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セルシオの感動をもう1度──新型レクサスLS500h試乗記

マイナーチェンジを受けたレクサスのフラグシップ「LS」に、小川フミオが試乗した。印象はいかに?
レクサス LEXUS LS セルシオ CELSIOR トヨタ TOYOTA クラウン
Hiromitsu Yasui

各所に手のはいったスポーティ仕様

レクサスがフラッグシップ「LS」のマイナーチェンジを実施し、2020年11月19日に販売を開始した。ご存知のとおり、全長5.2mの余裕あるサイズのセダンである。SUVがトレンドのいまでも“セダンはクルマの王道”と言いきる開発者(たち)が気持ちを込めて作りあげた。納得できる完成度のモデルだ。

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現行レクサスLSは2017年10月にデビューした。パワーユニットは2本立てだ。3.5リッターV型6気筒ガソリンツインターボ・エンジンの「LS500」と、3.5リッターV6ガソリン・エンジンに電気モーターを組み合わせたハイブリッド仕様の「LS500h」である。

【主要諸元(Fスポーツ)】全長×全幅×全高:5235×1900×1450mm、ホイールベース3125mm、車両重量2260kg、乗車定員5名、エンジン3456ccV型6気筒DOHCガソリン(299ps/6600rpm、356Nm/5100rpm)+モーター(132kw/300Nm)、トランスミッション電気式無段変速機、駆動方式RWD、タイヤ(フロント)245/45RF20(リア)275/40RF20、価格1351万円(OP含まず)。

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Fスポーツのアルミホイールは専用のブラックタイプになる。

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ここで乗ったのは、「LS500h Fスポーツ」。LSには後席を重視した「エグゼクティブ」や「バージョンL」とともに、スポーティ仕様の「Fスポーツ」が設定されている。タイヤの径がワンサイズ大きくなり、かつ前後輪で異なるサイズに。専用ダンパーが装着され、独自の変速制御など、細かく手が入っている。

どうして日本のひとたちは、メルセデス・ベンツでもBMWでもアウディでもボルボでも、スポーツ仕様を好むのか? たいてい足まわりが硬くて、個人的にはいまひとつ、というのが正直な感想だ。しかし、LSははっきりいって、Fスポーツがいい。かんたんな言葉でいうと、ビシッとしている。

ヘッドライトは、新意匠の小型3眼ランプユニットとL字を際立たせたクリアランスランプを採用した。

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エクステリアは、前後のデザインを一部変更した。フロントまわりは、新意匠のヘッドランプを採用。レクサスの頭文字である「L」を強調したデザインだ。「スピンドルグリル」と呼ぶフロントグリルは、メッシュカラーをダークメタリックにした。「よりフォーマルなシーンにも配慮した上品さを表現した」と、メディア向け資料には記されている。

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原点回帰

発表当初のLSは、足まわりの設定でちょっと苦労していた感がある。エグゼクティブの後席などはとくに、頭がぐらぐらと動いてしまい、コンフォートの味付けってむずかしいなぁという印象を受けた。いっぽう、Fスポーツは逆にかなり硬め。スポーティで鳴らすBMWの「7シリーズ」にも、ここまでのものはないなぁ、と、思ったものだ。

がぜんよくなったのが、2019年秋のマイナーチェンジからだ。2019年にレクサスインターナショナルのプレジデントに就任した技術畑出身の佐藤恒治氏が、「うんと改善してみせます」と、その前に”宣言”したとおりの出来になった。いや、なった、とはレクサスの技術者は言わない。なりつつある、というのだ。

今回の改良では初代LS(日本名:セルシオ)が追求した静粛性および快適な乗り心地に徹底的にこだわったという。

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搭載するパワーユニットは3456ccV型6気筒DOHCガソリン(299ps/6600rpm、356Nm/5100rpm)+モーター(132kw/300Nm)。

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ステアリング・ホイールはFスポーツ専用デザイン。

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なりつつある、と、現在進行形を使うのは、佐藤プレジデントが提唱する「Always On」の態勢によるもの。一般的に自動車界では年次改良(年ごとの改良)というが、レクサスでは”つねに変えるべきところを変える”、と意気込み、年次改良ではさまざまな部分に手を入れる。

今回のLSも同様だ。2019年にサスペンションシステムに手を入れたものの、さらに改良を施した。「ここでよし! というゴールはないんです」と、開発を担当した製品企画主幹の岩田裕一氏は言っていた。

足まわりは、電子制御式可変ダンパー「AVS(Adaptive Variable Suspension system)」が改良された。減衰力の可変幅が拡大し、優れた操舵応答性と安定性を獲得したという。

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トランスミッションは電気式無段変速機。

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センターコンソールには、使用頻度の高いシート・ヒーターとステアリング・ヒーターの操作画面をインフォテインメント・ディスプレイに表示できるスウィッチが新設された。

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今回のマイナーチェンジの眼目は、乗り心地と静粛性の向上。足まわりが大きく見直された。タイヤはランフラットタイプを継続するものの、サイドウォールの縦方向のたわみを見直したという。ダンパーの設定も変更している。

「考えたのは、原点回帰です。1989年に初代LS(日本名セルシオ)を発表したとき、私たちが提供したいと思った価値はなんだったのだろう? なぜ市場で歓迎されたのだろう? と、振り返ってみて、そこから、乗り心地と静粛性をさらに向上させることにしました」(前出・岩田氏)

ランフラットタイヤの縦バネ剛性、スタビライザーバーのばね定数なども最適化された。

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デジタルタイプのルームミラーも設定された。

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2WD車は、フロントサスペンションの材質変更などによってバネ下質量を約3.5kg軽量化。乗り心地が向上したとうたう。

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ドイツ車との比較は個性的か否かをチェック

あたらしいLSは、たしかに足まわりがよく出来ている。低速では路面の凹凸をきれいに吸収するし、いっぽう速度を出すと、車体はゆるやかに上下動してもドライバーの目線は一定。カーブではきれいに曲がる。

ステアリング・ホイールを切り込むと、すっと車体が向きを変える。いっぽう、車体はややゆっくりとロールしていく。「この”ゆっくり”がキモです」と、言うのは、レクサスインターナショナルで商品実験部チーフエキスパートを務める伊藤好章氏だ。

インテリアは、ステアリング・ホイールとセンターコンソールのスウィッチ類をブラックで統一。

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フルデジタルのメーターはFスポーツ専用デザイン。

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インパネ上部の12.3インチのモニターは、タッチディスプレイ化され、あわせてAndroid AutoおよびApple CarPlayなどのスマートフォンと連携した。

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「(初期の)レスポンスは大事。もうひとつ大事なのは、どう車体を動かすか。ドライバ−とクルマが”対話”できるように……、と考えながらセッティングを煮詰めました」と、述べる。

試乗したFスポーツは、LSのラインナップのなかではスポーティモデルだ。ロール制御をはじめ、サスペンションの設定、それにやたら速すぎないようにしたという加速感などが特徴だ。

「私たちがいま、ドイツのライバル車と比較試乗するのは、いかに違った個性を持つクルマに仕上がっているか? を、確認する作業のためです」と、レクサスで車両性能開発を統括する水野陽一氏は述べた。

新技術の「Advanced Park」は、従来の駐車支援システム以上に、ドライバーの負担を軽減する。カメラと超音波センサーからの情報を総合して全周囲を監視し、駐車操作を支援。ハンドル操作、アクセル、ブレーキ、ギア・チェンジの全操作を車両が支援するとともに、俯瞰映像には切り返し位置や目標駐車位置を常に表示するという。

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マークレビンソンのリファレンス3Dサラウンドサウンドシステムは29万1500円のオプション。

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魅力的なセダン

アクセルペダルへの反応もいい。すっと出ていく。ハイブリッドのモーターの微調整がうまいのだろう。乗員の頭が揺すられるような乱暴な加速はいっさいない。そこからスムーズに加速していく。加速にも質感が大事だということを、あらためて教えてくれるのだ。

繊細なフィールのステアリング・ホイールと、反応が速い車体とのバランスのとりかたもよい。くわえて、ホールド性のよいシートと、握りのよい革巻きのステアリングホイールとが、ドライブに一体感をもたらしているようだ。Fスポーツではすべてがひとつになっていると感じられる。

Fスポーツ専用のシート。

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Fスポーツのリアシートは固定式。

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センターアームレストにはリアシートヒーターやリアサンシェードのスウィッチがある。

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自分で運転するなら、「バージョンL」も捨てがたい。すこし足まわりのセッティングがソフトで、それにうまく合わせたステアリングフィールが、Fスポーツとは異なるドライブの楽しさを味わわせくれる。もちろんおなじではないけれど、ロールス・ロイス「ファントム」の操縦感覚を思い出してしまったほどだ。

LS500は「Iパッケージ」の1073万円(後輪駆動モデル)から。LS500hは同モデルの1219万円(同)からとなっている。今回のLS500h Fスポーツ(後輪駆動)は1351万円だ。

セダンの魅力が感じられるプロダクトにあらためて注目してもいい。

ラゲッジルームには9.5インチのゴルフバッグを4個積める。

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ラゲッジルームのフロア下には、ほんのわずかな小物入れがある。

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文・小川フミオ 写真・安井宏充(Weekend.)