スバルのSUVはマジメである──新型フォレスター・アドバンス試乗記

一部改良を受けたスバルのSUVの「フォレスター」に小川フミオが試乗した。印象はいかに?
スバル SUBARU FORESTER フォレスター ADVANCE アドバンス シンメトリカルAWD アイサイト 新世代アイサイト STI SUV
Hiromitsu Yasui

e-BOXER搭載

愛着の湧くものを“ガンガン”使い倒すようなライフスタイルが好きという人には、スバルSUVフォレスター」がいいと思う。最新モデルは、2021年8月に改良を受けて、乗り味がよくなっていた。

フォレスターは、全長4640mm、全高1715mmのボディに、スバルご自慢の水平対向エンジンと、シメトリカルAWD(全輪駆動)システムを組みわせる。500リッターを超える荷室容量を持つ四角いボディスタイルが、また機能性を強く感じさせてヨイ。

【主要諸元】全長×全幅×全高=4640×1815×1715mm、ホイールベース2670mm、車両重量1640kg、乗車定員5名、エンジン1995cc水平対向4気筒DOHCガソリン(145ps/6000rpm、188Nm/4000rpm)+モーター(10kW/65Nm)、トランスミッションCVT、駆動方式4WD、タイヤサイズ225/55R18、価格317万9000円。

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18インチホイールはアドバンス専用デザイン。サマータイヤを履く。

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私がもし、コテージを山のなかに持っていたら、冬に静謐(せいひつ)な時間を過ごすための相棒として、フォレスターがぴったりなような気がする。気がおけない、でも(オフロード性能が高いので)頼りになる相棒だからだ。存在感が度を超していないのが好感度大である。

試乗したのは、1995cc水平対向4気筒ガソリン・エンジンに、発進時などにトルクをおぎなうための電気モーターを組み込んだマイルド・ハイブリッド・システム搭載の「アドバンス」という、装備が豊富なモデルだ。

先進的なLEDヘッドランプに大型のヘキサゴングリル(フロントグリル)を組み合わせた、精悍で逞しいフロントフェイスが特徴だ。

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「e-BOXER」は、水平対向エンジンと電動技術を組み合わせたパワーユニット。エンジン駆動をベースに、エンジンとモーターを最適に制御。街なかから高速道路まで、さまざまなシーンで軽快な加速を提供する。制御の状況はマルチファンクションディスプレイで分かりやすく表示される。

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スバルでは、このシステムを「e-BOXER」と名づけている。“e”は電動を意味し、“BOXER”は英語で水平対向エンジンのこと。そういえばポルシェ「911」のエンジンもボクサーと呼ばれる。

現行の5代目フォレスターは、2018年に登場。先代とボディスタイルは近いものの、よりスッキリとした。シンプルさと力強さを感じさせるボディの面づくりは、個人的に好感度大である。

インテリアは、冒険心を刺激する機能的なデザインだ。

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今回のマイナーチェンジで、スタイリングに少々変更がくわえられた。グリルがやや大型化し、同時にグリルの枠をブラックに。メーカーによると「サイズ感を強調するため」だとか。

ヘッドランプも縦型のLEDウィンカーを組み込んだため、ひと目で新しいフォレスターと分かるようになっている。印象としては精悍さが増したかんじ。フロントバンパーの形状も変更された。

より快適になった巡航時の乗り心地

107kW(145ps)の最高出力と、188Nmの最大トルクの数値は従来から変わっていないものの、今回の「アドバンス」には、従来「Xブレーク」にのみ設定されていた「e-アクティブシフトコントロール」が搭載された。

走行モードシステム「SI-DRIVE」のスポーツモード選択じ、アクセルとブレーキ、ふたつのペダルの操作状況をパラメターとし、高めのエンジン回転を保つのが「e-アクティブシフトコントロール」だ。

「e-アクティブシフトコントロール」は。「SI-DRIVE」のスポーツモード選択時に、スポーティな走りをサポートする。コーナー進入時、アクセル・ブレーキの操作状況などからスポーティな走行と車両が判断した場合に制御を開始し、高いエンジン回転数によるコーナリングを維持。コーナー後はモーターアシストを作動させ力強い加速を実現するなど、ダイレクトな変速感覚が味わえる。

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スバルが理想のパワーユニットとして独自に磨き続けてきた「SUBARU BOXER」。左右対称に向き合ったピストンが水平方向に往復することで、互いの力を打ち消し合うため、振動が少なく、エンジンフィールは非常に滑らか。軽量・コンパクトで低重心な構造がもたらす運動性能の高さとも相まって、爽快な走りを愉しめる。

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コーナリングが不安定になるのを防ぎ、トルクバンドをしっかり維持するのが目的。さらに、コーナーを脱出していくときは、モーターを作動させ力強い加速をめざす。スバルでは「ダイレクトな変速感覚が味わえる」と謳う。

たしかに、カタログ上の数値は188Nmとやや控えめ。でも、運転すると、非力な印象はない。アドバンスはマイルド・ハイブリッド仕様なので、発進時は電気モーターのトルクが上乗せされる。アクセルペダルを軽くあおっただけで、力強く発進するのだ。

ダイレクトな加速フィールと優れた燃費性能を提供するCVT「リニアトロニック」。ワイドな変速範囲により、発進時はよりパワフルに、高速巡航時はより低燃費な走行を実現した。

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ステアリング・ホイールには走行モードやオーディオ、運転支援系のスイッチなどが並ぶ。

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加速初期のスピード感は、かなりのもの。もうすこしリニア、つまり加速が気持ちよく続いていく感覚があってもいいのに……と、思わないでもない。さすがに188Nmとやや控えめなトルク値なので、エンジン回転が上がっていくと加速感が鈍ってしまう。

ただし私の場合、直前に乗ったフォルクスワーゲン「ゴルフGTI」や「ゴルフTDI」と比較してそう思ったので、フォレスターの“味”にもすぐ慣れた。いちど慣れると、日常生活の常用域でのスピード感は悪くない。

WLTCモードは14.0km/L。

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フルカラーのインフォメーションディスプレイを中央に置いたメーター。

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今回のマイナーチェンジでは、サスペンション・システムにも手が入れられている。前輪がわのコイルスプリングでは荷重軸特性のチューニングをおこなって、サスペンションがストロークするとき、つまり伸びたり縮んだりするときの抵抗感を低減したそうだ。

車体が沈んだり浮き上がったりするときの動きをコントロールするダンパーも、減衰力の特性を最適化。はたして「さらなる乗り心地の向上を実現」と、謳うように、あきらかに巡航時の乗り心地は快適になっている。

アルミパッド付スポーツペダル(アクセル、ブレーキ、フットレスト)は標準。

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「X-MODE」は、路面状況に応じてモードを選択するだけで、4輪の駆動力やブレーキなどを適切にコントロールし、悪路からのスムーズな脱出をサポートする。フォレスターは車速に応じて制御の有無を自動的に切り替える機能を備え、使い勝手を向上させた。また、下り坂などで常に一定の車速を維持するヒルディセントコントロールも採用する。

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地道な進化

オフロード走行のために、ドライブモードには「X-MODE」なる、4輪の駆動力、ブレーキ、出力、変速比を統合的にコントロールするモードがそなわる。

従来は、車速が40km/h以上になるとX-MODEは自動的に解除されていた。新型フォレスターにおいては、解除でなく、機能がスタンバイ状態に。そのあと車速が35km/hを下回った時点で、X-MODEに自動で復帰する。雪とドライといったぐあいに路面がまだらになっているところで重宝しそうだ。

新しいフォレスターでは、広角化したステレオカメラや性能を高めたソフトウェアの採用などにより、これまで以上に幅広いシーンで安全運転をサポートする。

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高速道路や自動車専用道路における0km/h~約120km/hの幅広い車速域で、アクセル、ブレーキ、ステアリング操作をアシストする「ツーリンスアシスト」を搭載。区画線と先行車の両方を認識することで、渋滞から高速巡航まで、さまざまなシーンで運転負荷を大幅に軽減する。

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マルチファンクションディスプレイ上部に設置された専用カメラでドライバーを常に見守り、安全運転をサポートする「ドライバーモニタリングシステム (ジェスチャーコントロール機能付)」を搭載。走行中、一定時間以上目を閉じていたり、顔の向きを前方から大きく外したりするなど、ドライバーに眠気や不注意があるとシステムが判断した場合、警報音や警告表示で注意を喚起する。また、「おもてなし機能」も備え、ドライバーが乗車するとあらかじめ設定しておいたシートポジションやドアミラー角度、前回イグニッションOFFした際のマルチファンクションディスプレイ表示、エアコン設定などを自動的に再現してドライバーを迎える。さらにフォレスターでは、エアコンの設定温度をジェスチャーで調整できる機能を採用した。

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車内の騒音レベルも抑えられていて、高速走行もぐっと気持ちよくなった。なにかを我慢しなくてはならないかんじは、払拭されている。「新世代アイサイト」の搭載も目玉だ。

「プリクラッシュブレーキ」「車線逸脱抑制機能」、それに、車線中央維持制御と先行車追従操舵制御と全車速追従機能付クルーズコントロールからなる「アイサイト・ツーリングアシスト」「緊急時プリクラッシュステアリング」「エマージェンシーレーンキープアシスト」などがそなわった。

試乗車のシート表皮はオプションのナッパレザーだった。

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大型サンルーフ(電動スライド式)はオプション。

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フォレスターでは以前から一部モデルに、室内カメラを搭載し、「ドライバーモニタリング機能」をもたせていた。ドライバー識別も行い、ドライビングポジションなど登録できる設定のとおり、設定を自動で変更する便利なものだ。

今回はさらに、エアコンの設定温度をジェスチャーで調整できる機能が追加された。これがおもしろくて、ダッシュボード上に設置されたカメラに向かってパーを出すと、エアコンの設定温度が上がり、グーだと今度は下がる、というぐあい。

リアシートはリクライニング機構付き。

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アドバンスはフロントに加えリアシートにもヒーター機構が付く。

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通常のラゲッジルーム容量は509リッター。

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リアシートのバックレストは、ラゲッジルームのサイドにあるスイッチ操作で、簡単に前へ倒すことができます。

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ラゲッジルームの床下にある「カーゴフロアマルチボックス」。かさばる小物や汚れた荷物を、すっきり収納できる。

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大きな荷物や長尺物を積みたい時は、60:40分割可倒式リアシートによって荷室を自在に拡張できる。

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室内のスマートリヤビューミラーは、画素数が増えたので、後方視界がよりクリアになった。ディスプレイ(室内のリアビューミラーにあたるもの)に表示されるカメラ画角を拡大したことで、視認できる範囲を広げたのも、使い勝手の向上に役立っているのだ。

フォレスター・アドバンスの価格は317万9000円。細かい改良によって使い勝手がさらに高まった本格派SUVは、実にマジメな1台だった。