さらに、今回のモデルから、指のジェスチャーでインフォテインメントシステムが起動する「ジェスチャーコントロール」と、地図と実際のカメラ映像を合体させた「AR(Augmented Reality=拡張現実)」技術搭載のナビゲーションシステムが採用された。これも注目点だ。
Eクラスクーペを推したいのは、端的にいって”スタイル”があるからだ。運転を楽しめるように作られている前席重視のパッケージ。それに、疾走感のあるフォルム。走らせて楽しむクルマの魅力が凝縮されている。
メルセデスは、戦前からずっと、優美でぜいたくなクーペを作ってきた歴史を持つ。地球の南北東西、各地のリゾートで富裕層に愛されてきた。
現行E300クーペのホイールベースは2875mmと、Eクラスのセダンと比較すると65mm短い。そして、車体は95mm短い。セダンに比べてコンパクトなボディも、Eクラス・クーペの特徴だ。上手にスタイルがまとめられていて、凝縮感ゆえに存在感が大きい。
大きなスリーポインテッドスターがグリルの中央にあるのも目をひく。1955年の「300SL」いらいの、メルセデスの伝統ともいえるグリルのデザインが継承されているのだ。
小ぶりに作ったキャビンと、ボディの四隅ちかくに配された車輪と、そして、例のフロントマスク。スポーツカーでもセダンでもない、クーペ独特の美しさと躍動感がうまく作りこまれているのだ。
優雅なデザインにマッチする走り
走らせると。ドライブを楽しませてくれるバランスのよさが光る。E300クーペの心臓は、190kW(258ps)の最高出力を発揮する1991cc直列4気筒ガソリンターボ・エンジン。1800rpmと比較的低い回転域から370Nmの大きなトルクを出す。
昨今のメルセデスのエンジンは、電気モーターでトルクをおぎなう「BSG」あるいは「ISG」というマイルド・ハイブリッド・システムを採用している。Eクラスクーペにも、1.5リッター直列4気筒ガソリンターボのE200にはBSG、3.0リッター直列6気筒ガソリンターボのE450 4MATICにはISGが搭載されている。
ところが、E300のエンジンは、電気の力を借りない。それでも、アクセルペダルを踏んでゆくと、スタートからちゅうちょのない力強い加速が味わえる。最高出力が5800rpmから発生する設定なので、まわして加速を楽しむことができる。
足まわりの設定も、このクルマの美点だ。フワつくこともないし、硬すぎると感じることもない。高速ではフラットな姿勢を保ち、路面からのショックはきれいに吸収される。上質なクーペというイメージによく合っている。
ステアリング・ホイールを操作したときも、同様だ。適度な操舵感とともに、ボディがゆっくりとロールする感覚が、えもいわれぬ気持ちよさを生んでいるのだ。ポルシェのダイレクトな感覚のステアリングフィールと、メルセデスのこのタメのある動きは、他のメーカーではマネしようにも出来ないものだ。
優美なインテリア
室内のデザインも、機能的でいて、刺激的な感覚が作りだされている。厚みをもたせたシート形状は、からだを包みこんでくれるし、エアベント(空気吹き出し口)が並んだダッシュボードは、湾曲した造型が官能的ですらある。
ドアを開けたときのよろこびも大きい。最近のメルセデスは、室内の作りこみに凝っているため、心地よさそうな空間が眼の前で展開するが、とくにクーペの内装は、エモーショナルな雰囲気を大事にするこのクルマによく合っている。
そして、地図と実際のカメラ映像を合体させた「AR」を使ったナビゲーションシステムは、なかなかおもしろい。交差点などでは、カメラによるリアルタイムの画像が映り、たとえば左折すべきときは、大きな水色の矢印が画面に現れて、いくべき方向を明確に指示してくれる。
ジェスチャーコントロールは、車内のカメラが指の動きをみていて、指2本をさっと動かすと、登録している操作が起動する。たとえば「自宅へ帰る」というコマンドを一瞬の指の動きだけで設定出来る。かしずいてくれる、まるでバーチャルサーバントだ。
E300クーペスポーツの価格は919万円。1.5リッターのE200クーペスポーツは832万円、E450 4MATIC スポーツは1167万円だ。
文・小川フミオ 写真・田村翔