MUSIC

追悼! ダギー・フィールズ

ロンドン・カルチュアを代表するポップ・アーティスト、ダギー・フィールズが逝去した。1970年代からの友人であったジーン・クレールがレガシィを振り返る。
Hasselblad H5D

2021年3月7日、アート界はひとりの偉大なイギリス人ポストモダニストを失った。ダギー・フィールズが亡くなったのだ。私にとってこれは非常に個人的な出来事だった。ダギーと私は50年来の友人だったのだ。胸の張り裂ける思いがする。

14歳のころから頭角を現してきたダギーがほかのアーティストと一線を画すのは、彼の描くものがすべて彼の作り上げた世界の上に成り立っているというところだ。その作品世界はアートそのものの語り口を押し広げた。そこにはモンドリアンからマーベル・コミックのスタン・リー(驚くべきことに、彼と私も長年の友人だった)までもが含まれていた。見た目の派手さと形式が完璧に融合していたのだが、これこそまさに見過ごされがちだった彼の才能であり、事実、彼の推進力となっていたのは形式だった。鮮烈な色合いやポップなモチーフなどを形式として扱った彼はまぎれもなく技巧派だったのだ。

ダギーは、現代アーティストの巨大なコミュニティの一員だった。顔ぶれはデイヴィッド・ホックニーや、豊かな才能である故ルシアナ・マルティネス・デ・ラ・ロサなど。特にマルティネス・デ・ラ・ロサの死後は、ダギーの作風が暗くなってしまったように思えるほど大きな打撃を受けていた。とはいえ、ダギーのアプローチは非常に優れたもので、アイロニーとパロディに満ちていた。キャンプでヒューモラスなのだ。世界に遍在する苦しみや悲観的なイデオロギーを打ち消す声(ヴォイス)をアートで表現したのだ。彼は冷笑的な態度をあくまで否定した。

作品のなかに醸し出される雰囲気は、自己像が投影されているようだ。すなわち額にかかる一筋の巻き毛、ゴルフシューズのような白いローファー、モヘア地の派手な色をしたタイトなフィッティングのスーツ、太くよく響く声、踊るような足取り。ダギーは自らが生み出した"ダギー・フィールズ"というジャンルを確立した。人間と神話、あるいは自然と人工、そんな対比が、ある意味では彼にとってのリアルだった。自らのスタイルを外の世界と繋げることに長けていた彼は、ここ日本でも資生堂のテレビコマーシャルを手がけた。そのポップでグラマラスな広告を地下鉄で見たことを覚えている。自身のマンガ的なイメージを否定するより、むしろ楽しんで、それを生かした作品を創り出した。

ダギーについて称賛すべきなのは、決して立ち止まらなかったところ、変化に抗わなかったところ、そして新しいテクノロジーを使いこなしたところだ。21世紀に入ってもダギーはダギーであり続け、嬉々として制作に打ち込んでいた。実際に彼が去ったいま、われわれに残されたのは絵の描き方を知り尽くし、作業の進め方もキャンバスの使い方もよく知っていた人物の記憶だ。あるいは芸術という言語を知り、それを自らの表現やイマジネーション、表現したいものに応用する方法を心得ていた人物の記憶でもある。芸術、あるいはアーティストにこれ以上のものを望むことなどできるだろうか。

私がロンドンで孤独なアメリカ人として過ごしていたころ、最初にできた友人のひとりがダギーだった。私はこれからもずっとこの男を、このアーティストを敬愛し続ける。ダギーの人となりと芸術を引き離すことは誰にもできない。

Photographer: Patrick Jameson
Photographer: Patrick Jameson
Photographer: Patrick Jameson

2018年に、スコットランドのグラスゴーにあるギャラリー「モダン・インスティテュート」で開催された、フィールズのエキシビションの様子。絵画からインスタレーションまで展開する大規模な展示会だった。

ダギー・フィールズ

1945年、英・ウィルトシャーのソールズベリー地区生まれのアーティスト。1970年代から80年代にかけて、イギリスを代表するフィギュラティヴ・アートの画家として活躍したほか、ファッションアイコンとしても知られている。1968年にはバンド、ピンク・フロイドを脱退したばかりのシド・バレットと共同生活をし、バレットが引っ越したあとも、そのアパートに住み続けた。アニメやポップスター、ファッションなどのモチーフをサルバドール・ダリやピート・モンドリアンから影響を受けたグラフィカルかつシャープなスタイルで描く。

ジーン・クレール

『GQ JAPAN』『VOGUE JAPAN』のインターナショナル・ファッション・ディレクター。ファッション・デザイナーヴィヴィアン・ウエストウッドの右腕を務めた経験をもち、世界的に活躍している。

Installation view, Duggie Fields, The Modern Institute, Osborne St, Glasgow International 2018 
Photo: Patrick Jameson Courtesy of the Artist and The Modern Institute / Toby Webster Ltd, Glasgow

Words ジーン・クレール Gene Krell
Translation 河野陽子 Yoko Kono