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なくなる前に乗っておきたいクルマ 第4回──「V6エンジンを搭載したアルファロメオ」

いつしか世の中から消えてなくなっていく物々、それはクルマに関連する物々も同様であろう。残された時間は(たぶん)わずかだからこそ、失われゆく物々を今のうちに、確実かつ濃厚に堪能したいもの。第4回は「V6エンジンを搭載したアルファロメオ」。1990年代後半から2000年代にかけてのアルファロメオで、「死ぬほど官能的に回る」往年の名機であるブッソーネV6エンジンを搭載したモデルをおすすめしたい。
ALFA ROMEO GT|アルファロメオ GT

「乗れるうちに乗っておくしかねえな……」

これまでに数多くの名作内燃機関を世に送り出してきたホンダは4月23日、2040年までにグローバルでの新車販売すべてをEV(電気自動車)とFCV(燃料電池車)に切り替えると発表した。

それと同様にEUの欧州委員会は、ハイブリッド車を含む内燃機関車の新車販売を2035年に事実上禁止する方針を打ち出した。

ALFA ROMEO GTV|アルファロメオ GTV
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グローバル市場というのは何も欧州だけではないので、日本の自動車メーカーが、ハイブリッドというお家芸を捨ててまで「欧州様」に服従する必要など微塵もないと、筆者は思っている。

だがそういったマクロな産業動静について、筆者のごとき与太者は口をはさむ立場にない。詳しくは高名で聡明なる諸先生方の分析と進言に任せたいところだ。

与太者として強く思うのは、次の一点のみである。

「ガソリンエンジン車には、乗れるうちに乗っておくしかねえな……」

147のハイパフォーマンスバージョンとなるGTA。3ドアボディに、最高出力250psを発生する3.2リッターV6が搭載されていた。

ホンダや日本国の動静が今後どうなろうと、そしてEUの思惑がどうなろうとも、ガソリンエンジン車の立場が危ういことだけは100%決定している。

まぁあと50年ぐらいはなんだかんだで「新規に製造されたわけではないガソリンエンジン車=中古車」は買えると読んでいるが、そこには「懲罰的な課税」と、「それでも購入したい人が多いゆえの相場高騰」が付いてくるはず。

そうなると、筆者のごとき零細の与太者は「事実上乗れない」ということになる。であるからこそ「ガソリンエンジン車には、乗れるうちに乗っておくしかねえな……」と今、強く思うのである。

そんな考えの一環として筆者は半年ほど前、純ガソリンエンジン車としてはおそらく最後の日本カー・オブ・ザ・イヤー受賞車」になるかと思われる、スバル レヴォーグというクルマを購入した。

試乗もしないまま購入したレヴォーグは目論見どおりの素晴らしいクルマだったが、こと「エンジンの魅力」に限っていえば、さらに素晴らしいクルマ、今のうちに乗っておくべきクルマはほかにある。

ミドルクラスセダンの156のハイパフォーマンスバージョン。当初は6MTのみが販売されたが、後に6速セミATのセレスピード搭載モデルも設定された。

魅力はおろか魔力まで秘めた名機「ブッソーネV6エンジン」

たとえば、V型6気筒エンジンを搭載する、1990年代後半から2000年代にかけてのアルファロメオだ。

同じアルファロメオのV型6気筒エンジン搭載車でも、2006年に登場した「アルファロメオ159」は、親会社であるフィアットがGMと提携していた時代に開発されたモデルであるため、V6エンジンのシリンダーブロックはGM製で、ついでにいえばシャシーもGMと共同開発された代物だった。

だが1990年代後半から2000年代にかけてのアルファロメオ各車、具体的にはGTV、156、166、147、GTには、1979年に発表された往年の名機「ブッソーネV6エンジン」がそのまま──もちろんさまざまな改良を経てではあるが──搭載されていたのだ。

この名機の作者であるジュゼッペ・ブッソはトリノ生まれのエンジニア。フィアットでの航空機用エンジン設計からキャリアをスタートし、アルファロメオのレーシングエンジン部門責任者、フェラーリのテクニカルディレクターを歴任。その後アルファロメオに戻り、1979年に発表されたアルフェッタと6(セイ)に搭載されたV6ガソリンエンジンの世界的名作、通称「ブッソーネV6」を作り上げたのだ。

1999年に登場したフラッグシップセダン。当初は2.5リッター、後に3リッターのV6エンジンを搭載していた。

当初はSOHCだったブッソーネV6は途中からDOHCになり、排気量も2Lのほかに2.5L、3L、3.2Lというバリエーションが生まれていった。だがすべてのブッソーニV6に共通しているのは「ガソリンとオイルはけっこう食うが、その分だけ死ぬほど官能的に回る」ということだ。

今、筆者は「死ぬほど」という言葉を使った。これはもちろん誇張ではあるのだが、100%完全な誇張というわけでもない。

156をベースとした、リアハッチを備えるクーペモデル。最高出力240psの3.2リッターV6を搭載した。

筆者は数年前に3LのブッソーネV6を搭載したアルファロメオGTVというクルマに乗っていたのだが、GTVで加速をカマしている最中は、ほんのうっすらとではあるものの「……このまま爆死してもいいのかもしれない。いや、むしろ爆死したい! 」と思ったものだ。

もちろんアクセル全開で爆死自死をすることなどなく、その後は我に返り、アクセルペダルをそっと戻すことになる。だが、生と死の境を超えた「どこか別の世界」へと人をいざなうエンジンなど、後にも先にもブッソーネV6ただひとつであった。

その後、964型のポルシェ911カレラ2やランチア デルタHFインテグラーレ エボルツィオーネIIなど、いわゆる名車とされているクルマもいちおう所有した筆者だが、ことエンジンの魅力というか魔力に関しては、ブッソーネV6こそが最強または「最悪」であったのだ。

ピニンファリーナに在籍していたエンリコ・フミアがデザインしたスポーティなクーペ。エンジンはV6と直4がラインナップしていた。

だがそういった魔法との交換条件により、このエンジンの燃費は(決して極悪ではないが)さすがに良好ではない。エンジンオイルも3000kmごとに交換しないと何かとヤバく、その消費量も多い。それゆえ「今後、世の中から抹殺されそうなガソリンエンジン」の候補としてはトップグループの一員ではないかと思われる。

だからこそ、今のうちに乗らねばならないのだ。

しかも今、それを搭載する中古車の流通量は激減している。

具体的には、中古車情報サイト『カーセンサーnet』における掲載台数はGTVのV6搭載車がわずか9台で、156GTAが6台(※2.5L V6の156は39台あるが)。147のGTAが8台で、GTのV6はわずか3台でしかない。

……だからこそ、今のうちに買わねばならないのだ!

や、素に戻って正直に申し上げれば「買わねばならないのだ! 」とエクスクラメーションマーク付きで言うべきほどのことではなく、結論としては、各自お好きになさればいい。

だがその購入を「おすすめしたい」とは、本当の本気で思っているのだ。

文・伊達軍曹 写真・FCAジャパン 編集・iconic


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