フランス菓子の基本
タルト・タタンはフランスでもっとも有名なデザートのひとつである。砂糖とバターで煮詰めたりんごとパイ生地を、わざわざ最初からひっくり返して焼く、りんごのパイだ。
「伝統的な製法ではキャラメリゼしたりんごをパイ皿に敷いて、その上に生地をかぶせて焼きあげ、最後に上下をひっくり返します。でも実をいうとパイとりんごでは焼き時間が微妙に違うのです。今回はそれぞれのパーツの美味しさを最大限に引き出すために、パイとりんごは別々に焼いて、食べる直前に完成させるレストランのアプローチです」と高塚俊也シェフはいう。
材料はりんご、砂糖、バター、冷凍パイシートのみ。シンプルな菓子だけに、りんごのセレクトにはこだわりたい。タタンには水分が少なめで生では柔らかめの食感、焼くとプリッと焼き崩れしにくい紅玉が向くという。またはジョナゴールド、ふじ、王林などでもおいしくできる。
高塚シェフは「パイ生地は市販のものを使ってください。最近の冷凍パイシートは、言われなきゃ冷凍食品ってわからないほどクオリティーが高いです」と続ける。
とろっと柔らかく焼きあがったりんごは甘すぎず、キャラメルの焦げた苦味が甘味と酸味を引き立てている。砂糖をまぶして焼いたパイ生地は、まるでハート型のパイ菓子「パルミエ」のようなカリカリした心地よい食感。
「フランスではタルトタタンに酸味のある発酵クリームをあわせるのが定番。今回は熱々を食べていただくので、バニラをはじめ、キャラメル、ラムレーズン、ナッツ系などのアイスクリームを添えると、「熱さ」と「冷たさ」の、ふたつの異なる温度のコントラトが楽しめて、よりおいしく感じられます。バニラアイスにカルヴァドスを垂らして大人っぽい演出をするのもいいですね。表面が色濃く艶やかな飴色で、キャラメルが浸透したりんごの透明感が、なんともそそります」。
PROFILE
高塚俊也
Restaurant KEI シェフ・パティシエ
1984年生まれ、埼玉県出身。辻製菓技術研究所で学び、高幡不動の菓子店「パティスリー・ドゥ・シェフ・フジウ」に4年半勤務した後、2009年25歳で渡仏。地方のパティスリーで修行を積んだ後、パリの「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロビュション 」、「ホテル・ランカスター」などでレストランデザートを担当。2013年から現職。