ここで乗ったのは、「LS500h Fスポーツ」。LSには後席を重視した「エグゼクティブ」や「バージョンL」とともに、スポーティ仕様の「Fスポーツ」が設定されている。タイヤの径がワンサイズ大きくなり、かつ前後輪で異なるサイズに。専用ダンパーが装着され、独自の変速制御など、細かく手が入っている。
どうして日本のひとたちは、メルセデス・ベンツでもBMWでもアウディでもボルボでも、スポーツ仕様を好むのか? たいてい足まわりが硬くて、個人的にはいまひとつ、というのが正直な感想だ。しかし、LSははっきりいって、Fスポーツがいい。かんたんな言葉でいうと、ビシッとしている。
原点回帰
発表当初のLSは、足まわりの設定でちょっと苦労していた感がある。エグゼクティブの後席などはとくに、頭がぐらぐらと動いてしまい、コンフォートの味付けってむずかしいなぁという印象を受けた。いっぽう、Fスポーツは逆にかなり硬め。スポーティで鳴らすBMWの「7シリーズ」にも、ここまでのものはないなぁ、と、思ったものだ。
がぜんよくなったのが、2019年秋のマイナーチェンジからだ。2019年にレクサスインターナショナルのプレジデントに就任した技術畑出身の佐藤恒治氏が、「うんと改善してみせます」と、その前に”宣言”したとおりの出来になった。いや、なった、とはレクサスの技術者は言わない。なりつつある、というのだ。
なりつつある、と、現在進行形を使うのは、佐藤プレジデントが提唱する「Always On」の態勢によるもの。一般的に自動車界では年次改良(年ごとの改良)というが、レクサスでは”つねに変えるべきところを変える”、と意気込み、年次改良ではさまざまな部分に手を入れる。
今回のLSも同様だ。2019年にサスペンションシステムに手を入れたものの、さらに改良を施した。「ここでよし! というゴールはないんです」と、開発を担当した製品企画主幹の岩田裕一氏は言っていた。
今回のマイナーチェンジの眼目は、乗り心地と静粛性の向上。足まわりが大きく見直された。タイヤはランフラットタイプを継続するものの、サイドウォールの縦方向のたわみを見直したという。ダンパーの設定も変更している。
「考えたのは、原点回帰です。1989年に初代LS(日本名セルシオ)を発表したとき、私たちが提供したいと思った価値はなんだったのだろう? なぜ市場で歓迎されたのだろう? と、振り返ってみて、そこから、乗り心地と静粛性をさらに向上させることにしました」(前出・岩田氏)
ドイツ車との比較は個性的か否かをチェック
あたらしいLSは、たしかに足まわりがよく出来ている。低速では路面の凹凸をきれいに吸収するし、いっぽう速度を出すと、車体はゆるやかに上下動してもドライバーの目線は一定。カーブではきれいに曲がる。
ステアリング・ホイールを切り込むと、すっと車体が向きを変える。いっぽう、車体はややゆっくりとロールしていく。「この”ゆっくり”がキモです」と、言うのは、レクサスインターナショナルで商品実験部チーフエキスパートを務める伊藤好章氏だ。
「(初期の)レスポンスは大事。もうひとつ大事なのは、どう車体を動かすか。ドライバ−とクルマが”対話”できるように……、と考えながらセッティングを煮詰めました」と、述べる。
試乗したFスポーツは、LSのラインナップのなかではスポーティモデルだ。ロール制御をはじめ、サスペンションの設定、それにやたら速すぎないようにしたという加速感などが特徴だ。
「私たちがいま、ドイツのライバル車と比較試乗するのは、いかに違った個性を持つクルマに仕上がっているか? を、確認する作業のためです」と、レクサスで車両性能開発を統括する水野陽一氏は述べた。
魅力的なセダン
アクセルペダルへの反応もいい。すっと出ていく。ハイブリッドのモーターの微調整がうまいのだろう。乗員の頭が揺すられるような乱暴な加速はいっさいない。そこからスムーズに加速していく。加速にも質感が大事だということを、あらためて教えてくれるのだ。
繊細なフィールのステアリング・ホイールと、反応が速い車体とのバランスのとりかたもよい。くわえて、ホールド性のよいシートと、握りのよい革巻きのステアリングホイールとが、ドライブに一体感をもたらしているようだ。Fスポーツではすべてがひとつになっていると感じられる。
自分で運転するなら、「バージョンL」も捨てがたい。すこし足まわりのセッティングがソフトで、それにうまく合わせたステアリングフィールが、Fスポーツとは異なるドライブの楽しさを味わわせくれる。もちろんおなじではないけれど、ロールス・ロイス「ファントム」の操縦感覚を思い出してしまったほどだ。
LS500は「Iパッケージ」の1073万円(後輪駆動モデル)から。LS500hは同モデルの1219万円(同)からとなっている。今回のLS500h Fスポーツ(後輪駆動)は1351万円だ。
セダンの魅力が感じられるプロダクトにあらためて注目してもいい。
文・小川フミオ 写真・安井宏充(Weekend.)