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しっかり作り込まれた4WD──新型ニッサン・ノート X FOUR試乗記

ニッサンのコンパクトカー「ノート」の4WDモデルに、大谷達也が試乗した。FWD(前輪駆動)モデルとの違いは?
NISSAN 日産自動車 NOTE ノート ePOWER シリーズハイブリッド 4WD FOUR
Hiromitsu Yasui

大パワーの後輪用モーターを搭載

ニッサン・ノートの4WDは、このクラスによくある“お手軽電気式4WD”とはまるで異なる、なかなか興味深いテクノロジーを用いた駆動方式である。

NISSAN 日産自動車 NOTE ノート e-POWER シリーズハイブリッド 4WD FOUR
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ノート・クラスの4WDに多いのは、前輪をエンジンやハイブリッド・システムなどで駆動するいっぽう、後輪駆動用に“ちっちゃいモーター”を追加して4WDとする駆動方式。どのくらいちっちゃいかというと、最近デビューしたトヨタアクア」の場合は最高出力6.4psもしくは5.3psしかない(グレードによって異なる)。おなじアクアにハイブリッドシステム用として搭載されている前輪用モーターの最高出力は80psだから、1/10にも満たないパワーだ。

【主要諸元】全長×全幅×全高=4045×1695×1520mm、ホイールベース2580mm、車両重量1340kg、乗車定員5名、発電用エンジン1198cc直列3気筒DOHCガソリン(82ps/6000rpm、103Nm/4800rpm)+モーター(フロント85kW/280Nm、リア50kW/100Nm)、トランスミッション電気式無段変速機、駆動方式4WD、タイヤサイズ185/60R16。

Hiromitsu Yasui

試乗車の16インチ・アルミホイールはオプション。

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ただし、これでも雪道の発進で前輪がスリップしたときには十分に役に立つ。たとえば、雪道でクルマがスタックしかけたとき、オトナ2、3人で「えっさ!、ほいさ!」と押して無事、脱出できたなんてことだって珍しくないはず。つまり、スタックから抜け出すには、その程度のパワーでこと足りるのである。

でも、モーターがちっちゃいせいで速度が上がると4WDの効果はほとんどなくなる。最新のアクアはどうかわからないが、一般的に、この手の“お手軽電気式4WD”は15km/hとか20km/hくらいになると後輪用モーターが車速に追いつかなくなり、実質的に前輪駆動に変わってしまうという。つまり、“お手軽電気式4WD”は“緊急脱出でのみ役立つ4WD”と同義なのだ。

ノートの4WDは、前後輪完全電動駆動になる。アイスバーンや深雪に加え、ウェット、さらにはドライでもあらゆる状況に応じて前後モーターの出力・トルクを瞬時に調節して安定走行を実現するという。

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フロントに搭載する発電用エンジンは、1198cc直列3気筒DOHCガソリン(82ps/6000rpm、103Nm/4800rpm)。

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リアに搭載するモーターは50kW/100Nm。

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でも、ノート4WDは違う。なにしろ後輪用モーターの最高出力は68ps。しかも、4775rpmで到達するこの最高出力が、10024rpmという超高回転域までずっと発揮されるのだ。いっぽうの前輪用モーターは2900〜10341rpmで116psの最高出力を生み出す。

ちなみに最終減速比は前輪と後輪で1.5%しか差がないので、後輪用モーターも前輪用モーターとほとんど変わらない車速域をカバーすると考えられる。つまり、メカニカルに前輪と後輪が連結された4WDとおなじくらい、後輪が活躍する場面が多い(と推測される)のがノート4WDなのである。

純正ナビゲーションシステムは、半自動運転システム「プロパイロット」などとセットで42万200円のオプション。

Hiromitsu Yasui

4WDの恩恵

もうひとつ、ノート4WDで興味深いのは、前後の駆動力をコントロールしてクルマの姿勢を制御しようとしている点にある。

日産のe-POWERはエンジンで電気を起こし、この電力でモーターを回して車輪を駆動する点に特徴がある。つまり、前輪と後輪の駆動力配分は、それぞれのモーター出力を変化させることでいかようにも調整できるのだ。

減速時にはリアモーターの回生制御をくわえることで、エネルギー回収効率を高めながら、積極的に車両姿勢をコントロールするという。

Hiromitsu Yasui

マッドフラップ付き。

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車輪とモーターがメカニカルに連結されている場合、回生ブレーキといってモーターによって制動力を生み出すことができる。これは、「モーターに電力を供給して駆動力を得る」の逆さまを行なうもので、「駆動力をモーターで奪い取って電力を起こす」と、考えればいい。

結果、減速をすればするほど多くの電力=エネルギーが取り戻せるというもので、電気自動車やハイブリッドシステムではこの回生ブレーキが効率の向上に大きな役割を果たしている。

本革巻ステアリング・ホイールは、16インチアルミホイールや本革シートなどとのセットオプション(33万5000円)。

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メーターはフルデジタル。バッテリーやモーターの状況も表示される。

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衝突被害軽減ブレーキや車線逸脱警報機能などは標準装備。

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ノート4WDでは、回生ブレーキの利き方に前後で差をつけることにより、クルマの姿勢をコントロールしている。たとえば、もしも前輪用モーターだけで回生ブレーキを行なえば、クルマは前につんのめるようになって前傾姿勢になる。

反対に後輪用モーターだけで回生ブレーキを行なえば、相対的にクルマの後側が沈み込んだ姿勢に近づく。これを逆手にとり、前後の回生ブレーキをうまくバランスさせることで、クルマの姿勢をフラット(に近い状態)に保ったまま減速させるのがノート4WDの特徴なのだ。

ギアセレクターは、パソコンのマウスを彷彿とするデザインだ。パーキングブレーキはスウィッチ式になる。

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実際にノート4WDでこれを試すと、その効果は、まぁ、わからなくもないという程度。というのも、減速時にフラットな姿勢を保つといっても、前後のサスペンションが同じように沈み込むだけの話で、以前とおなじようにフロントサスペンションもある程度は沈み込むから。これが、もしもフロントサスペンションがまるで沈み込まないのなら、誰にでもその効果がわかるのだろうが……。

スムーズなe-POWER

とまぁ、またいつものように理屈っぽいリポートになってしまったけれど、ノート4WDも最新型の前輪駆動ノートと同じように滑らかによく走る。モーターで車輪を駆動するe-POWERは、アクセルペダルの動きとは別にコンピューターが駆動力をコントロールするから、エンジンよりもスムーズな動き出しを実現するのが容易。

同様にして、回生ブレーキのコントロールもコンピューターがやってくれるので、スムーズな減速を実現しやすい。平たくいえば、発進や加速に伴って乗員のクビがガクガク前後に揺れることが少ない、ということ。つまり、スムーズな走りはドライバーだけでなく、一緒に乗っている家族や友人にとってもありがたいものなのだ。

WLTCモード燃費は23.8km/L。

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本革のシート表皮はメーカーオプション。フロントシートヒータは標準になる。

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デジタルルームミラーは純正ナビゲーションなどとセットオプション。

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しかも、最新のノートはe- POWERの使い方が巧妙になり、エンジンがかかっている時間が従来よりも短くなっている。「エンジンがかかっている」=「うるさい」もしくは「振動している」だから、この点でもe- POWERは走りが滑らかといえる。

でも、いちばん不思議なのは、e- POWERが燃費の点で普通のクルマよりも有利なことにあるのではないのか? 先ほども説明したとおり、e- POWERはエンジンの出力を一度発電機で電力に変え、それをモーターで駆動力に変えている。この場合、発電機の効率が90%でモーターの効率が90%だとしても、0.9×0.9で答えは0.81、つまり効率は81%に下がってしまうのである。

センターアームレスト付きリアシート。バックレストは、2段階のリクライニング機構付き。

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サイドにランプの付いたラゲッジルーム。容量は明かされていない。

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リアシートのバックレストは40:60の分割可倒式。

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ただし、e- POWERは回生ブレーキが可能。つまり、普通のクルマは熱エネルギーとして大気中に放出している減速時の運動エネルギーを電力としてバッテリーにため込むことができる。つまり、無駄が少ない。これが、e- POWERが普通のクルマよりも効率を高くできる理由のひとつだ。

もうひとつ、e- POWERで有利なのは、発電用エンジンを効率よく使える点にある。よく知られているとおり、1ccのガソリンからもっとも多くの出力を引き出せる条件は、エンジンが最大トルクを生み出している条件に近いとされる。つまり、エンジン回転数もそれなりに上がっていて、アクセルペダルをぐんと踏んだ状態のほうが、エンジンとしての効率は高いのだ。

試乗車であるX FOURの価格は244万5300円。

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ただし、一定速度で走っているクルマが必要とする出力は、最大トルク発生時(に生み出される出力)に比べてずっと小さい。そして小さい出力しか生み出していないときのエンジンは、ポンピングロスというやっかいなものの影響で、効率があまり高くない。そこでe- POWERは、エンジンをまわすときは走行に必要となる以上の出力を発生させ、余力分をバッテリーにチャージ。一定時間経過後にエンジンを止めると、バッテリーに充電した電力でモーターを駆動することによって高い効率を実現しているのだ。

こうしたパワーユニットのことを一般にシリーズ式ハイブリッドといい、ホンダのe:HEVも広い意味ではこのシリーズ式ハイブリッドの仲間に入るけれど、e:HEVはモーターの効率が下がる高速走行時のみエンジンと駆動輪をメカニカルにつないで効率を高めようとしている点がe- POWERとの違い。どちらがどんな面で優れているのか、いつか機会があったら比べてみたいものだ。