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なぜトヨタ・アルファードは人気なのか?

トヨタの大型ミニバン「アルファード」の販売が好調だ。小川フミオがあらためて試乗し、その理由を考えた。
トヨタ TOYOTA アルファード ALPHARD エグゼクティブラウンジ グランクラス ファーストクラス ミニバン ハイブリッド ヴェルファイア
Hiromitsu Yasui

新幹線のグランクラスを彷彿とさせる2列目シート

走るオフィスとか走るラウンジが欲しい、なんていう超いそがしいひとには、トヨタ「アルファード・エグゼクティブラウンジ」は選択肢のひとつだろう。メルセデス・ベンツ「Sクラス」が、機能面からいうと、現時点で最高のラウンジカーかもしれない。でも、アルファードという”解”もあるのだ。

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最新の大型セダンの場合、後席のセリングポイントは、空間的な余裕だけではない。いってみれば、もてなしの深度にある。

新型Sクラスのロングボディでは、後席シートバックのリクライニング機能やインフォテインメントシステムの充実にくわえ、「ハイ、メルセデス」の呼びかけで起動するボイスコントロールシステムが、後席左右で個別に使える。

【主要諸元(エグゼクティブ・ラウンジ)】全長×全幅×全高=4945×1850×1950mm、ホイールベース3000mm、車両重量2240kg、乗車定員7名、エンジン2493cc直列4気筒DOHCガソリン(152ps/5700rpm、206Nm/4400〜4800rpm)+モーター(フロント105kW/270Nm、リア50kW/139Nm)、トランスミッション電気式無段変速機、駆動方式4WD、タイヤサイズ225/60R17。

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メッキ塗装の17インチ・アルミホイールは、エグゼクティブ・ラウンジ専用デザイン。

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「ちょっと暑いんだけど」といえば、コマンドを出した自分が座っている席のエアコン温度を、車載AI(人工知能)が調節してくれる、というぐあい。いっぽうで、高めの着座位置から周囲を眺め、東北や北陸新幹線のグランクラスを思わせる椅子型のラウンジシートを好むひとには、アルファード式のエグゼクティブシートはアリだろう。

なにより、価格差だ。メルセデス・ベンツSクラスのロングボディの「S500」が約2000万円からなのに対して、アルファードは760万円ほどで手に入る。2列目シートでまったりしたいひとにとって、ありがたいことだろう。

エグゼクティブラウンジシートは、パワーオットマン付き。シート表皮はナッパレザー。

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アームレストにある電動リクライニング機構や、ヒーター/ベンチレーション機構などの調整スウィッチ。

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格納式テーブルは、木目調。

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今回乗った「アルファード・エグゼクティブラウンジ」は、シリーズ全体として、2021年5月10日に、ごく軽いマイナーチェンジを受けている。シリーズ全体としては、ワンタッチスイッチ付デュアル(両側)パワースライドドアと、アクセサリーコンセントが標準装備になった。

同時に、このエグゼクティブラウンジ(とエアロパーツ装備の「エグゼクティブラウンジS」)では、後席からの視界を広げるべく、可倒式の助手席ヘッドレストが採用されている。さらに2列目の居心地を重視した仕様なのだ。

リアスライドアには、手動式のサンシェード付き。

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助手席のヘッドレストは、前方に90°倒れる。

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13.3インチのリアエンターテインメント用モニター(電動格納式)は標準。

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フロントシートのセンターコンソール後端部には、2列目シート用の小物入れ付き。

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エグゼクティブラウンジのシートはほかのグレードより大型化されているのも特徴で、ネガは、3列目シートへのアクセス性がいまいちな点。

3列目シートは、より大きなサイズのミニバンである「グランエース」ほどではないにしても、おとなだって座れる。それだけに、ファミリーで使おうなんてひとは、2列目シートがじゃまして、からだが通りにくいエグゼクティブラウンジは避けておくのが賢明かもしれない。

もちろん、使用目的に応じて最適の解を与えてくれるのは歓迎すべきコンセプト。したがって、エグゼクティブラウンジに文句をいう筋合いはないのだけれど。

リアシート用エアコンは標準。コントロールパネルはルーフにある。

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車内空気の浄化や脱臭、除菌などのためにナノサイズの微粒子イオン「ナノイー」の放出機能が標準で備わる。

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2列目のシート・サイドには、3列目シート乗降時に便利な電動スライド&リクラニング用のスウィッチがある。

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3列目シートには手動のスライド&リクライニング機構およびセンターアームレストが付く。

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ドライバーズシートも悪くない

エグゼクティブラウンジは、もっとも売れているモデルというわけではないが、これもまた、アルファードを代表するグレードである。そもそも、現在の3代目アルファードは、2015年に“大空間高級サルーン”を謳って登場した。そのコンセプトに合致していると思う。

それまでもエグゼクティブパワーシートを備えた仕様は、アルファードに設定されていたものの、3代目では、2列目シートを中心とした空間がよりぜいたくになっていることに驚いた記憶がある。

搭載するパワーユニットは2493cc直列4気筒DOHCガソリン(152ps/5700rpm、206Nm/4400〜4800rpm)+モーター(フロント105kW/270Nm、リア50kW/139Nm)。

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電気式無段変速のギアセレクターは、本革と木目調パネルのコンビ。

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3代目では発表のとき、操縦安定性と室内静粛性をともに高めたこともアピールしていた。ボディでは高張力鋼板がより多く使用され、同時に、剛性感をあげつつ、しなやかさを増す構造用接着材の塗布面積も拡大された。リアサスペンションは、2代目のトーショナルビームからダブルウィッシュボーン式へ変更されている。

その恩恵は、じつは、ドライバーズシートで大きく感じられる。全長4945mmで、全高1950mm、そして車重2240kgと、ミニバンなんて呼びたくないぐらいの大きさの図体。でも、操縦性はなかなかのものなのだ。

フロントシートは電動調整式(運転席8ウェイ、助手席4ウェイ)。

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ひとつは、加速性だ。2493cc直列4気筒ガソリンエンジンによる206Nmの最大トルクに、モーターが139Nm上乗せされるだけあって、発進からスムーズだ。

同時に感心したのは、アクセルペダルに載せた足の力を抜いていったときの加速のコントロール性のよさだ。たとえば、踏みこんだ量の半分戻せば、その量で加速が続く。

おかげで、意外なほど走りやすい。最近だと、レクサス車や、新型トヨタ「アクア」でも、おなじように感じた。

アナログメーターの中央には、フルカラーのインフォメーションディスプレイ付き。

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トヨタのエンジニアは、踏み込んで戻すときの加速性、ブレーキペダルなら減速量、ステアリング・ホイールでは切ってから戻していくときのボデォの追従性に注目していると言っている。いまのアルファードも、その考えにのっとって、きちんとファインチューニングされているように思う。

たとえ2列目シートがベストのエグゼクティブラウンジであっても、ドライバーに楽しみが残されている。ただし、やや残念な点も……さらに強くアクセルペダルを踏み込んだときの、加速の“つき”はよくない。まわしても、あまり楽しいエンジンではないのだ。内燃機関ゆえの魅力を味わわせてくれるという考えは希薄かもしれない。

インパネ上部のナビゲーション用10.5インチモニターは標準。エグゼクティブ・ラウンジ以外は9.0インチのディスプレイ・オーディオになって、ナビゲーションシステムはオプションになる。

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ギアセレクターの横には、リア電動スライドドアの開閉スウィッチがある。

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売れ行き好調

静粛性は高く、乗り心地も重厚感がある。エグゼクティブラウンジには「T-Connect SDナビゲーションシステム+JBLプレミアムサウンドシステム」が標準装備(グレードによっては70万円超えのオプション)されているので、オーディオは重低音をしっかり出し、現代のポピュラーミュージックによく合った音を聴かせてくれる。

17スピーカーで構成されるJBLプレミアムサウンドシステムは標準。

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本革と木目調パネルを組み合わせたステアリング・ホイールは、手動のチルト/テレスコピック機構付き。

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2021年は1月から6月にかけての半年の累計で5万6778台を販売し、乗用車では「ヤリス」「ルーミー」(ともにトヨタ)についで3位につけたアルファード(ヴェルファイアは46位)。

2021年前半には単月1万台超えも記録している。押し出しが強いものの、ヴェルファイアのように直線基調の”ガンダム”系でなく、すこしクラシックな格子を活かしつつクロームで飾りたてたグリルが人気の理由だろうか。

前後のガラスサンルーフは12万1000円のオプション。

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3列目シートをサイドに跳ね上げ、2列目シートを前に出した状態。ラゲッジルームのフロア下には148リッターの収納スペースがある。

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くわえて、時代の嗜好性を先取りするようなホワイト系の塗色のバリエーションも、マーケットのニーズに合致している。

759万9000円のエグゼクティブラウンジは、後席に座るひとのためのモデルであり、かつ高価。最量販グレードである「2.5 S Cパッケージ」に比して、15分の1ぐらいしか売れていないようだ。

とはいえ、それでも月販100台に迫るというから、やっぱり、マーケット動向をしっかり捕捉している。世のなかには、それだけ多忙なひとが多いということなのだろうか。

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文・小川フミオ 写真・安井宏充(Weekend.)