CULTURE

「今の時代を象徴するタトゥーカルチャー」──TAPPEIが心の内に秘めた刺青への願い

日本人の刺青にたいする価値観が変化の兆しを見せている。28歳のタトゥーアーティスト、TAPPEIにインタビューした。
Tappei

「タトゥーを受け入れろって発信は、個人的に好きじゃない」

その言葉の通り、タトゥーアーティストのTAPPEIは自らの理想を語らない。彼は日本の刺青文化の成熟を静かに待ちながら、自身にできることを模索する。タトゥー医師法裁判の無罪判決や、ボクシング・格闘界での論争などに見られるように、日本の彫り物文化が近年、幾度めかの過渡期を迎えている。日本の刺青文化の、新たな時代の新たな価値観を形成していくうえでの、キーマンであるかれに話を訊いた。

──TAPPEIさんがタトゥーアーティストになったきっかけを教えてください。

もともと絵を描くのが好きだったのもあって、最初に憧れたのは任侠映画に出てくるような和彫りでした。その後、洋服にも興味を持ち始めてから、スクリーミングハンドを描いているジム・フィリップスのグラフィックを見るようになって、80’Sとかアメリカトラッド寄りのタトゥーも良いなと。それで、いろいろな本とか雑誌を見ていたら、スケーターたちがノリで入れている本当にダサいタトゥーの写真を見つけて、(タトゥー)マシンも使わずに家の中にあるものでDIYでやっていた光景もふくめ、かっこよく見えたんです。こんな世界もあるんだって驚いて、そこから徐々に自分の今のスタイルが出来上がっていきました。絵を入れたいって感覚なんですよね。タトゥーを彫り始めたのが18歳。僕の身体にあるのは、手の届く範囲はほぼ全部自分で彫ったもので、最初は和彫りが好きだったので、足に龍を入れました。

自分自身で彫ったファーストタトゥーは今も左足に刻まれている。

──最近は落書きテイストのタトゥーをよく見かけるようになりました。 

明らかに増えていますね。ファッションもそうですけど、韓国の人たちってすごく流行に敏感だと思うんです、その影響もあると思います。もともとはLAのアーティストが広めたスタイルだと思っていて、海外で落書きっぽいテイストが増えてきた流れをキャッチして、韓国でゆるいタトゥーを小さくポイントで入れるのがバッと流行ったんですよ。日本の刺青文化は良い意味でもこれまで保守的だったなかで、身近な韓国のカルチャーを通して、これまでと違った印象でタトゥーが日本人の目に触れるようになったのも、最近の変化のひとつの要因かなと。ただ、トレンドだからやってる彫り師も多いので、それはちょっとどうなの? と思います。スタイルを突き詰めて、結果的に落書き調になったデザインとでは全然違いますから。身近になっても、一生残るものなので、その差は大きいと思います。 

壁に貼られたタトゥーフラッシュ。ゆるさのバランスとブラックユーモアのセンスが持ち味だ。

──TAPPEIさんは独特の世界観があると思うのですが、どのようなことを大切にしていますか?

やっぱり、ずっと考えているのは面白みのあるデザイン。もともとアートより少し力の抜けたものが好きなので、ギャグではないんですけど皮肉やユーモアは入れるようにしています。本当にただの落書きだったら正直、誰でも描けますよね。そういうのは僕はあまり好きじゃないので。洋服もここに隠しポケットがついてて~みたいなギミックがあると楽しいじゃないですか。だから深い意味はなくても、僕の絵は1個1個に説明できる、ちょっとしたひねりやストーリーがあって、そこはこだわっていますね。

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──先日、TAPPEIさんの顔写真が約2万リツイートされているポストを見かけました。なかには誹謗中傷のコメントもありましたね。日常生活においてタトゥーが入っていることで困ったり、トラブルになったりすることはありますか?

そんなに顔を出しているわけでもないので、今回が初めての経験でした。まあ自分でも、「そりゃ言われるやろって感じですけど(笑)」。わざわざネットに書き込みしない人も、内心はうわって思ってるでしょうし。彫り師の仕事をしていて、練習で自分で入れたものなので、あまり気にしていません。日常で困ることはなく、そもそもトラブルになる場所には行かないっていうのもあります。プールもスーパー銭湯も行かないですし、電車もあまり乗らない。絡まれたことは、実は一度もないんですよ。結局、問題になるきっかけは、別のところにあると考えます。自分が普通にしていれば、タトゥーがはいってるだけでは、何かに巻き込まれるってことは、あまりないんじゃないですかね。昔に比べてタトゥーに関して世間は寛容になってると思いますよ、最近は特に。

影響を受けた文化を感じられる、好きなものが詰まった施術スペース。

──日本のタトゥーカルチャーは今後どうなっていって欲しいと思いますか?

「タトゥーをもっと受け入れろ! 」って行動している人が悪いとは思いませんが、僕は個人的にそういう発信はあまり好きじゃないんですね。もちろんダメなことではない。でも、今は“それ”をやっている人ってみんなタトゥーを入れてる人たちじゃないですか。タトゥーが大好きなので、僕も心の中では、受け入れてくれたら嬉しいとは思ってますけど、それこそ僕みたいな人が言ったら「おまえ、自分が生きやすくしたいだけやろ! 」ってなるじゃないですか(笑)。これが5年、10年経ってタトゥーも入れてないような人が、「こういうカルチャーもあって素敵ですよね」って純粋に思い、普通に口に出して言えるような環境に、徐々になっていったらいいかなと。無理に認めさせることではないし、その方がタトゥー文化にとってもいい気がします。好きな人は好き、嫌いな人は嫌いでいい。ファッションでも、万人に受け入れられるスタイルが正解ってワケでもないじゃないですか。特別感みたいなところに惹かれる部分も正直あるので。ただ、このままでいいとも思わないので、自然な形で文化が成熟していけばいいなと思います。

タトゥースタジオに併設する形で、自身の絵画作品を展示販売するギャラリー兼アパレルショップのスペースが昨年完成した。

TAPPEI ROOMのオリジナルパーカ。刺青感をあえて排除したコミカルなデザインに。

──昨年の、TTT_MSW、RANDY、DAIRIKUなど、勢いのある日本の若手ファッションブランドとのコラボレーションもタトゥーカルチャーの可能性を広げる良いきっかけだと思いました。今後の動きにも期待しています。

狙いとしては、「実は彫り師が描いたイラストだった」と後から知るぐらいのものに仕上げたかったんです。かっこいいブランドとコラボできたからすごく好評で、発売日は長蛇の列になりました。思っていた以上に面白い取り組みになったと思います。開店前のタトゥースタジオに若者が並ぶことって珍しいので(笑)。僕の絵を好きって言ってくださる方のなかで「タトゥーは入れられないから、服を買えて嬉しいです」って言ってくれたお客さんがいて、それは僕自身もすごく嬉しかった。だから、このような機会はこれからも増やしていきたいなって考えてます。

PROFILE

TAPPEI

1993年生まれ、大阪出身。神戸芸術工科大学アート・クラフト学科を中退し、彫り師として活動を開始。2014年から拠点を東京に移し、原宿のセレクトショップ・CANNABIS(カンナビス)でのスタッフを経て、ペイント/グラフィックアーティストとして活動。

TAPPEI ROOM

住:東京都目黒区上目黒1-17-6 2F
営:14:00~21:00
Instagram:@tappeiroom

文・marble studio 写真・Ryutaro Izaki