あなたはどこまで笑っていられるか?
宇宙から迫る地球滅亡級の脅威を前にして、人類が争いをやめ、各国政府は何よりも人命を優先し、一致団結して勇敢に脅威に立ち向かうなんていうのは、『インデペンデンス・デイ』(1996)のなかだけの話かもしれないと、ここ2年ほどのコロナ禍でわたしたちは思い知らされてしまった。『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(2015)、『バイス』(2018)など、これまでも辛辣なコメディを送り出してきたアダム・マッケイの最新作は、過去作のどれにもまして痛烈だ。
米・ミシガン州立大学で天文学を研究する大学院生のケイト・ディビアスキー(ジェニファー・ローレンス)とランドール・ミンディ教授(レオナルド・ディカプリオ)は、エベレスト山ほどもの大きさのある巨大な彗星が、地球に向かっていることを発見する。衝突はおよそ半年後。人類を含めて地球上のすべての生命が滅亡してしまうだろう。これを回避すべく、ふたりはオグルソープ博士(ロブ・モーガン)の協力を得てホワイトハウスへ向かうが、中間選挙と最高裁判事候補のスキャンダルで頭がいっぱいの大統領(メリル・ストリープ)は、よくある陳情のひとつだとまったく取り合わない。
そこで、ブリー(ケイト・ブランシェット)とジャック(タイラー・ペリー)が司会を務める朝の人気テレビ番組に出演するも、陽気なトークでまぜっかえされてしまい、たまりかねて「みんな死んじゃうのよ!」と叫んだケイトの顔は、ネットミームになって拡散される始末。やがて、スキャンダルからの失地回復をねらう大統領が、とうとう彗星対策へと乗り出すのだが、IT業界のカリスマCEO(マーク・ライランス)の介入で、事態は再びとんでもない方向へ……!
彗星の衝突可能性がメディアを介して広まるにつれ、SNSもリアル世界も狂騒状態を呈しはじめる。確かに、こんな恐ろしいことを事実だと認めて正面から向き合ったら気が狂いそうだから、わたしだって現実から全力で目をそらそうとするだろう。それにしてもこれはなんというか、この世のあらゆる軽薄さを集めて煮詰めたような状態だ。さらに、彗星の存在そのものを否定する一派も出現し、国は分断され……と、既視感ありありの状況が展開されていく。
これはコメディ映画であり、確かに滑稽なエピソードで構成されているのだけれど、どこまで笑っていられるか(あるいは、どこなら笑えるか)、耐性を試されているかのようだ。キューブリックの『博士の異常な愛情』(1964)を同時代に観た人たちもそうだったのだろうか?
アダム・マッケイらしく「じっとしていない映画」でもある。複数の場面が同時進行し、絶えずカットバックされてたたみかける。オープニングタイトルのデザインと音楽もカッコいい。また、Netflixが今回もものすごいプロデュース力を発揮していて、上のあらすじ紹介からお察しのとおり、たいへん豪華なオールスターキャストだ。
アリアナ・グランデとキッド・カディ(クレジットは俳優名である本名のスコット・メスカディ)も出演者に名を連ね、ステージ・パフォーマンスを披露。ヒラリーとトランプが合体したら悪魔合体になってしまった、みたいな大統領像を、ストリープが楽しそうに演じているのもまた恐ろしい。