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自然吸気エンジンの“快楽”は? 新型レクサスIS350試乗記

レクサスのコンパクトセダン「IS」のV6エンジン搭載モデルに小川フミオが試乗した。多くのライバルが過給エンジンを搭載するなか、“自然吸気”の魅力とは?
レクサス LEXUS IS350 トヨタ TOYOTA IS300 IS300h
Hiromitsu Yasui
レクサス LEXUS IS350 トヨタ TOYOTA IS300 IS300h
ギャラリー:自然吸気エンジンの“快楽”は? 新型レクサスIS350試乗記
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全方位的に出来がよい

高級ブランドはいいセダンを手がける。出来がいいと思えるモデルに乗ると、クルマの楽しさはSUVよりセダンにあるなぁ、と、あらためて思ってしまう。いい例が、2020年11月5日に大きなマイナーチェンジがほどこされたレクサス「IS」シリーズだ。

ISシリーズのボディは、全長4710mm、ホイールベース2800mm。レクサス・セダンの頂点にある「LS」シリーズと比較すると、全長で525mm短いボディが、325mmコンパクトなホイールベースのシャシーに載っている。

【主要諸元(IS350“F SPORT”)】全長×全幅×全高:4710×1840×1435mm、ホイールベース2800mm、車両重量1640kg、乗車定員5名、エンジン3456ccV型6気筒DOHCガソリン(318ps/6600rpm、380Nm/4800rpm)、トランスミッション8AT、駆動方式RWD、タイヤ(フロント)235/40R19(リア)265/35R19、価格650万円(OP含まず)。

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今回試乗したのは、3456ccV型6気筒ガソリン自然吸気エンジン搭載のIS350で、グレードは専用スポーツサスペンションなどをそなえる「Fスポーツ」だ。234kW(318ps)のパワーは、8段オートマチック変速機を介して後輪に伝達される。

ひとことでいうと、速くて、かつ重厚。Fスポーツモデル専用のしっかりした足まわりを与えられていて、高速道路では快適であるいっぽう、ワインディングロードを走るのもかなり楽しい。全方位的に出来がよいのだ。

新型ISの足まわりには、上質な乗り心地を実現したとうたう「スウィングバルブショックアブソーバー」を採用。新しくなった19インチのホイールとタイヤによって、「気持ちの良いハンドリングとブレーキングを実現しました」とうたう。オレンジのブレーキキャリパーは4万4000円のオプション。

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フロントまわりは、新開発の小型軽量ランプユニットを搭載した薄型のヘッドランプや、新デザインのグリルを採用。

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「後輪駆動セダンの楽しさに振り返っていただきたいと思い、あたらしいテストコースを走り込んで開発しました」

レクサスISを手がけた小林直樹チーフエンジニアはかつてそう語ってくれた。ちなみに、今回テストした個体の仕様は「フレアレッド」というFスポーツのみに用意される内装色だったのが強い印象を残した。エアダムが大きくアグレッシブに見えるデザインの車体に近づき、ドアを開けると、焔(フレア)のような赤色がばっと眼にとびこんできたのだ。

レザーにくるまれたシートは、“革張りは硬い”という先入観をくつがえし、しんなりとからだを受け止めてくれる。くわえて、レザー巻きステアリング・ホイールのグリップも意外なほどソフトだ。Fスポーツはとくに硬派な印象のスタイリングであるものの、色と感触とで、官能的な雰囲気が生まれている。そしてこれが個性になっているのだ。

外装には大幅に手がくわわった。デザインコンセプトは“Agile(俊敏)&Provocative(挑発的)”とのこと。プラットフォームはそのままに、よりワイド&ローのスタイルを実現した。

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ドライバーを楽しませてくれる

3代目ISは、2013年に発表されたモデルであるものの、古びたようには感じない。走りと内外装のデザインは、しっかりアップデートされているのだ。

今回のISで心がけたのは、「ドライバーと会話するような操作性」だったという。3.5リッターエンジンとは、いまやメルセデス・ベンツ「Eクラス」の主力モデルが1.5リッターである時代にあって、かなり余裕のある排気量だ。

ボディカラーはグラファイトブラックガラスフレーク。

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搭載するエンジンは3456ccV型6気筒DOHCガソリン(318ps/6600rpm、380Nm/4800rpm)。

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その恩恵は4800rpmで380Nmの最大トルクが出る設定にある。どちらかというと高回転型だ。おかげで、アクセルペダルを踏み込んでいったとき、トルクの谷間も感じず、ぐんぐんと加速していく。

ある回転数からどんっと力が出るのではない。直線的な加速感。ターボをあえて使わない自然吸気の大排気量エンジンの特性を、このクルマの個性にしているのだ。内燃機関ならではだ。

ダイアル式の走行モード切り替えスウィッチはセンターコンソールにある。

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シフトレバーはオーソドックスな形状。トランスミッションは8AT。

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レクサスの開発者が、“会話”という言葉を使ったように、このエンジンの回転フィールだって、クルマとドライバー間の大事なコミュニケーションだなあと思った。いってみれば、”結果”でなく”経過”を大事にすることで、ドライバーを楽しませてくれる。

アクセルペダルを踏み込んだときの加速感とともに、アクセルペダルを戻していくときの減速感がいい。くわえて、ブレーキペダルを踏み込んだときと、力を緩めたとき、どちらもドライバーは気持ちよく運転できる。レクサス・セダンのなかでもISシリーズはそこがよく出来ていると感じるのだ。

マツダ「MX-30」が、パドル操作で回生(つまり抵抗)度合いをコントロールして、ピュアEVでありながら内燃機関を思わせる加減速の雰囲気を作ろうとしているように、やっぱりエンジン独特のフィーリングは(いまのところ)捨てがたいのだ。

新型ISは、2019年4月に愛知県豊田市下山地区に新設した車両開発用テストコース「Toyota Technical Center Shimoyama」での走行試験を繰り返し、徹底的にチューニングをおこなったという。

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F スポーツのペダル類はアルミ製。

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ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)のメインスウィッチはレバータイプ。

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ACCの車間距離調整はステアリング・ホイールにある。

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ライバルに対する優位性

ステアリング・ホイールを切ってレーンチェンジをしたり、カーブを曲がったりするとき、動かした量に忠実に、かつすばやく車体が向きを変えることをも、あたらしいISシリーズでみるべき点だ。

ハイブリッドの「IS350h」と同様に、ロードホイール(ホイール)をホイールバブに留めるためにハブナットという部品を採用しており、これはレクサス初という。BMWなども採用していて、ホイールと接触する部分が半球状のため、しっかりと締結できることがメリットとされている。

インテリアでは、インフォテインメントシステム用のモニターが、10.3インチのタッチディスプレイにアップデートされた。インパネ&ドアトリムは上下でカラーが異なる2トーン配色も選べるようになった。

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ステアリング・ホイールはFスポーツ専用デザイン。Fスポーツのロゴ・プレートもある。

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これによって、「剛性感があがり、ハンドリングが向上します」と、ISの開発にたずさわった製品企画の岩田裕一主幹は説明してくれた。実際に、ドライブして感じるのはそのとおりの、しっかりした操縦性なのだ。運転していると、トルク感とかハンドリングとかがなじんできて、どんどん好きになっていくクルマだと思う。

IS350 Fスポーツの価格は650万円。全長4710mmのボディサイズと合わせて競合をさがすと、ドイツ車でなかなか手強いライバルがみつかる。

メーターはFスポーツ専用デザイン。

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10.3インチのタッチディスプレイはスマートフォンとの連携機能(Apple CarPlayなど)を搭載した。

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ひとつは、メルセデス・ベンツの「C200 4MATICローレウスエディション」が全長4705mmのボディに135kW(184ps)の1.5リッターエンジンとフルタイム4WDシステム搭載で641万円だ。

全長4715mmのBMW3シリーズはバリエーションが多い。価格的にいちばん近いのは「320d xDrive」である。ただしディーゼルエンジンなのでガソリンエンジンで探すと190kW (258ps)の2.0リッター4気筒搭載の「330i M Sport」(647万円)だろうか。

Fスポーツ専用本革スポーツシートは29万1500円のオプション。

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標準のステアリング・ヒーターやシート・ヒーター/ベンチレーションのスウィッチはインパネ下部にある。

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リアシートはセンターアームレスト付き。

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アウディには全長4770mmの「A4」がある。2020年にマイナーチェンジがあって、足まわりをはじめドライブの楽しさがぐんと上がっている。価格的には、183kW(249ps)の2.0リッター「A4 45 TFSI quattro S line」が627万円なので、真っ向から当たるのはこのモデルか。

こうしたライバルたちと並べてみても、IS350 Fスポーツはかなり善戦している。操縦性と足まわりのコンビネーションでは、メルセデス・ベンツやアウディと並ぶし、なにより自然吸気のV6エンジンを搭載するのはISだけだ。

とはいえ排気量が小さくなっても、サーっと上の回転域まで吹け上がる(たとえばGRスープラの4気筒でもいい)活発なユニットが用意されたら、また新しい魅力がうまれるだろう。それはそれで楽しみだ。

マークレビンソンのプレミアムサラウンドサウンドシステムは26万5100円のオプション。

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ラゲッジルームはスクエアな形状で使いやすい。

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360°カメラは4万4000円のオプション。

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文・小川フミオ 写真・安井宏充(Weekend.)