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2021.02.19

ターゲットのアスレジャーブランド「All in Motion」 立ち上げ1年で、売上10億ドル突破

All in Motionの公式サイトより

 ターゲットが展開するアクティブウェアブランド「All in Motion(オール・イン・モーション)」の昨年度売上が立ち上げから僅か1年で10億ドル(約1,050億円)を達成したと発表がありました。ターゲットは全米で1,900店舗を展開する、米国ではディスカウンターに分類されるチェーンストアです。同社のPBブランドであるオール・イン・モーションは、同社が元々展開していたC9Champion(C9チャンピオン)をリニューアルしたもので、デザイナーチームは全米のあらゆる年齢層の消費者1万5,000人の好みや希望を調査し、2年間もの研究を重ね、昨年のパンデミックが発生するわずか2ヶ月前にスタートしました。

 

 当時のアクティブウェア市場は、ルルレモン、ナイキ、ギャップ社のアスレタをはじめ、アーバンアウトフィッターズグループに至るまで多くがヨガやピラティスなどのスポーツウエアを展開しており、需要を超える供給がなされる飽和状態となっていました。しかしパンデミック以降、Allied Market Research社によると、世界のアクティブウェア市場は2024年までに5,470億ドル(約57兆4,300億円)に上ると予測されています。

 

 ただ、成長市場への参入とはいえ、「オール・イン・モーション」は、ハイブランドと比較すると低価格という利点はあるものの、それだけで消費者の関心を維持するには十分ではありません。なぜ消費者が「オール・イン・モーション」を選ぶのか、どのようにプライベートブランドを短期間でここまで成長させたのか、現在、リノベーションを続けているターゲットの店舗視察を通じてそれらの理由を考えてみたいと思います。

顧客のニーズに応えた快適さと価格

「オール・イン・モーション」店頭ディスプレイ

 オール・イン・モーションでは、ブランド発足時に顧客ニーズについて調査した膨大なデータを元に、品質やサステナビリティを重視したデザインで、現在はブラやレギンスなどのウエアの他、ウエイトやヨガマットなどのアイテムに至るまで700型以上を展開しています。平均価格は、スポーツブラが20ドル、レギンスが30-40ドルとハイブランドより約75%低価格でありながら、機能面ではストレッチ性、速乾性、吸湿発散性、防臭、UVカットなどの機能素材、リサイクルポリエステルなどのサステナブル素材を使用しています。今年1月には、さらなる快適さを追求した「シームレスコレクション」を発表しています。

 

 加えて、豊富なサイズ展開もブランドメリットの一つです。レディースでは、XSから2XL(0-18)まで展開し、プラスサイズは4XLまでと充実しています。ライバルブランドである「エアリー」が支持された要因のひとつである「ありのままの体型の消費者をカバーし、広告にもレタッチを一切行わない」という戦略を取り入れ、店頭では様々なタイプのモデルを起用したイメージ写真やボディをディスプレイしています。

 

 また、ターゲットのアパレルPBにおいて、メンズ、レディース、キッズを網羅しているのは唯一「オール・イン・モーション」だけ。ファミリー全般に向け展開しているため、商品の平均価格は$3.99から$69.99と、ほとんどの商品が$40以下の低価格設定となっています。ターゲットのコーポレートニュースによると、1年間で売れたウエイト・ケトルベルは21,000パウンド(5バウンドのウエイトだと4,200個分に相当)、ヨガマットは700万平方フィート(平均的なヨガマットでは4,290枚分に相当)。これは、122のサッカー場をカバーする程で、巣ごもり需要によるホームフィットネスブームの恩恵が伺えます。

パーフェクトタイミング

オール・イン・モーション店頭ディスプレイ

 昨年のロックダウンにより、多くのファミリーが家で過ごす様になったことでアクティブウェアの需要が急増。多くの小売店が閉店を余儀なくされる中、ターゲットでは日用品にも注力し、薬、歯磨き粉、シャンプーなどの生活必需品を扱うエッセンシャルストアとして営業を続けることが出来ました。ターゲットの取り扱い品目は多岐にわたっているため、顧客は何件も店をまわる必要なく家族の必要品を買い揃えることができます。そのような背景で、新たにオール・イン・モーションをスタートしたタイミングはパーフェクトだったと言えます。

アパレル・雑貨

食品・飲料

ペット用品

おもちゃ・文具

シューズ

コスメ

インテリア

電化製品・家電

インナー下着

薬(CVS)

ガーデニング

ベッド・リネン

キッズ・ベビー

キッチン関連

家具

スポーツ・アウトドア

ターゲットが取り扱っている品目

アパレルは、メンズ、レディース、ヤングキッズ・ベビー、そしてレディースのプラスサイズにも注力。

大概のものはターゲットで買い揃えることができる

非接触でのショッピングオプションと即日受け取りサービスの強化

左:1月に発表した「シームレスコレクション」 

右:サークル会員限定のディスカウントを表示するポップ

  オンラインでの注文急増に伴い、店頭や車で商品を受け取るサービスが人気となっていましたが、特にパンデミック以降、感染リスクを回避したいという顧客ニーズが加わり、さらに需要は加速しました。ターゲットのコーポレートニュースによると、2019年と比較してOrder Pick-Up(オーダーピックアップ:オンライン注文品を店頭カウンタ―で受け取る)は50%増、Drive Up (ドライブアップ:オンライン注文品を指定の駐車場で受け取る)は500%増と急成長。その結果を受け、牛乳、卵、バナナなど人気の食料品に関しても即日受取サービスを強化しました。このサービスにおいて不可欠なのはターゲットの独自アプリ。オーダーピックアップの手配に加え、ショッピングリストの作成、商品の在庫状況、セール情報などが確認できます。ターゲットのクレジットカード&サークルとの連携も容易となっています。

売上を後押しするクレジットカードとリワードプログラム

 ターゲットの人気の要因の一つに、クレジットカードとポイントが貯められるリワードプログラムがあります。

RED CARD(レッド・カード)

CIRCLE (サークル)

クレジットor デビットカード

ロイヤリティプログラム

年会費無料

入会無料

ターゲットでの買い物5%オフ

ターゲットでの買い物1%還元

ほとんどの商品の送料無料

還元された金額はアプリ内のWalletで確認

店内を含むスターバックス5%オフ

誕生日の買い物5%オフ(ターゲットで)

Hotel.comの利用は10%オフ

RedCard所有者は自動で登録される

会員限定セールオファー

Target Circle Offer (クーポン機能)

返品期間は更に30日延長

誕生日の買い物5%オフ(ターゲットで)

 店頭では、同社のロイヤリティプログラム「サークル」メンバー限定のデイスカウントポップが分かりやすく掲げられてあり、筆者が足を運んだバレンタインデー期間の2/12から2/15にはアパレルとシューズが20%オフとありました。サークルはスタートしてからわずか1年で8,000万人近くのメンバーを獲得しています。

「オール・イン・モーション」だけでは無い!

年間売上1000億円を超えるターゲットのPB戦略

ターゲットのユーチューブより

 かつて、ウォルマートやターゲットなどのディスカウンターで販売されるPB商品は、値段は安いけれど、品質はそれほど、デザインもスタイリッシュではありませんでした。どの小売店も狙うミレニアル層の顧客は、オーガニック商品を好み、環境へのこだわりを持ち、同時にスタイリッシュ性も重視するようになっています。後期ミレニアル世代が結婚し家族を持つようになると、ペットの所有率が高くなることも研究されています。ターゲットでは、このような顧客層の好みや需要を研究し、PB商品を劇的に変革してきました。現在は、衣料品、クリーニング用品、食品など延べ46種類のPBブランドを展開しています。そのうち10ブランドが年間1千億円を超える売上を記録。キッズの「Cat&Jack(キャット&ジャック)」、食料品の「Good&Gather(グッド&ギャザー)」を含む4ブランドは年間販売額2,000億円超えのブランドに成長しています。そして、「オール・イン・モーション」はターゲットのPBの中では1年間で10位までに上昇しています。

 

 ルルレモンのミラー買収、ナイキのデジタル戦略、ホームフィットネスなどのクラスサブスクリションに匹敵するサービスは今のところ追随がなく、ミレニアル世代を中心とするファミリー層を意識したトランスフォーメーションはいまだ道半ばのようです。しかし、競合店がコロナ禍で苦境に陥いる中、これだけ顧客の支持を集めているターゲットの戦略は、需要にフィットし功を成しているといえるのではないでしょうか。

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