ARCHITECTURE

銀座並木通りのアクセントたれ──青木淳が語る新しいルイ・ヴィトン建築

目抜き通りに面した店舗ではない。だが、そこはブランドにとって大きな意味を持つ店。建築家は、街並みとの調和を重視しながら、新しいラグジュアリーを表現した。銀座の古層と、たえず変化しつづける銀座の「いま」と──。この2つを融合した、生き物のようなルイ・ヴィトン 銀座並木通り店の魅力とは。

3次元曲面ガラスが紡ぎ出すブルーとオレンジの輝きは、空の色の変化などにより、刻々とその表情を変える。あえて照明を入れないことで、夜間はまわりの街並みを美しく映し出すようにした。

江戸時代の澄んだ海水のきらめきをイメージした

遠目には、大きな真珠の柱のように見えた。近づくにつれ、その表面が緩やかに揺らめき、さまざまな光を放っていることに気づく。まるで生命を持った有機体のような、不思議になまめかしい存在感。この3月に生まれ変わったルイ・ヴィトン 銀座並木通り店は、新しい時代のラグジュアリーの、美的感性の標本のように、そこに佇んでいた。

設計を担当した、建築家の青木淳が語る。

「江戸時代のころまで、銀座のこのあたりは海に囲まれた土地でした。当時はきっと、澄んだ海水に光が反射してきらめいていたことでしょう。そういう様子をイメージして、この外観のアイディアが生まれました」

周囲の光景をデフォルメしつつ映し出す波打つような特注の3次元曲面ガラスと、その内側に設置されたフラットなガラスが重ねられた効果によって、天候や時間、そしてそれを見る者の視線の角度によって、この建物は、色合いを変え、表情を変え、ときには形状すらをも変えたかのような「変身」を繰り返す。

「水面の反映をテーマにすると決めて、すぐに頭に浮かんだものがいくつか、あります。たとえば、福田平八郎の日本画、『漣(さざなみ)』。水面の反映に魅せられた福田が、プラチナ箔の画面に、群青でただただ水面の揺らめきだけを描いた作品です。音楽では、ドビュッシーの『水の反映』。大きな構成はなく、短いパッセージが集まってできている小曲です。水の戯れを表現するだけで絵画や音楽が成り立つなら、建築も成り立つだろう、と」

独特の表情と色彩を振りまきつつ建物を囲む3次元曲面ガラスは、いうまでもなく特注品だ。

「簡単にいえば、サングラスの偏光レンズのようなものです。ただ建築資材として使えるサイズのものを作るには大変な技術が必要でした。でもこのガラスができたおかげで、水面に揺れるクラゲのようにも見える建物を作ることができたのです。もうひとつこのガラスには、時間がたっても退色しないという特長があります。決して古びることなく、いつも自然や街の人工の光を映し出す。その意味で、美的にサステイナブルな建築ともいえます」

銀座並木通り店は、ルイ・ヴィトンというブランドにとって特別な店舗だ。いまや、全国にいくつもの大きなストアを展開するルイ・ヴィトンが、1981年に日本に初めて出した直営店は、この同じ場所にあった。そして、この並木通りこそは、当時もいまも、銀座のみならず日本を代表するショッピングストリートだ。

「並木通りは、歩行者が主役の通りです。そぞろ歩きしながら、それぞれの人が楽しみを見つけられるところが魅力です。だからこそルイ・ヴィトンのこの新しい店も、並木通りのランドマークにするのではなく、むしろ、ひとつのアクセントになることを目指しました。決して目立ちすぎはせず、通りに馴染む─。そのために、じつのところ、この外壁には照明が仕込まれていません。ですから夜になると、まわりの街の光を映し出します。季節が変わればもちろんですが、時間が変わっても違う見え方になります。ということは、並木通りが変化すれば、この建物も変化する。並木通りの景色をつくりながら、並木通りの景色によって変身しつづけていく。これから先、この建物が、並木通りそのもののように長く愛されていくことを願っています」

内装を手掛けたのはアメリカ人建築家・ピーター・マリノ。吹き抜けの階段部分の壁は、ニューヨーク在住のアーティスト・藤村喜美子の絵画を石膏で再解釈した巨大な壁があしらわれている。

7階にはシェフ・須賀洋介とのコラボレーションで世界2店目となる「LE CAFE V」が誕生。

落ち着いた雰囲気のプライベートサロンには、国内外の著名アーティストの作品が並ぶ。

2重のガラスで作られた美しい外観を内側から眺める。白いガラスの濃淡が光のグラデーションを生み出す。

FLOORGUIDE ルイ・ヴィトン銀座並木通り店フロア紹介

Entrance

吹き抜けの階段に巨大かつ妖しく揺らめくクラゲが浮かぶエントランス。この建物の外観が持つどこか有機的な雰囲気を、インスタレーションとして共鳴表現している。

1st floor

新作バッグやウォッチ&ファインジュエリーを展開。奥のポップイン・スペースでは、時期によってさまざまなアイテムがフィーチャーされる。

2nd floor

螺旋階段を上った2階では、ルイ・ヴィトンのアイデンティティともいえるトランクやレザーグッズ、インテリアコレクションなどを展開。

3rd floor

ウィメンズのプレタポルテから豊富なラインナップを揃える3階は、外光も採り入れ、明るく華やかな雰囲気が漂う。

4th floor

4階はメンズフロア。プレタポルテのウェアやシューズなど、豊富な品揃えと、ゆったりとした空間で、落ち着いたショッピングを楽しめそう。

青木 淳  建築家

1956年生まれ、神奈川県出身。東京大学大学院修了後、1982年より磯崎新アトリエに勤務。1991年に青木淳建築計画事務所(現・AS)を設立。現代日本建築を代表する建築家のひとり。1999年のルイ・ヴィトン 名古屋ビル以降、表参道ニューヨーク大阪・御堂筋など数々のルイ・ヴィトンの店舗の建築に携わる。毎日芸術賞など、受賞歴多数。

Photos 鶴岡義大 Yoshihiro Tsuruoka / Words 川上康介 Kosuke Kawakami 

Photo: ©Daici Ano / Louis Vuitton