新型ヴィジョンEQXXの凄みとは?──メルセデス・ベンツの“革新技術”に迫る!

メルセデス・ベンツが発表したコンセプトカー「ヴィジョンEQXX」に大谷達也が徹底解説! 驚異の性能とは?
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Mercedes-Benz AG – Communications & Marketing

量産化を計画

「航続距離1000km以上」「電費10kWh/100km以下」「Cd値0.17」……。

先ごろメルセデス・ベンツが発表したコンセプトカー、ヴィジョンEQXXのすごさは、こうしたスペックからも理解できるはずだ。

満充電時の航続可能距離は1000km以上を謳う。1回の充電でドイツのベルリンからフランスのパリへ、アメリカだったらニューヨークからオハイオ州シンシナティ、中国では北京から南京に移動できる。

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もっとも、これがただのモックアップ(外観だけを再現した模型のこと)で技術的に実現の見通しが立っていないのであれば、どんな崇高な目標も“絵に描いた餅”に過ぎない。けれども、ヴィジョンEQXXは実走行可能なコンセプトカーで、今後数ヵ月以内に1000km以上の巡航距離を実証するテスト走行を実施する見通し。さらに驚くべきことに、ヴィジョンEQXXをベースとした量産車は今後3年以内に発売されるというのだ。

ヴィジョンEQXXのワールドプレミアに先立って行なわれたラウンドテーブルにおいて、ダイムラーAGの取締役でメルセデス・ベンツの車両開発を統括するマーカス・シェーファーは次のように語った。

100kmあたりのエネルギー消費は10kWh未満だという。10kWhのエネルギーは、平均的な家庭用エアコンなら約3時間、アイロンなら約5時間使った分の消費量に相当する。

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「私たちは、ヴィジョンEQXXで紹介したテクノロジーを2024年ないし2025年に量産化する計画を立てています。また、ヴィジョンEQXXはコンパクトないしミッドサイズの車両ですが、2024年ないし2025年に量産化される製品も、コンベンショナルな技術を用いたこのクラスのメルセデス・ベンツと同等の価格帯になる見通しです」

話題が盛りだくさんなヴィジョンEQXXであるが、開発時にもっとも重視されたのは航続距離の長さであり、その実現に必要となる効率の高さだったという。シェーファーが続ける。

「今後メルセデス・ベンツは航続距離が極めて長いEVを提供していきます。なぜなら、充電施設のネットワークが現在のガソリンスタンド並みに充実するまでには、まだ長い年月がかかると考えるからです」

航続距離を少しでも伸ばすべく、ブリヂストンと共同開発の超低燃費タイヤ「トランザ・エコ」に、20インチの鍛造マグネシム・ホイールを組み合わせ、バネ下重量を抑えているのも特徴のひとつだ。

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いっぽう、長い航続距離を実現するうえでもっとも手っ取り早いのは大きなバッテリーを搭載すればよいが、これは決して賢い解決方法ではないとシェーファーは指摘する。

「バッテリーのサイズを大きくすればコストも上がりますし、コンパクトな車両に大きなバッテリーは搭載できません。それよりも効率を改善するほうが顧客にはメリットがあります。効率が向上すればバッテリーも小さくて済むので車両価格が安くなるほか、消費する電力も減るのでランニングコストも低減できます」

“効率”の改善

そこでメルセデス・ベンツは効率の改善に取り組んだという。

「クルマのエネルギー消費でもっとも大きなファクターとなるのはエアロダイナミクスです。車速で30ないし40km/hを越えると、空気抵抗の影響がもっとも大きくなります。0.17というCd値を達成したのも、このためです」

ダッシュボード全面にスクリーンが広がるフューチャリスティックなインテリアで注目すべきは、竹やサボテンなど自然界に存在する、再生可能な素材を使っていること。

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ちなみに、車両が発生する空気抵抗はCd値と前面投影面積を掛け合わせたものなので、いくらCd値が小さくても前面投影面積が大きければ空気抵抗は増大し、結果的に電費も悪くなる。

ところが、ヴィジョンEQXXは、4人が無理なく乗車できる室内スペースを備えているにもかかわらず、前面投影面積は「CLA」や「スマート」よりむしろ小さいという。これもまた驚くべきことだ。

たとえば「デザートテックス」と呼ぶ人工皮革は、バイオベースのポリウレタンと粉砕されたサボテン繊維を組み合わせたもので、非常にしなやかな手触りを特徴とする。

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もうひとつ、自動車のエネルギー消費に大きく関わるのが、タイヤが発生する転がり抵抗である。ちなみにヴィジョンEQXXに装着されるタイヤはブリヂストンの「トランザ・エコ」。これにはブリヂストンが開発したエンライトンという技術が採用されており、タイヤの軽量化や転がり抵抗軽減に役立っているという。

顧客を第1に考えるメルセデスの姿勢

こうしてヴィジョンEQXXは10kWh/100kmを下まわる電費を実現した。ちなみに、メルセデスのEVで現在もっとも電費が優れているのはEQAの181Wh/km(WLTC)。これはkWh/100kmに換算すると18.1kWh/100kmに相当するので、ヴィジョンEQXXの電費はEQAのおよそ半分、つまり効率は約2倍ということになる。

1930年代のメルセデスの速度記録車を思わせる流線型のエクステリア・デザインは、Cd値0.17という類を見ない空力性能を実現。フロントまわりの面積はメルセデスのコンパクト、「CLA」よりも小さいため、空気抵抗が最小限に抑えられたという。

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これがどれくらい優れた効率かを、ガソリンを引き合いに出して示してみよう。一般的にガソリン1リッターが持つエネルギーは9.3kWhに相当するといわれる。もしもヴィジョンEQXXの電費が10kWh/100kmを切るのであれば、ガソリン1リッターのエネルギーで100km走行できることになる。つまり、100km/L相当の電費ということ。この効率の高さは、やはり驚異的だ。

それでも、1000kmの航続距離を実現するには約100kWhという大容量バッテリーが必要だった。しかし、メルセデスの最先端技術を投入して開発したEQS(バッテリー容量は107.8 kWh)と比較しても、ヴィジョンEQXXのバッテリーは容量がおよそ半分で、重量は30%も軽いという。

EQSと比べヴィジョンEQXXのバッテリーは容量がおよそ半分で、重量は30%も軽い

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こうしたバッテリーの高エネルギー密度化が実現できていなければ、コンパクトカーのヴィジョンEQXXに100kWhもの大容量バッテリーは搭載できなかったとシェーファーは主張した。

私自身は、バッテリーの大容量化が最善の策とは考えていない。バッテリーのエネルギー密度が現在の10倍にでもなれば話しは別であるが、バッテリーの大容量化は重量増を招いて効率の低下に結びつくほか、リチウムイオンバッテリーには希少な天然資源が多く使われているので、サステナビリティーの観点からも好ましくないからだ。

公表されているボディ関係の数字は、2800mmのホイールベースと1750kgの車重のみ。

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とはいえ、メルセデスの言い分もわからなくはない。なにしろ、ヨーロッパでは各国政府やEU議会がEVの普及を急いでいるのだ。メルセデスは、そうした要求に応えるいっぽうで、「顧客に不都合があってはならない」という観点からバッテリーの大容量化に取り組んでいると推測される。この、顧客を第1に考えるメルセデスの姿勢は立派だと思う。

ヴィジョンEQXXに採用されたEV用アーキテクチャーはMMAと呼ばれ、今後メルセデスから登場するコンパクトならびにミッドサイズのモデルに幅広く採用されるという。

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文・大谷達也文・稲垣邦康(G