東京から福岡までノンストップ!?
ちょっとユーモラスなデザインが目をひくビジョンEQXXは、メルセデス・ベンツの最新テクノロジーをたっぷり盛り込んだ次世代のEVのコンセプトである。その目的は、史上、最も高効率のメルセデスをつくることにあった。
1930年代のメルセデスの速度記録車を思わせる流線型のエクステリア・デザインは、Cd値0.17という類を見ない空力性能を実現。フロントまわりの面積はメルセデスのコンパクト、「CLA」よりも小さいため、空気抵抗が最小限に抑えられたという。
公表されているボディ関係の数字は、2800mmのホイールベースと1750kgの車重のみ。新型Cクラスのホイールベースが2865mmだから、それより若干小さいことが予想される。参考までに、Cクラスの3サイズは、4755×1820×1435mm。
高性能EVとして名高いポルシェ「タイカン」のホイールベースは2900mm、テスラ「モデルS」のそれは2960mmだから、これらより100mm以上短い。
満充電時の航続可能距離は1000km以上を謳う。1回の充電でドイツのベルリンからフランスのパリへ、アメリカだったらニューヨークからオハイオ州シンシナティ、中国では北京から南京に移動できる。日本なら東京から福岡まで走れる。
モーターの最高出力は150kW(204ps)と控えめで、100kmあたりのエネルギー消費は10kWh未満だという。10kWhのエネルギーは、平均的な家庭用エアコンなら約3時間、アイロンなら約5時間使った分の消費量に相当する。化石燃料の消費量に換算すると、100kmあたり1リットル。日本式に表記すると、リッター100km! という驚異的な高効率を誇る。
航続距離を少しでも伸ばすべく、ブリヂストンと共同開発の超低燃費タイヤ「Turanza Eco」に、20インチの鍛造マグネシム・ホイールを組み合わせ、バネ下重量を抑えているのも特徴のひとつだ。ブレーキもアルミニウム合金製で、軽量化を図っている。
重くてかさばる電池を搭載するEVはおのずと重くなるものだけれど、ビジョンEQXXの車重は超軽量で、前述したように1750kgとCクラスのディーゼル並みに抑えられている。タイカンの2050kg、モデルSの2162kgより300kg以上も軽い。
ルーフには117個の太陽電池を埋め込んでいる。太陽光のみで最大25km分の発電が賄えるという。
ダッシュボード全面にスクリーンが広がるフューチャリスティックなインテリアで注目すべきは、竹やサボテンなど自然界に存在する、再生可能な素材を使っていることだ。たとえば「デザートテックス」と呼ぶ人工皮革は、バイオベースのポリウレタンと粉砕されたサボテン繊維を組み合わせたもので、非常にしなやかな手触りを特徴とする。
メルセデスが考える“未来”が色濃く反映されたビジョンEQXX。このビジョンがどういうカタチで、いつ、市販車に活かされるのか。EV新時代の幕開けと告げるゴングが鳴った、と考えるべきだろう。
文・稲垣邦康(GQ)