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「Maison KEI」に行って、パリで3つ星を獲った小林圭シェフと話した!

『GQ JAPAN』鈴木正文編集長と飲食担当エディター岩田桂視が「Maison KEI」に実際に訪れて、食べた! 取材の様子をリポートする。
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SHINSUKE MATSUKAWA

いざ、御殿場へ

御殿場IC出口からクルマで約10分という至便の場所に「Maison KEI」ができた。オープンしたのは1月30日。小林圭がオウナー・シェフのパリの「Restaurant KEI」が、2020年のフランス版ミシュラン・ガイド赤本で3つ星を勝ち取ったことは、すでに各所で報道されている通りで、その小林が開いた「Restaurant KEI」の姉妹店が、「Maison KEI」である。東名高速道路の東京用賀料金所から御殿場出口までは100km弱。行かなくてどうする、の距離だ。というわけで、編集長・鈴木とデジタル副編&飲食担当編集の岩田は好天にめぐまれたオープン直後の某日午前、ランチに間に合うようにと、おっとり刀で駆けつけたのであった。

どの客席からも富士山の雄大な姿がほぼそっくり見られる。窓の下には、庭のようにも見える畑がのぞける。「ゆくゆくはここでハーブや野菜を育てて、提供したいと思っています。手前には水を引きこんで、クレソンなどもつくるつもりです」と小林圭さんはいう。

SHINSUKE MATSUKAWA

近いね

(鈴木編集長、電話をかける)

鈴木正文編集長(以下S) もしもし、岩田くん。到着したよ? いまどこ?

担当編集岩田(以下I) ぼくもレストランの駐車場です。あ! 編集長のクルマ、アルピーヌA110リネージュを見つけました! (走りながら近づいて)いやー、しかし立派な駐車場ですね。

S (あたりを見渡して)26台、停められますね。1台あたりのスペースに余裕があるし、出入り口の段差もなく敷地がフラットなので、稲垣くん(「29歳、フェラーリを買う」の連載を執筆するデジタル・エディター)のフェラーリ360モデナでも下をこすらずに駐車できますね。

(Maison KEI)

I たのもー! もとい、ごめんください。あ、圭さんだ。いつも連載の「フランス料理のABC」にご協力いただき、ありがとうございます! そしてこのたびは開店おめでとうございます。

小林圭(以下KEI) 今日はありがとうございます。あ、鈴木さん、ご無沙汰しております。どうぞ、中をご覧になってください。

S ありがとうございます。お元気そうで、なによりです。(ダイニング・ルームに進んで)おお、すばらしい。どの客席からも富士山が見えますね。それに、この空間は木をふんだんに使っているので、雰囲気があたたかい。いきなりなごめる感じであるうえに開放的で、居心地がいいですね。建築家はどなたですか?

KEI 内藤廣さんです。「とらや 赤坂店」を手がけられた方と同じです。

I なるほど、ちょっと似た感じがありますね。屋根もそうですが、建物全体がゆったりとした弧を描いているところとか……。ところで、「とらや」さんとコラボしたのはどんな経緯だったのでですか?

左手奥に半個室がある。

SHINSUKE MATSUKAWA

KEI 「とらや」の18代目社長の(黒川)光晴くんとは10年ほど前にパリで出会ってからの付き合いなんです。かれがパリの「とらや」で働いていたときに知り合って、2015年に「とらや」パリ店をリニューアルオープンするときには、うち(「Restaurant KEI」で研修したりもして、仲の良い関係なんです。この「Maison KEI」のすぐそばには、「とらや工房」があります。16代目が、富士山の雪解け水ときれいな空気、それに豊かな自然に感動して、50年ぐらいまえにあんこやようかんの工場を作り、以来、御殿場はとらやにとってゆかりの深い地なんです。

I このレストランをつくろうというアイディアが生まれたのはいつごろですか?

エントランス。

SHINSUKE MATSUKAWA

KEI 5年前ぐらいだったと思います。とにかく立地がすばらしいですし、つねに富士山を望むことができるので、理想的な環境だと思います。内藤先生の作品は、できたてのいまもとてもいいですが、時間がたって、いっそう風景に溶け込むようになると、さらによくなると思います。

S なんといっても、ダイニング・ルームから富士山がほとんどまるごと見えるのはすばらしいですね。ここまでの好環境のレストランはまずないとおもいます。ところで、いま、パリの店がリニューアル中と聞きましたが?

開放的な雰囲気の半個室。6人まで。

SHINSUKE MATSUKAWA

KEI はい。パリのお店のリニューアルは、パリを拠点に活動している建築家の田根剛さんにお願いしていて、クリスタルルームのような感じにしてほしい、とお伝えしています。パリの場合は、材料としては石が主役ですね。ヨーロッパのいい建物っておおむね石なんですが、いまモダンな店はみんな木を使っています。でも、モダンな空間であっても石主体で成立すると思っています。日本人の店だからこそ、あえて木ではなく石で挑戦したかったというのもあります。石は、イタリアとスペインで新しく切り出した石を使っています。

S ここではどんな料理をだしますか?

KEI 地域を活性化したいと考えているので、食材は地産地消を基本にしています。この周辺地域のいいものを使っていくうちには、それが呼び水になって、県外の人もふくめて、この地で生産者になる人が増えるとか、そんなふうになったら地域の活性化に貢献できるかなって思いました。それと料理ですが、なにげない普通の日に自分が食べたいと思う料理をつくっていきたいと思っています。つまり日本にアダプトしたフレンチみたいなことなんですが、力みかえらない料理を出したいですね。いまはコースが主体ですが、コロナが収束したら、お品書きみたいな形でのアラカルトもやるつもりです。作りおきのものから、取り分けるスタイルとかもありで。それに、ゆくゆくはカレーも出したいですね。ほかにも、コルドン・ブルーとかもいい。おいしければいいんじゃないかなって。それと、ここはとらやの“あんこ”が食べられるレストランです。しかもほかのとらやで食べられない「洋」のあんこです。デセールのバシュランは、30回ほど試作しました。

チーム「Maison KEI」勢揃い! オープン時には「Restaurant KEI」のスタッフも加勢にきた。右奥に見える(見えるかな?)のがオーデマ・ピゲのウォールクロック。

SHINSUKE MATSUKAWA

I わ、それも楽しみですね。そして本当に厨房がすごいですね! 中華レンジとほかに、大型スチ(ーム)コン(ベクション・オーブン)が2台あるし、ピザ窯もありますよね。あと、オーデマ・ピゲのウォールクロックも格好いいなぁ!

KEI 厨房機器はフジマックさんにお願いしたんですが、「こんな大規模の厨房設計はひさびさです」って言われました。設備はパリの厨房よりもいいです。

I 厨房に外の景色を見ることのできる窓があるのも珍しいですね。人に見せるための窓がある厨房は多くても、キッチンから外の景色を見るための窓がある厨房ってそんなにないんじゃないでしょうか。

エントランスには小林さんのレシピブックがディスプレイされていた。

SHINSUKE MATSUKAWA

KEI 料理人は飼い犬ではないですからね。自由に光を浴びていいし、せっかくのこういう場所ですから、空気や緑、自然を感じてほしいんです。このレストランでは、雄大な自然のなかで、お客さんに、肩の力を抜いて、リラックスして食事を楽しんでほしいと思っていますので、つくる側ものびのびと調理を楽しめるようにしたいですね。その点、パリのレストランは、3ツ星としての面目をかけた、息もつけないほどの、張り詰めた、料理人としての挑戦のステージです。けれど、ここでは、私自身、楽しみながらさまざまな料理に挑戦するので、みなさんにもカジュアルに楽しんでいただきたいですね。

S それはますます楽しみですね。ところで、むかし、ピエール・ガニェール青山にレストランを作ったときに、青山のキッチンにモニターを置いて、パリとつないで、調理をコントロールしていましたよね? ああいうことはされないのですか?

KEI やってましたよね! (アラン・)デュカスさんもやってました。最初はいいアイディアだと思ってはじめたようですが、でも結局、やめてしまいましたね。その理由のひとつは、映像を通して見ていると、そのころは、実際よりも動作がゆっくりに見えたみたいで、それを見てシェフはイライラしてくるし、思ったようにワークしなかったということがあるようですね。コロナが収束したら、わたしは、年2回のバカンスを利用して、パリからここにやってこようと考えています。

静岡の野菜を中心に構成された「ジャルダン・ドゥ・レギューム・クロッカン」。たっぷりの野菜にレモンの泡に数種類のソース、マスなどが絡み合う。よく混ぜて食べる。

SHINSUKE MATSUKAWA

今から“はじまる”

I 突然ですが編集長と圭さん、知り合って長いですよね?

KEI うち(Restaurant KEI)は2021年3月3日でオープン10周年を迎えます。鈴木さんが最初にいらしたのは、開業したばかりのころでした。

S 覚えてますよ。イギリス人風の紳士がサービスにいて、グレイのダブルブレストのジャケットがよく似合っていた。

KEI あの人、イギリス人みたいにみえますが、フランス人なんですよ。

S そうなんですね。英語も達者で、あまりアクセントがなかったので、イギリス人かな、なんて思いました。圭さんは当時も、いまと同じような金髪で、いかにも新しい世代のチャレンジングなスタイルの料理人、という印象でした。その挑戦的なルックス同様、料理も新しいのですが、味わいはとても優しいんですね。堪能いたしました。それにしても、あっという間に3ツ星を獲ったイメージです。相田(康次)さんの店(あい田)は、当時から頻繁に行っていて、あちらはフランスの食材を使った日本料理で星をひとつとっていますが、圭さんは純然たるフランス料理でたちまちのうちに3ツ星になった。そこがすごいですね。ところで、相田さんは一時期、バルサミコ酢でシャリ切りした寿司を出していましたよね。あれ、僕はけっこう好きでした。パリの日本料理屋だからこそのアイディアが。

KEI 覚えてます。かれは料理もうまいし、お話もうまいし……そりゃ人気出ますよ。でも、パリにいらしたら、うちにもきてくださいね!(笑)

I でも、大人気でなかなか予約できませんよね? ぼくもあるとき、シャルル・ド・ゴール空港に到着してすぐに、1週間の滞在中にいけないかなと思って、Restaurant KEIに電話して、頑張って「ボンソワァ、ジュヴ ドレ レゼルヴェ……」っていったことがあるんですが、どの日もすでに予約で満席でした。

S それは残念でした。相当まえもって予約しないとむずかしいでしょうね。

KEI 2ツ星の時代で、1カ月半ぐらい先でないと予約できなかったようですね。

I そうでしたか。いつパリに行けるかわかりませんが、次は心して早めに「ジュヴ ドレ……」します。ところで、3ツ星をとってなにか変わりましたか?

「ピティビェ」はホロホロ鳥をパイ包み焼きにしたもの。鳥のさまざまな部位をパイ生地に詰めこんだ。歯触りとレバー由来のソースの濃厚な味わいが楽しい。

SHINSUKE MATSUKAWA

KEI よくそう質問されるのですが、3ツ星をとったいまから、Restaurant KEIが、またあたらしくはじまるのだ、とおもっています。シェフが人々に語られるようになるのも、3ツ星を取ってからなんです。デュカスさんにしても(ジョエル・)ロブションさんにしても、まずはその料理によって3ツ星をとった。で、3ツ星をとってからは、“かれの料理はこうだよね”とか“これがかれのスタイルだよね”と言われるようになりました。3ツ星をとって、さらにいい素材やいい人材が集まるようになり、そうしてやっと、自分たちの世界がでてくるんだなっていうのを感じています。いまはまさに、その「自分たちの世界」を作っているところです。

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S それから、オウナー・シェフともなれば、料理人として料理だけ作っていればいい、というわけではないですよね。経営者としての手腕も求められる。

KEI はい、大変です。パリはロックダウンもあったので、去年は実質、半年ほどしか営業していません。だからといってスタッフを減らしたりしたら3ツ星は維持できません。ロックダウンがはじまったときに最初にみんなに言ったのは、チームで獲った星なので誰一人欠けてほしくない、ということでした。これまでの業務とは別のいろいろなこともお願いすることになったら、それにも取り組んでもらいたいって言いました。で、それがいま実りになりつつあります。

あんこを使ったデザートの「バシュラン」は、まるでモンブランのような仕立てが特徴の、「とらや」らしさが光る一品だ。

SHINSUKE MATSUKAWA

I 3ツ星ってやっぱり大変なんだなぁ。

KEI それでも、最終的には、自分の仕事は料理をつくることだと考えています。その一環として、サービスがあるし、経営がある。スタッフみんなにもいうのですが、「おもてなし」とはなにか? ということを、やっぱりちゃんと考えなければいけない。もし、好きな人が家にあそびにきてくれるということになったら、あなたはどうしますか?と考える。その人が家にやってきたときに、まずどんなムードをつくっておくのか、ということからはじまって、では、部屋はきれいなのか? 温度は何度がいいのか? 水は? ワインは? という心遣いの延長で料理を考える。そこまで考え抜いて、最終的にゲストを迎え入れるわけです。いいレストランであるためには、「おもてなし」がきちんとできなければいけない。厨房もサービスも、そのためにもっともいい状態を保っているのが理想です。で、そういう条件や状態をつくるのがわたしの課題です。

I そうなんですね。すさまじく大変そうです。それでは、いよいよ料理を頂戴したいと思います。

KEI はい、どうぞ、こののどかな場所で、ほっこりした料理を食べていただきたいと思います。そうして、食事をして、元気がでたなぁって思っていただけたら最高です。

S では、岩田くん、圭さんの心と技術がこもった料理を全集中して経験して、読者にきちんと伝えてくださいね。

I 最後にキツめの御説教を食らうかと思ったら、「鬼滅」ですね。禰豆子を人間に戻すぞ! じゃなくて、食レポの鬼になるぞ!

SHINSUKE MATSUKAWA

PROFILE

小林圭

「Restaurant KEI」
オーナーシェフ

1977年生まれ、長野県出身。1999年に渡仏し、南仏やアルザス地方のレストランで修業。2003年からパリ「プラザ・アテネ」勤務。2011年「レストランKEI」開店。2020年にミシュラン・フランス版でアジアのシェフとして初めて3ツ星を獲得した。

SHINSUKE MATSUKAWA

INFORMATION

Maison KEI

静岡県御殿場市東山527-1
TEL:0550-81-2231
営:11:30〜13:00LO、17:30〜20:00LO
休:火、水

※ランチは4皿で3500円から、ディナーは4皿で4800円から

※営業時間は変更の可能性があり。

文・岩田桂視(GQ) 写真・松川真介


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