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ウィズコロナで「郊外だけど、価格は安くない」マンションが人気上昇 その理由は?

櫻井幸雄住宅評論家
相鉄線瀬谷駅南口側では、商・公・住一体の複合再開発が進行している。筆者撮影

 非常事態宣言が解除された直後、意外な場所の新築分譲マンションで「即日完売」が出た。千葉県松戸市で新規発売されたマンションで第1期が即日完売したのである。

 コロナ禍で新築マンションを買う人がいなくなるのでは、と言われていた時期なので、このニュースは不動産業界で驚きを持って受け止められた。この時期に即日完売?それも郊外で!!

 そして、今、神奈川県で横浜駅から電車で20分ほどの駅で分譲開始前のマンション(全144戸)に、1ヶ月で1000件を超える資料請求が生じている。分譲戸数に対し5倍以上の資料請求者がいるわけで、これは即日完売する可能性が高い数値とみなされる。

 2つのマンションに共通するのは、都心ターミナル駅まで40分〜50分の「郊外」で、最寄り駅から徒歩3分以内の「駅近」という立地条件。そして、郊外だが、安いわけではない、というのも共通する特徴だ。

 ウィズコロナの生き方が模索される現在、都心から少々遠いが、駅には近いマンションの注目度が上がっている理由は何か。現地を取材し、考察した。

郊外で自然を身近に……でも、駅には近いほうがよい

 コロナ禍で、まず人気を高めたのは、郊外立地で住戸が広く、値段が安いマンションである。それらの多くは、郊外でしかも駅から離れていた。

 それに対し、郊外でも駅近(駅から徒歩3分以内)となると、ため息がでるような広さやびっくりするくらいの安さは求めにくい。60平米台の3LDKが4000万円台で購入できれば安いほうで、5000万円台、6000万円台となることが多い。

 その「郊外だけど、駅近なので価格は安くない」というマンションの人気が高まっている。

 理由として考えられるのは、まず、緑や自然が身近にあること。これは、ウィズコロナで強まった「家時間を大切にしたい」気持ちの表れだろう。

 松戸市でJR武蔵野線新八柱駅と新京成線八柱駅からともに徒歩3分に建設されているマンションの場合、「日本の道100選」に選ばれたこともある常盤台さくら通りの入り口に位置し、東京ドーム11個分となる「21世紀の森と広場」まで徒歩10分ほどとなる。

 「21世紀の森と広場」にはバーベキュー広場やキャンプ練習場があり、休日、家の近くでの楽しみが広がる。

 一方で駅周辺の商業施設、医療機関を利用しやすく、徒歩3分に駅が二つあるのも便利だ。この環境のよさと駅に近い便利さが注目され、ほどほどの広さとちょっと高めの価格でも購入したいという人が増えたのだろう。

神奈川県では、瀬谷駅徒歩1分の再開発マンションも

 同様に、郊外で自然が身近、しかも駅近マンションが建設されている場所を探すと、神奈川県の瀬谷駅周辺がある。相鉄本線で横浜駅から20分ほどとなる駅だが、住所は横浜市瀬谷区。「横浜の玄関口」ともいえるが、ギリギリ横浜市内という見方もでき、これまで注目度は低かった。

 しかし、今は事情が変わっている。

 まず、瀬谷駅周辺にはもともと緑が多い。「瀬谷市民の森」「上川井市民の森」といった緑地が多いのだが、旧上瀬谷通信施設跡地の利用で2027年国際園芸博(花博)の誘致やテーマパーク誘致が画策されている。約125ヘクタールにも及ぶ土地を活用し、自然とふれあう新たな名所が誕生する可能性が出てきたわけだ。

 その旧上瀬谷通信施設跡地では、現在、横浜市が原っぱを一般開放し、テントやハンモックを無料貸し出しする企画を行っている(11月3日まで)。

 広大な緑が身近だと、こんな楽しみがある、と実際に体験できるわけだ。

 さらに、相鉄線では新線が建設中で、現在は、羽沢横浜国大駅まで開通。そこからはJRの東海道貨物線・東海道本線などに乗り入れる形で、JR大崎駅に直通運転されている。瀬谷駅から都心・大崎駅までの所要時間は40分ほど。その先、新宿駅まで(一部は川越駅まで)直通で行くことができる。

 瀬谷駅では駅南口側で再開発が進行しており、再開発エリア内に新築分譲マンションが建設されている。駅から徒歩1分で、屋根付きのペディストリアンデッキを歩くので、雨の日も傘をささずに出かけることができる。

 しかも、マンションの下層部にはスーパーマーケットや飲食店、区の施設が入るので生活利便性は高い。

 この便利さのために価格未定の段階でも注目度が上がり、前述したとおり、1ヶ月で1000件を超える資料請求が生じたと考えられる。

広大な緑地が近く、目立たない駅近物件が、これからの狙い目か

 郊外で、駅に近く再開発エリア内のマンションは以前から人気が高かった。武蔵小杉や武蔵小金井、海老名などがその先例となる。しかし、今は駅近マンションの価格が上昇。郊外エリアでも3LDKが7000万円を超えるケースが増えてしまった。

 そこで、駅近でも6000万円を切る価格の3LDKはないか……そう考える人が増えたことも、2つのマンションが注目される理由として大きいだろう。

 今回取り上げた2つの人気マンションは、いずれも広大な緑地が徒歩圏にある。

 「自然が身近」な「駅近」のマンションとなるわけだ。この贅沢な希望を限られた予算内で満たすため、目立たない駅のマンションに目をつける人が増えた、という側面もありそうだ。

 「広大な緑」と「駅近」そして「目立たない駅」は、ウィズコロナの時代にマンションを探す上で覚えておきたいキーワードとなる。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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