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ロータリーエンジンの衰退と復活、そのワケとは?

ロータリーエンジンが、今ふたたび注目されている。マツダが復活させる理由とは? 世良耕太がメカニズムなどとともに解説する。
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ロータリーエンジンの仕組み

ロータリーエンジンは、ドイツのフェリックス・ヴァンケル(1902〜1988年)が基本構造を発明した。ゆえに、燃料が燃焼したときの熱を仕事に変換する燃焼サイクルの分類上は、“ヴァンケルサイクル”と、呼ばれる。

ピストンが往復運動をして燃料が持つ化学エネルギーを機械エネルギーに変換するレシプロ(往復運動)エンジンは、ドイツの発明者(ニコラス・オットー、1832〜1891年)の名をとってオットーサイクルと呼ばれる。

ロータリーエンジンの基本構造は、ドイツのフェリックス・ヴァンケル(1902〜1988年)が開発した。

AUDI AG

オットーが設立したエンジン研究開発企業の従業員だったゴットリープ・ダイムラーとウィルヘルム・マイバッハの手により、1884年に世界初の自動車用ガソリンエンジンが作られた。以来、オットーサイクルのレシプロエンジンは世界の多くの企業が採用し、エンジンの主流となって現在に至っている。世界中のメーカーが競うように技術開発をおこなうことで効率は飛躍的に向上し、洗練されたものになっていった。

一方、ロータリーエンジンの開発が本格化するのは、20世紀の半ばになってからだった。1951年、ヴァンケルはドイツのNSUと技術提携を結ぶ。1959年には開発の成果が公表された。レシプロエンジンはピストンの往復運動をクランクシャフトで回転運動に換えて動力を取り出すのに対し、ヴァンケルのロータリーエンジンは、繭型のハウジングの中で三角おむすび型のローターが回転しながら吸気〜圧縮〜膨張〜排気というオットーサイクルのレシプロエンジンとおなじ行程を繰り返すことで仕事をする。

世界初のロータリーエンジン搭載車であるNSUの「ヴァンケルスパイダー」。

AUDI AG

NSU「Ro80」はロータリーエンジンを搭載した初のセダンだ。

AUDI AG

Ro80のインテリア。1967年から1977年まで生産された。

AUDI AG

ロータリーエンジンはレシプロエンジンのように往復運動を回転運動に変換する必要がなく、回転運動のみによって動力を取り出せる点が優れていると考えられた。レシプロエンジンはピストンが上死点と下死点でいったん止まって再び動き出すため、慣性力が働いてそれが振動の原因になる。ロータリーエンジンは回転運動のみなので、振動の点で有利。さらに、部品点数が少なく、軽量でコンパクトにできるメリットもあった。部品点数が少なく軽いため、材料コストや製造コストも低く抑えられると考えられた。

広島のマツダは1961年にNSU社とライセンス契約を結び、ロータリーエンジンの開発に着手した。1964年にはNSUが世界初のロータリーエンジン搭載車となるヴァンケル・スパイダーを発売。1967年5月にはマツダが、燃焼室の気密性を保つシールの開発など、数々の苦難を乗り越えて日本初のロータリーエンジン搭載車となるコスモスポーツを発売した。その直後、NSUはロータリーエンジンを積んだスタイリッシュなセダン、Ro80を発売する。

1967年に登場したコスモスポーツは、982cc2ローターの「10A型」エンジンを搭載した。

前期の最高出力は110ps。後期は128psに向上した。

コスモスポーツはふたりのりの2ドア・クーペ。

1960年代から1970年代にかけて、メルセデス・ベンツやGM、シトロエントヨタ、日産、いすゞなどがロータリーエンジンの研究や開発に着手したが、本格的な実用化には至らなかった。のちにアウディに吸収されるNSUのロータリーエンジンは、耐久性の問題が解決できないまま見切り発車に近い状態で発売したこともあってトラブルが頻発し、1977年に生産を終了した。

以後、レシプロエンジンの開発は世界の多くのメーカーが大きなリソースを割いて開発に取り組んだのに対し、ロータリーエンジンはマツダだけが孤軍奮闘する形で開発を続け、量産してきた。

ロータリーエンジン衰退の理由

そのマツダのロータリーエンジンも、2012年にRX-8が生産を終了したため、新車市場から消えた。ロータリーエンジンは小型軽量のため搭載位置の自由度が高く、前後重量配分の最適化に貢献した。

歴代のRX-7や、その流れを組む4シータースポーツのRX-8はロータリーエンジンの特徴をスタイリングの面でも、運動性能の面でも存分に活かし、クルマの魅力を引き上げた。

1990年登場のユーノス・コスモには、3ローター・エンジンを搭載したモデルもあった。

3ローター・エンジンの最高出力は280ps。

世界初のGPSカーナビを採用したインテリア。

ロータリーエンジンそのものも十分に魅力的で、独特のビートを発しながら抵抗なくスムーズにまわるフィーリングが、多くのドライバー(筆者もそのひとり)を虜にした。

しかし、厳しくなる一方の燃費規制が、ロータリーエンジンの命脈を絶つことになった。

軽量、コンパクトで振動が少ないといった長所がある半面、燃焼室が偏平で細長い形状をしているため、火炎伝播による燃焼速度が遅く、効率を向上させるのが難しい。燃焼室の表面積が大きいため、冷却損失が大きいのも短所だ。レシプロエンジンに比べてロータリーエンジンはシールが長く、ガスの漏れが多いのも短所に挙げることができる。これらはロータリーエンジンの構造上生じるものなので、手の打ちようがない。

RX-8は2003年に登場。

RX-8は、特徴的な観音開きドアを採用。

RX-8はロータリーエンジンを搭載した4人乗りクーペ。

復活の理由

そうはいってもロータリーエンジンの火を絶やすのは惜しいとマツダが考えたとしても、不思議ではない。なにしろ、ロータリーエンジンはある時期からのマツダの成長を支えてきた御神体である。多くの自動車メーカーがさじを投げるなか、マツダだけがロータリーエンジンをものにできたのは、挑戦の気持ちを捨てずに技術を磨いたからだ。そのスピリットを受け継いでいるからこそ、ディーゼルエンジンやロードスターの復権があったし、世界で初めてガソリン圧縮着火燃焼(SKYACTIV-X)を実用化できたのだ。

2代目プレマシーには、発電機用にロータリーエンジンを搭載したシリーズハイブリッドモデル「ハイドロジェンREハイブリッド」というコンセプトカーもつくられた。

マツダはロータリーエンジンが持つ小型軽量で振動が少ない利点を活かし、発電専用エンジンとして復活させることを発表している。搭載するのはMX-30だ。

コンパクトSUVのMX-30にはマイルドハイブリッドモデルとEVモデルがあるが、EVモデルの航続距離を延ばすためにロータリーの発電専用エンジンを組み合わせ、2022年に発売する。バッテリーに蓄えた電気エネルギーがなくなったら、ロータリーエンジンで発電し、その電気で走り続ける仕組みだ。

MX-30には、発電用のロータリーエンジンを搭載したEV(電気自動車)が今後追加されるという。

インテリア・トリムの一部には、本物のコルクを使う。

ロータリーエンジンの復活はうれしいが、かつて大活躍したヒーローが再登場する演出としては、いささか寂しい気がしないでもない。電気エネルギーがなくなったときの助け船に徹するわけで、主役ではないからだ。アクセルペダルの動きに応じてエンジンがダイレクトに反応するわけではないので、高回転まで引っ張ったときの、あのゾクゾクするような感動は期待できない。

しかし、ロータリーエンジンを育てたマツダのことである。得意のチャレンジングスピリットで課題を克服し、ドライバーのよき相棒として復活する日が来ることを期待したい。1度味わったら忘れられない、あの独特の回転フィールを永遠に葬り去ってしまうのは、自動車文化にとって大きな損失である。

ロータリーエンジン フェリックス・ヴァンケル NSU アウディ Re80 マツダ MAZDA コスモ・スポール RX-7 RX-8 ユーノス MX-30 レンジエクステンダー サバンナ 東洋工業
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文・世良耕太