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【みうらじゅん】怪獣モノから清張、そして谷ナオミまでソコガイインジャナイ、ニッポン!──みんなで語ろう!「わが日本映画」

最新作からコロナ禍があぶり出した古典まで、各界の論客が「わが日本映画」を語る。──「人生を変えた日本映画は?」というテーマに、みうらじゅんが挙げた日本映画は?

JUN MIURA

好きな日本映画は数々あるけれど、"人生を変えた"とまで、問われれば、それは相当な覚悟を持ってお答えしなければならない。

などと、エラソーに言うには、そのソフトは当然持っているのが僕の条件である。

ビデオなどない時代は、一期一会の可能性があったもので、映画館で必死になって頭に焼き付けようとした。

当時は二番館でなくても、併映がある場合もあって、僕のデータベースはパンパンとなった。いまだ映画館でパンフレットを買う癖があるのはそのせいで、帰宅途中、知り合いに会ったり、家に戻って「あんた、どこ行ってたんやな。テスト、近いんと違うの」と、オカンから小言などを言われ、大切に持ち帰ったはずの映画の名シーンが零れ落ちることを恐れたからだ。

自室に篭り、パンフを見返す。その作業はカップヌードルにお湯を注ぐが如し。堅く詰まったデータが徐々にふやけ、僕の頭の中で再映がかかるのである。

パンフのない、特にエロ映画と呼ばれるジャンルのものはそれ系の映画雑誌を買って、イメージを補った。

だから、VHSとβのビデオデッキが発売された時、(僕の大学時代)は、かなり高額だったが、漫画の懸賞金とバイト代を足して買入した。VHSを選んだのは「こっちにすればコレがオマケに付きます」と、"愛染恭子/本番生撮り"というビデオを差し出されたからである。ま、そんなことは本題に逸れるのでもう書かないが、ここは夢のような機械を手に入れ、最っ先に何をしたのかが重要。

後に、VHS、レーザー、DVDとそのツールは変わったけど、発売される度、同じ映画であっても、新たなパッケージや特典映像欲しさに買い続けてきた怪獣映画。それが、80年代初頭、たまにTVで放映されていて、必死のパッチで録画してたのである。

小学一年生の時、映画館で観た『三大怪獣  地球最大の決戦』(64年)が、まさか四畳半のアパートでくり返し観られるなんて思ってもみなかった。それは宇宙怪獣・キングギドラが初登場するもので、怪獣造形も抜群。口から吐く雷のような光線で、ビルや日本情緒芳しい神社の鳥居安堵をなぎ倒したりした。

その作品からゴジラ、ラドン、「私たちでキングギドラを倒そう」と説得に当たるモスラは、地球の味方になってしまうのだが、ミニチュアセット、そして何よりも"特撮の神様"と呼ばれた円谷英二さんの手腕が素晴らしかった。

そして、『フランケンシュタイン対地底怪獣(バラゴン)』(65年)と、その続編に当たる『フランケンシュタインの怪獣  サンダ対ガイラ』(66年)。これも円谷&本多猪四郎(本編監督)による作品だけど、僕の人生で一番数多く観返した(実は、昨日も『サンダ対ガイラ』をDVDで観た)ものである。

『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』(文春文庫)。雑誌『映画秘宝』の人気連載を文庫化。青春の思い出や妄想、駄洒落、名言が満載の脱力系映画エッセイ×マンガ!

ゴジラシリーズがどんどん陽気になっていった時期に公開された二本。怪獣の悲しみに焦点を当てた暗くて、切ない物語だ。

一作目『ゴジラ』(54年)がそうだったように、戦後の何ともやるせないあのムードを知るためには初期の怪獣映画と、松本清張原作・野村芳太郎監督作品『ゼロの焦点』(61年)である。

僕は一時期、年末になると昼間から部屋のカーテンを閉め切り、電気も付けずこの『ゼロの焦点』を観返し、浮かれポンチな自分を戒める儀式を行っていた。

『男はつらいよ』シリーズも全巻VHSで揃えたが、やはり日本映画には暗くて切ないものがよく似合う。ま、それは昭和生まれだから思うのであろうが。

これで僕の好きな日本映画4本を紹介させて貰った。でも、怪獣映画はもっとあるし、怪人モノ『ガス人間第一号』(60年)や『マタンゴ』(63年)も、何度くり返し観たか分からないくらい好き。最終的に、NHKの番組内で製作した僕の脚本による『長髪大怪獣 ゲハラ』(DVD有り)に行き着くわけで。

「人生を変えた日本映画は?」と問われ、ここはカッコ付けて『七人の侍』や『隠し砦の三悪人』『生きる』など、黒澤作品を挙げたい(大好きなんだけど)ところだが、やはりソフトの数を考えると、怪獣映画ってことになる。

そして、最後にもう一本。怪獣映画の後に青春ノイローゼ期に観た谷ナオミさん主演のSM映画『生贄夫人』(74年)かな。

今や、このジャンルについて多く語ることは憚られるが、谷さんに漂っていた妖艶な和テイストは、後に海外の方で評価されることになる。

僕は生まれた昭和33年という時期が関係しているのか、どこか日本に居ながら観光外国人的なものの見方をしてきたような気がする。

だから日本人が忘れたいこと、またはすっかり忘れ去ってしまったことを日本映画で再発見。「ソコガイインジャナイ! ニッポン!!」と、ついつい思ってしまうのだ。

オススメの3本

『三大怪獣  地球最大の決戦〈東宝DVD名作セレクション〉』

1964年公開、監督:本多猪四郎(本編)、円谷英二(特撮)、出演:夏木陽介、星由里子ほか。ゴジラが初めて善玉として描かれた「ゴジラシリーズ」の第5作。¥2,500(DVD)/発売・販売元:東宝  ©1964 TOHO CO.,LTD

『あの頃映画 松竹DVDコレクション ゼロの焦点』

1961年公開、監督:野村芳太郎、脚本:橋本忍、山田洋次、出演:久我美子ほか。松本清張の長編推理小説を映画化。北陸地方で起こる連続殺人事件を描く。¥2,800(DVD)/発売・販売元:松竹  ©1961 松竹株式会社

 『生贄夫人』

1974年公開、監督:小沼勝、出演:谷ナオミ、東てる美、高山千草ほか。谷ナオミと小沼勝のコンビで、異常なSEXの数々を大胆に描写した日活ロマンポルノSMシリーズ第2弾。配給:日活

PROFILE

みうらじゅん 

イラストレーターなど

1958年京都市生まれ。武蔵野美術大学在学中に漫画家デビュー。以来、漫画家、イラストレーター、エッセイスト、ミュージシャンとして活躍。著書に『マイ仏教』『見仏記』シリーズ(いとうせいこうとの共著)『「ない仕事」の作り方』『マイ遺品セレクション』など。2月9日に『清張地獄八景』(みうらじゅん編・文春文庫)を発売予定。

文・みうらじゅん