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新型ホンダ・ヴェゼルの“真面目な進化”とは?

2月18日、ホンダは、新型「ヴェゼル」を発表した。今尾直樹が感想を寄せる。
Honda ホンダ ヴェゼル VEZEL SUV コンパクトSUV ハイブリッド HV
Hiromitsu Yasui

販売台数の1割以上を占めるヴェゼル

2月18日(木)、新型ホンダ・ヴェゼルが世界初公開となった。それに先駆け、プレス向けの事前説明会が開かれた。

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初代ヴェゼルは、2013年末に国内発売となるやコンパクト・クロスオーバーSUVとして人気を博し、SUVセグメントの新車販売台数No.1の座を、2014年から2016年まで3年連続して獲得し、2019年にもナンバーワンになっている。グローバルでは2020年11月までに累計384万台を売ったという。

ということは年産50万台以上。ホンダの2020年の4輪車生産台数はおよそ440万台だから、1割以上を占める重要なモデルである。事前説明会では実車も展示されていたので、主にその印象について報告したい。

新型ヴェゼルは「新しい価値観を持つ人たちのスタイルや可能性、行動範囲をAMP UP(増幅)させるクルマ」として開発されたという。

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エクステリアは、クーペライクなプロポーションをさらに際立たせたのが特徴だ。

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フロントまわりは、ボディカラーと同色のフロントグリルや薄型のヘッドライトを採用。

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会場には、標準タイプとPLaYというシックな2トーン仕様が持ち込まれていた。ラインナップは、1.5リッターDOHC i-VTEC+CVTのピュア・ガソリン・エンジン車が1タイプと、本命の2モーターのホンダのハイブリッド「e:HEV」がXとZの2タイプ。

駆動方式はどちらにもFWDと4WDがある。ただし、PLaYはe:HEVのFWDのみの設定だ。

灯火類はLED。

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上級グレードのアルミホイールは18インチ(エントリーグレードは16インチ)。

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2トーンボディカラーやパノラマルーフ、専用デザインの内外装パーツを装着した「PLaY」。

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フロントグリルは一部にブルーやレッドを使った専用デザイン。

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リアまわりは、テールゲートのハンドル位置などを機能的観点からミリメートル単位で調整したという。

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マツダのSUVと似ているようで似ていない

ご覧のようにエクステリアはクリーンな水平ラインで構成され、リアのオーバーハングが明らかにのびている。サイズ、動力性能、価格などは4月の発売時まで待たねばならない。

で、新型ヴェゼルのデザインを見ての筆者の第一印象は、マツダ「MX-30」みたい、ということだった。あとで写真を見較べてみたら、さほど似ていないとも思ったのですけれど、このときはその思いにとりつかれていたため、エクステリア・デザインの担当者になにはなくともストレートに質問してみた。担当の阿子島大輔氏は、大意、次のように述べた。

水平基調のインテリアは、「安心して移動できる、乗員を包み込むデザイン」を、目指したという。

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上級グレードのシート表皮は人工皮革とファブリックのコンビタイプ。

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リアシートはセンターアームレスト付き。

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リアシートの座面は跳ね上げ機構付き。高さのある物を積むのに便利だ。

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「もし似ていると感じるとすれば、シルエットが似ているからでしょう。でも、コンセプトはまったく違う。MX-30は後席がああいうドア(RX-8みたいな観音開き)ですし、われわれは後席の爽快な視界を確保するために水平のラインを選んだ。ぜひ後席に乗って確かめてみてください」

言われるまま、後席に座ってみて驚いた。ルーフが水平に後ろまで伸びていることでガラス面積が広いらしく、開放感がある。頭上空間も十分だし、足元の空間も広々している。ドアの内側はくぼんでおり、後席の居住空間がビヤ樽型に膨らんでいるように感じられる。

ラゲッジルームはスクエアな形状で使いやすい。

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リアシートのバックレストは40:60の分割可倒式。

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ラゲッジルームのフロア下には小物入れ。

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ホンダ特許の「センタータンクレイアウト」、すなわち燃料タンクを前席の床下に配置する特徴を活かし、足を乗せるフロアに、新幹線のフットレストみたいに、ゆるい傾斜がついている。

これはいい! と、素直に思った。初代ヴェゼルのように丸っこいカタチでは、さりとてウェッジ・シェイプであればなおさら、このような開放感は得られまい。配布された資料に、「提供したい価値」として、「ワクワク感、開放感、爽快感」とうたわれていて、「日常のクルマに、もっと光を、風を、外とのつながりを」と、詩的に表現されている。その意味が座ってみて初めてわかった。水平基調のスタイリングにはちゃんと理由がある。

標準のオートエアコンは、左右温度独立調整機構付き。

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インパネ上部のインフォテインメントディスプレイは9インチ。

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「PLaY」のインテリアは専用加飾付き。

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「PLaY」のシートカラーは、ボディとおなじくシートも2トーンになる。

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「ホンダらしさ」とはなにか?

とはいえ、成功作である初代の面影をきれいさっぱりなくしてしまうとはいかにももったいない。そういう意見は出なかったのか? というのが筆者の質問その2だったけれど、担当者の回答は大意、ライバルと比較されたときに不評だった後席と荷室の広さを改善する必要があった、ということだった。

申しあげるまでもなく、SUVはいまやマーケットの主流である。トヨタ「ヤリス・クロス」や日産「キックス」、マツダ「CX-30」等、ヴェゼル発売当初にはいなかったライバルたちがあらわれてもいる。トヨタ「ハリヤー」やマツダ「CX-5」、日産「エクストレイル」、スバル「フォレスター」、同「SUBARU XV」などと較べられるケースもあるらしい。

ステアリング・ホイールには運転支援機構のスウィッチ付き。

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シフトレバ−はオーソドックスな形状。

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ははぁ。開発責任者がコンセプトの紹介で訴えていたパワポの文字の意味がようやくにして筆者にも理解できた。

「安くて優れた商品が山のようにある
消費者は機能やスペックでは商品を選ぶのが難しい

いいものを作ることは大切だが
それだけを頼りにしていては選んでもらえない。」

モノがあふれた時代である。いいものを作るのは当然で、でも、それだけでは選んでもらえない。自動車に限らず、モノづくりにかかわるひとたちにとっての現代の最難関テーマであろう。

メーター内には、フルデジタルの大型インフォメーションディスプレイ付き。

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バックカメラも搭載。

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パーキングブレーキはスウィッチタイプ。その前には、急な下り坂を一定速度で走れるヒルディセント・コントロールのスウィッチがある。

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ともかく新型ヴェゼルの開発陣は「ホンダらしさ」とはなにか? というところまで議論し、「日常生活の質の向上を常に考え行動する」そういう新しい価値観を持った人たち向けのクルマをつくろう。これからは体験を買う時代だ、と。でもって、具体的な方策として新型ヴェゼルでは初代よりも窓を大きくするというプリミティブなアイディアをもってきた。

「日常のクルマに、もっと光を、風を、外とのつながりを」とは、まさにこのことだ。

思うに、窓は大切である。晴れた日に窓を開ければ気分も変わる。雨の日には閉じることが肝要だ。濡れちゃいますから。窓を開けたり閉めたりする日々の営みが、生きるということなのだ。と、言い換えてもあながち間違ってはいないのではあるまいか。

大開口のパノラマルーフには、日差しの熱をほとんどカットする「Low-Eガラス」を採用したという。

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搭載するパワーユニットは2種類だ。ガソリンは、1.5リッター直列4気筒エンジンにCVTを組み合わせる。スペックの詳細は明かされていない。主力のハイブリッドは、ホンダの2モーターハイブリッドシステム「e-HEV」で、1.5リッター直列4気筒ガソリン・エンジンに2つのモーターを組み合わせる。トランスミッションは電気式無段変速機のみ。

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当たり前のことにマジメに、正面から取り組む

ボディと同色のグリルの処理は、精悍さと親しみやすさを持たせようとした試みで、今後増えてくるであろうEV(電気自動車)はグリルレスの顔が多いから、それらとの差別化も考慮しているのだという。

担当者からそう聞くと、デザインに説得力が出てきて、ま、たとえMX-30と似ていようと、俄然、魅力的に見えてくるから、筆者の目は勝手です。

先進安全装備パッケージ「ホンダ・センシング」は、広角カメラと高速画像処理チップの採用によって、衝突被害軽減ブレーキやACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)などの機能が先代より向上したという。

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安全運転支援システム「ホンダ・センシング」はもちろん最新版を装備。車内Wi-Fiなどの「ホンダ・コネクテッド」は、フィット、ホンダeに続いて、スマホをキーとして使えたり、ナビゲーション・システムの地図を自動更新したりすることなどができる。IT好きにはワクワクする技術であるにちがいない。

でも、それだけでは十分ではないのである。ホント、厄介な時代だ。いったい、なにをどうすれば選んでもらえるようになるのか?

リアまわりは、テールゲートのハンドル位置などを機能的観点からミリメートル単位で調整したという。

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ホンダのウェブサイトには、すでに新型ヴェゼルのプロモーションが始まっている。有名人がいっぱい出ていて、ヴァイブスのあがるハッピーな動画も公開されている。それを見ていると、今度のヴェゼルはよさげに思えてくる。時代に合わせたプロモーション、広告・宣伝はますます大事だ……。

当たり前のことですけれど、その当たり前のことにマジメに、正面から取り組んでいるのが新型ヴェゼルなのだといえるかもしれない。自動車ですから、結論は試乗してから出すとして。

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文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)