スポーティさとエレガンスを強調
セダンは気分でないものの、SUVはちょっと食傷ぎみ……なんてひとがいたら、フォルクスワーゲン「アルテオン・シューティングブレーク」がいいかもしれない。2021年7月13日に日本で販売開始されたスタイリッシュなステーションワゴンである。快適志向の、ぜいたくでおとなっぽいクルマだ。
アルテオンは、ちょっとひねりが効いた、クルマ好きへのアピール度の高いモデルとして知られている。2017年10月から5ドア・ファストバックが日本へ導入された。クーペライクなボディはカッコいいだけでなく、作りの質感が高く、クルマ好きに評価されてきたのだ。
「ゴルフ」や「パサート」といったモデルは実直な機能主義がなによりセリングポイント。対するアルテオンと今回のアルテオン・シューティングブレークは、機能よりすこしスタイルに寄せたコンセプトが光る。独自のキャラクターを持つモデルだ。
今回あらたに設定されたシューティングブレークとは、クルマ好きにはもはや説明はいらないかもしれない。クーペとステーションワゴンのクロスオーバー的なスタイルのモデルだ。車高は低めに抑えられ、スポーティさとエレガンスを強調したスタイルが特徴である。
あたらしいアルテオンとこのアルテオン・シューティングブレークは、フロントとリアを中心に外観に手が入れられた。インテリアは、機能主義的な考えもそれなりに大事にしつつ、ぜいたくさが強調されている。
ダッシュボードには大型液晶コントロールパネルがはまる。「We Connect(ウィコネクト)」なる通信機能が使えるため、たとえばスマートデバイスによりリモートでドアの解錠や施錠も操作できる。30色から選べるアンビエントライトの搭載も時宜にかなったものだ。
現代的に再解釈したのは、メルセデス・ベンツだ。荷室の大きさはやや控えめで、そのぶんスタイリッシュな「CLSシューティングブレーク」(2012年)と名づけた大型スポーティカーを出した。続けて、2015年には初代「CLAシューティングブレーク」を、というぐあい。マーケットではそれなりに人気があったと聞く。
アルテオン・シューティングブレークは、プロファイル(サイドビュー)をみると、ポルシェ「パナメーラ・スポーツツーリズモ」を連想させる。シルエットは流麗で美しいうえに、微視的には、たとえば下までまわりこんだ複雑な造型のクラムシェル型フードなど、作りが凝りまくっている。
内装も、フォルクスワーゲンのフラグシップにふさわしい。私が乗ったのは、上級グレード「TSI 4MOTIONエレガンス」。小さな孔が空いたパーフォレーテッドレザーというぜいたくな革を使い、かつシートは2色づかいと見た目にも特別感がひとしおだ。
長距離ツーリングが似合う
エンジンは、1984cc直列4気筒ガソリンターボ。200kW(272ps)の最高出力と350Nmの最大トルクをもつこのパワートレインには7段ツインクラッチ(VWでは「DSG」とよぶ)が組み合わされて、フルタイム4WDの「4MOTION(フォーモーション)」も標準だ。よどみないパワー感で、ひとことでいって気持ちのよいドライブができる。
試乗した「エレガンス」は、軽いアクセルペダル、軽めの操舵感のステアリング・ホイール、それにゆったりと上下動するサスペンションなど、ドライブすると、ソフトともいうべき印象だ。
おなじVWブランドのパサートが、しゃきっとした足まわりの設定で、意外なほど運転が楽しめる仕立てなのと好対照というべきか。アルテオンは、快適な移動を求めるひとに最も合っている感が強い。
電子制御ダンパーを組み合わせたアダプティブシャシーコントロール「DCC」は標準装備だ。その恩恵にあずかれるのは、コーナリング時だ。姿勢の傾きは抑えられ、しっかりと安定して、気持ちよくコーナーを抜けていける。
長距離のツーリングでも、アルテオン・シューティングブレークなら、疲労感なくこなせるだろう。2835mmのホイールベースの恩恵を最大限活かそうとしたパッケージングは上手で、後席はかなり広いし、荷室も広大だ。
おとなっぽいスタリッシュさは、人生経験を積んできた人たちによく似合いそうだ。機能というより趣味のために手にいれたステーションワゴンというイメージの強いシューティングブレークでカッコをつけられるのは、おとなの特権なのである。