDヘッドライトが、上級車種の「XT5」や「XT6」などとおなじ新世代キャデラックであることを主張する。

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ステアリング・ホイールは全車ヒーター機構付き。

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デジタルタイプのルームミラーは標準。

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細かな凹凸は巧くなましつつ、大きな入力はしっかりと吸収して上屋を余計に動かさない。足まわりのフラットなキャラクターは欧州のライバルを思わせる。

確かに近年のキャデラックは、ドイツの御三家のライバルを上まわるほど締められたサスでコーナーを大好物とするような、時にそんなダイナミクスのモデルも送り出したりするが、XT4は低中速域でのゆったりとおおらかな動きと、高速時のロールを抑えて引き締まった旋回感とを巧く両建てしているようだ。

アダプティブ・クルーズ・コントロールやレーン・キープ・アシストといった運転支援システムは標準。

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フルカラーのインフォメーションディスプレイを中央に配したメーター。表示は日本語だ。

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今日的な洗練された速さだけではなく、キャデラックらしくゆったりした時の流れも楽しめる……。

そんなコンパクトSUVに仕上がっていると思う。

文・渡辺敏史 写真・安井宏充(Weekend.)