ニューヨーク6番街のヒルトン。
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- アナリストのマイケル・ベリサリオは、事業用不動産のホテル部門が新型コロナという嵐をいかにして乗り切るのか、回復はいつごろになるのか、ポッドキャスト番組に出演して見通しを語った。
- それによると、ホテル部門が健全性を回復していく上で決定的な役割を果たすのはビジネストラベルで、レジャーとしての旅行が回復するだけでは足りないという。
- ベルサリオは、「採算のとれる水準まで回復」するのは2021年春になると予想している。
新型コロナウイルスの感染拡大後、事業用不動産のなかで最もひどい被害を受けたうちのひとつがホテル部門だ。
米投資銀行ベアードのアナリスト(ホテル産業担当)マイケル・ベリサリオは、6月中旬のポッドキャスト番組「コマーシャル・リアルエステート・ショー」に出演し、ホテル産業の未来と2020年下半期の見通しについて語った。
「間違いなく厳しい状況が続きます。皆さん忘れがちですが、ビジネス出張や大人数の集まる会議での宿泊は、ホテルの需要や収益性確保に大きな役割を果たしているのです。それがいま実質的にゼロで、おそらく年内はこの状況が続きます。もしかしたら、3月まで引きずるかもしれません」
観光地のホテルでは経済再開後の5月以降、観光客の回復が始まっているものの、ベリサリオによれば、その宿泊需要が全体に占める割合はごくわずかにとどまるという。
また、感染の再拡大に伴い、南西部を中心に全米各地で6月後半から再閉鎖の動きが出てきており、宿泊需要は回復どころか逆戻りの様相を呈している。ベリサリオは番組で次のように断言している。
「観光やレジャーの宿泊需要だけでは、ホテル産業の回復は不可能です」
ラスベガスを例にとると、同市のマーケットは多様なビジネスから構成されていて、決してギャンブルだけで稼いでいるわけではない。ふだんからいくつも開催されている数千人規模の国際会議などが復活しないと、ホテル産業にとって厳しい状況が続くのは間違いない。
「会議が開催されたとしても、(ソーシャルディスタンシングを維持すると)参加人数の限界は従来の5割。問題なのは、参加人数が半分だからといって、収益も半分という単純計算にはならないことです」
出張需要は回復するのか
ベリサリオが指摘するように、大企業は従業員に宿泊を伴う出張、とりわけ大集団がいるところに参加する出張を回避するようになっている。もちろん、感染リスクを恐れてのことだ。
マンハッタンやサンフランシスコ、シカゴのような大都市のホテルについて言えば、どうしても回避できない必要でもないかぎり誰も泊まりたがらないのが現実。しかも、一部のホテルはまだ閉鎖されたままだ。
ベリサリオは「採算のとれる水準まで出張需要が回復する」のは2021年の春になると予測する。
最近の「回復傾向」データは誤解のもと
フロリダ州マイアミのリッツ・カールトン。
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ポッドキャスト番組での解説によれば、データは「(いくらかでも)改善されてきている」状況を示しているが、ベリサリオはその数字をいらだたしく感じているという。ホテルが実際に置かれた状況を誤認させることになるというのがその理由だ。
「6〜8月は繁忙期ですが、閉鎖されたままのホテルも多いので、開けているホテルには観光客が集中して稼働率が高まり、レートインテグリティ(=サービスに対する料金設定の適切性)も維持されます。しかし、時間差でいずれ宿泊料金は下がっていきます。その点が見落とされがちなのです」
さらに、「コロナ前の水準」として2020年2月の数字が使われていることも誤解を招く要因で、2月が過去最低レベルで客足の伸びなかった月であることを忘れてはならない、とベルサリオは指摘する。数字は2月の水準に徐々に近づいているとしても、それは必ずしも急速な回復を意味しない、というわけだ。
[翻訳・編集:川村力]