和製スポーツセダンは侮れない──新型スバルWRX S4試乗記

フルモデルチェンジしたスバルの4ドアセダン「WRX S4」のプロトタイプに小川フミオが試乗した。印象は?
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Hiromitsu Yasui

排気量はアップ、けれどもパワーはダウン

スバルがフルモデルチェンジしたWRX S4を11月25日に発表した。「究極のドライビングプレジャーを提供」してきたと同社が胸を張るスポーツセダンは、どう変わったのか。「GT-H」と「STI Sport R」の2つのモデルのプロトタイプを試乗したところ。走りの質は向上し、しかも乗り心地や静粛性が上がっているのに驚いた。

【主要諸元(STI Sport R)】全長×全幅×全高:4670×1825×1465mm、ホイールベース2675mm、車両重量1600kg、乗車定員5名、エンジン2387cc水平対向4気筒DOHCガソリンターボ(275ps/5600rpm、375Nm/2000〜4800rpm)、トランスミッションCVT、駆動方式4WD、タイヤサイズ245/40R18。

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乗ったのはプロトタイプであるものの、基本的には今回の市販車と同じ内容とのこと。そこで、とりあえずこのクルマに興味しんしんというひとのために、サーキットでの走りを報告させていただく。

新型になるWRX S4は、全長4670mmのボディに、2387ccの水平対向4気筒ガソリンターボ・エンジンを搭載。202kW(275ps)の最高出力と375Nmの最大トルクという大パワーで、前後輪を駆動する。スバルのスポーツクーペ、新型「BRZ」とおなじエンジンであるものの、出力もトルクもS4のほうが上だ。BRZでは、173kW(235ps )と250Nmとなる。

フルLEDハイ&ロービームランプ(オートヘッドランプレベライザー、ポップアップ式ヘッドランプウォッシャー付き)は標準。ステアリングの操舵に連動し、左右に自動で動く機能も搭載する。

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左右2本、計4本出しの「ツイン・デュアルテールパイプ」は全車標準。

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リアワイパーは全車標準。

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シャシーは強化され、足まわりも、走りのクオリティを上げるために、あらゆる点で見直されている。すこしだけ例をあげると、路面への追従性をあげるためサスペンションアームのロングストローク化、ロールを抑制するためリアスタビライザーのボディ直付け、応答性の高いステアリングフィールを実現するためにフロントサスペンションアームの取り付け部にピローボールのブッシュを採用、といったぐあい。凝りかたは枚挙にいとまがない。

WRXに詳しい読者のかたは、気づいたかもしれない。エンジン排気量は従来の1998ccより増えている。いっぽうで、従来モデルは、最高出力が221kW(300ps)、最大トルクが400Nmもあった。新型では数値的には出力もトルクも下がっている。

18インチのタイヤはダンロップ製。

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STIは、SUBARU TECNICA INTERNATIONALの略。スバルのモータースポーツなどを手がける。

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パワーダウンしているかというと、体感的にはむしろ速くなっていることをスバルは強調する。新型ターボチャージャーには過給圧を調整するバルブを設けることで、アクセルペダルの踏みこみに対する応答性は先代より向上したそうだ。

たとえば70km/hからの加速をみると、立ち上がりの一瞬だけ従来の2.0リッターに負けるものの、そののちはあたらしい2.4リッターが上まわる。ちなみに燃費は、従来とくらべ約8%向上しているそうだ。

快適性も向上

はたして、試乗したショートサーキットでは、あきらかに従来型よりコントロール性が上がり、たとえばコーナリング性能が向上しているのに驚かされた。

従来のWRX S4(STI)はとても完成度が高いモデルだったものの、比較すると、加速性はともかく、カーブを曲がるときの車体の姿勢制御がうんとよくなり、狙ったラインのトレース性ははるかに上なのだ。びっくりした。

STIにはZF社製の電子制御ダンパーを装備。運転状況と車体の動きなどを複合的にセンシングして減衰力を瞬時にコントロールする。「Comfort」「Normal」「Sport」の各モードに合わせて、コーナーや加減速で発生するロールやピッチングの大きさや速度などを制御。ハイ パフォーマンスカーの走りから高級車のようなしなやかな乗り心地へと、ドライブモードセレクトによるキャラクターの切り替えをおこなう。

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ドライブモードセレクトは、インフォテインメント用モニターで切り替えられる。

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新開発の2.4リッター水平対向ガソリン直噴ターボ“DIT(Direct Injection Turbo)”を搭載。バルブ制御は電子化された。2000rpmの低回転域から発揮されるフラットなトルク特性とターボラグを感じさせないレスポンスの良さを謳う。

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ステアリング・ホイールのドライブモードセレクターで「Sシャープ」を選ぶと、新型WRX S4が本領を発揮する。ノーマルモードに対して加速性が約30%も向上するというだけあって、はじけるような加速なのだ。

とりわけZF製の電子制御ダンパーをそなえた「STI」モデルでは、その真価が堪能できるだろう。おなじエンジン性能をもつ「GT-H」もすばらしいとはいえ、スポーツ走行性能では一段上をいく印象だ。市街地走行中心なら、いずれのモデルでもじゅうぶん満足が得られると思うけれど。

STIには前後輪のトルク配分をセンターデフで前45:後55に不等配分するVTD-AWD(不等&可変トルク配分電子制御AWD)を採用。走行状況に応じて前後トルク配分をコントロールし、コーナリング時の回頭性と走行安定性を高めるという。ドライブモードセレクトで「Sport」を選ぶと、センターデフの差動制限を抑制し、ドライバーのコントロール領域を広げる。

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新開発のCVT「スバルパフォーマンストランスミッション」は、走行モードで「S」、「S♯」モードを選ぶと、アクセルやブレーキペダルの操作からドライバーの意思を読み取り、トル ク制御やブリッピングを駆使してのシフトアップ&ダウンをおこなうという。

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トランスミッションは無段変速機を使うものの、従来のリニアトロニックから、今回「スバルパフォーマンストランミッション」へと名称変更がおこなわれた。反応の早さと、ドライバーのイメージどおりに変速する自然さの追求が開発の目標だったそう。

無段変速とはいえ、マニュアルモードでは8段の段付きとして使える。あたらしいWRX S4ではたとえばコーナリング中は低いギアをホールドしてアクセルペダルの微妙な踏みこみに即座にエンジンが反応するようにしているという。

12.3インチのフル液晶メーターは、「GT-H EX」と「STI Sport R EX」に標準。スピードメーターとタコメーターの2眼表示をする「ノーマル画面」(写真)、11.6インチのセンターインフォメーションディスプレイのナビゲーション情報と連携する「地図画面」、アイサイト関連の作動状態を大きく分かりやすく表示する「アイサイト画面」の3つのモードから選べる。

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ペダル類はアルミ。パッド付き。

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じっさいに、「Sシャープ」を含めたスポーツモード走行をしていると、つねに太いトルクバンドの上に乗っかったような加速性のよさだ。いっぽうで、ギアボックスの静粛性が高まっているのにも感心。洗練されたスポーツ性が実現されていると感じた。

さきに触れたとおり、快適性が格段によくなっているのも特筆点だ。静粛性については、サーキットでエンジン回転をレッドゾーンぎりぎりまで上げて走っていても、音楽が楽しめるぐらいだ。それに足まわりはしなやかに動いて、車体姿勢は終始フラット。サスペンションは硬さを感じさせない。

11.6インチセンターインフォメーションディスプレイ&インフォテインメントシステムは「GT-H EX」と「STI Sport R EX」に標準。大型かつ高精細のディスプレイに、ナビゲーションをはじめ、ラジオやテレビなどさまざまな機能を内蔵。音楽はUSBまたはBluetooth接続したポータブルオーディオプレーヤーなどで再生できる。Apple CarPlay/Android Autoに対応し、スマートフォンにインストールされているアプリを大画面に表示して使用できるほか、音声認識による操作も出来る。

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STIロゴ入りのレカロ社製フロントシートはSTIグレードにオプションで用意。シート表皮は人工皮革の「ウルトラスウェード」を使う。

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四輪駆動システムは、後輪に多めにトルクを配分する設定で、かつステアリング特性はニュートラルを実現しているようだ。高い速度でタイトなカーブに飛び込んでも、車体が外側にふくらんでいく感じはほぼ皆無なのだ。

「最初は、日本と一部の外国のスポーツファンのために開発してきましたが、昨今、北米でWRX S4の人気が上がってきていて、ドライブが楽しいクルマで通勤するのが好きというユーザーのことを考えて、快適性との両立をめざしました」

SUBARU技術本部・車両開発統括部の青山寛氏は、開発の背景をそう説明した。

STI Sport Rのシートは本革。レッドステッチも施される。

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リアシートは3人がけ。

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リアシート用ヒーターやエアコン吹き出し口も備える。

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こだわりの数々

スタイリングは、ファンが見たら、すぐにWRX S4の新型と感づく程度に、従来のイメージを継承する。そこに、2018年3月のジュネーブ自動車ショーに登場し、斬新さで話題を呼んだコンセプトモデルのデザイン要素が盛り込まれている。

「『VIZIV(ビジブ)ツーリングコンセプト』が発想の原点です。アグレッシブさがデザインテーマで、車体はリアからフロントにむかって大きく前傾していているようなイメージなので、4輪とフェンダーが外側に張り出すぐらいのエネルギー感を盛り込んでいます」

大型のスーツケースを2個積めるラゲッジルーム。

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リアシートのバックレストは40:60の分割可倒式。

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ラゲッジルームのフロア下には小物入れもある。

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デザインをとりまとめた源田哲朗さんは、試乗会の会場で解説した。

エクステリアでたいへん興味ぶかい事実がある。今回のS4はセダンなのに、フェンダーアーチやボディ下部に、「レガシィ・アウトバック」を思わせる合成樹脂のクラディングが付加されている。なにか理由があるのだろうか。

STI Sportのステアリング・ホイールは専用デザイン。

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オーディオボリュームやエアコンの温度調整など使用頻度の高い機能については、ディスプレイパネル周囲に設置されたスウィッチで操作出来るようにした。

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「ラギッドな印象を作るためのデザインの遊びではないんです。空力テクスチャーと私たちは呼んでいる合成樹脂で、表面の素材とデザインによって、走行中に空気の剥離をコントロールし、ボディ側面の圧力変動を抑制する機能があります」

源田哲朗さんは説明する。見えないところではボディ下部にも、表面のデザインがちがう素材が貼られているそうだ。空気の流れを整えて剥離を抑制し、空気の流速を高めることで燃費にも寄与するという。

GT-Hのインパネまわり。ナビレス仕様には7インチセンターインフォメーションディスプレイが付く。

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GT-H系のシート表皮はファブリック。

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「開発の過程で、懐疑的な技術者陣に、この空力テクスチャーを未装着のテスト車も用意して乗り較べてもらいました。コントロール性と速さが明らかにちがうことに驚かれました」

説明を聞くと、とにかく凝りに凝っている。でも乗ると、意外なほどおとなっぽく、速いいっぽうで、快適性が高い。こういうクルマが出てくるなんて、とてもうれしい気分だ。

サンルーフはメーカーオプション。

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ダッシュボードにはレッドステッチが施される。

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「アイサイトX」は、GPSや準天頂衛星「みちびき」などからの情報と3D高精度地図データを組み合わせることで、自車位置を正確に把握。ステレオカメラやレーダーでは検知しきれない行く先々の複雑な道路情報まで認識し、新次元の運転支援を実現した。

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価格は、「GT-H」が400万4000円(アイサイトX搭載の「GT-H EX」は438万9000円)、「STI Sport R」が438万9000円(同「STI Sport R EX」は477万4000円)。

スバル SUBARU 富士重工 WRX S4 インプレッサ セダン 水平対向エンジン フラット4 シンメトリカルAWD アイサイトX アイサイト
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文・小川フミオ 写真・安井宏充(Weekend.)