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ブライトリングはなぜ一頭地を抜いているのか?──ツールでありつつラグジュアリー!

2021年のブライトリングは人気コレクションのクロノマットに「スーパー クロノマット」を追加した。さらに新種のヴィンテージ調クロノグラフを加えた「プレミエ」も魅力だ。

BREITLING プレミエ B25 ダトラ 42(左)、BREITLINGスーパー クロノマットB01 44(右)

ブライトリングの手腕は、いよいよ冴えを見せている

創業以来、プロフェッショナル向けのツールであることを強く打ち出してきたブライトリングではある。しかし、新CEOにジョージ・カーンが就任して以来、ブライトリングは良い意味での多様性を身に付けるようになった。プロの眼に耐えられるほどの頑強さや精度については妥協することなく、より広い層を目指すようになったのである。

それを象徴するのが新しい「スーパー クロノマット B01 44」だ。そもそもの原型は1983年にブライトリングがイタリア空軍のアクロバット飛行チームのために開発した正真正銘のプロフェッショナルモデル。あえてラグを短く切ったケースや大ぶりなリュウズ、回転ベゼルに設けたライダータブなどは、明らかにパイロットの使用を前提としたものだった。

しかしブライトリングはこのモデルにやがて、プロ向けでありながらもラグジュアリーという、ユニークな立ち位置を与えることに成功した。新しい「スーパー クロノマット」は、その延長線上に生まれたモデルである。デザインのディテールは基本的には今までのクロノマットに同じ。しかし、ベゼルがセラミックスに変わって、より高級感を増したほか、ラグの斜面にポリッシュを加え、より陰影を強調した造形となった。

ジョージ・カーン曰く、「新しいクロノマットはシチュエーションを選ばない万能時計」。確かにこのような進化を考えれば、「万能時計」という打ち出しは、自然である。

そもそもブライトリングは、ケースの仕上げが大変に優れたメーカーであった。鍛造によって、ケースを頑強に造るだけでなく、面の歪みを極力小さくする。今や多くのラグジュアリースポーツウォッチが取り込んでいる手法を、ブライトリングはいち早く採用し、ツールウォッチにラグジュアリー感を盛り込むことに成功したのである。もっとも、ユニークな製法を使えば、ラグジュアリーな時計になるわけではない。ブライトリングはそれだけでなく、そこに練られたディテールを盛り込んでみせたのである。例えば特徴でもある赤いクロノグラフ針の発色は非常に鮮やかな上、塗りムラもまったく見られない。ツールウォッチとして考えれば過剰なほどのクオリティーだが、そこに手を抜かないがゆえに、クロノマットは、単なるツールウォッチから頭ひとつ飛び抜けた存在になったのである。

こういったディテールへの配慮は、クラシカルな「プレミエ B25 ダトラ 42」に一層明らかだ。1940年代風の文字盤は、凹凸を強調することで、今のラグジュアリースポーツウォッチならではの立体感を巧みに盛り込んだもの。日付や曜日を表示する窓も、高級時計よろしく額縁状に処理されている。ディテールを自在にコントロールできる手腕こそが、ブライトリングが多様性を纏えるようになった理由なのである。

とはいえ、プロ向けのツールというクロノマットの根底にある思想は、いささかも変わっていない。搭載する自社製のブライトリング01ムーブメントは、整備性に優れるだけでなく、巻き上げ効率も優秀で、長時間にわたって安定した精度を誇る。加えて強い衝撃を受けても、精度が狂いにくいのも、クロノグラフではかなり珍しい特徴だ。文字盤も同様である。一見すると、この文字盤はツヤありのラッカー仕上げだけれど、しかし、角度を変えると、わずかに表面をつや消しにしてあるのが分かる。強い光源下でも、針やインデックスを埋没させないための配慮だ。

正直、プロ向けのツールから、うまく脱却したコレクションというものは決して多くはない。しかも、あらゆるシチュエーションに対応する、という新しいコンセプトが伴ったことを考えればなおさらだ。新しいクロノマットを見る限り、ツールでありつつラグジュアリーである、という目論見は成功したと言える。相反する個性を巧みに両立してきたブライトリングの手腕は、新しいスーパー クロノマットで、いよいよ冴えを見せている。

BREITLING プレミエ B25 ダトラ 42(左)

ブライトリングに進化をもたらしたディテールへの配慮を雄弁に物語るのが本作。モチーフは1940年代に同社が開発したコンプリケーション。立体的な文字盤や鮮やかな発色は単なるレトロウォッチとは一線を画す。SSケース×アリゲーターストラップ、自動巻き、42mm径。¥1,408,000〈BREITLING/ブライトリング・ジャパン〉

BREITLINGスーパー クロノマットB01 44(右)

原型は1983年に登場したプロ向けツールウォッチ。頑強さや高精度に加えて極めて良質な外装を持つ本作は使う場面を選ばない万能時計へと進化を遂げた。ルーローブレスレットはスポーツウォッチらしからぬ優れた装着感をもたらす。SSケース&ブレスレット、自動巻き、44mm径。¥1,210,000〈BREITLING/ブライトリング・ジャパン〉

「ヘリテージ路線の充実は若い世代へのアプローチにもつながるのです」──ブライトリングCEO ジョージ・カーンは語る

 「クールで、インフォーマルなブランド」というスローガンを掲げ、独自路線を突っ走るブライトリングのジョージ・カーンCEOが、『GQ JAPAN』のオンライン取材に答えた。

Q : CEO就任から3年経ちました。自身のハイライトはどこにありますか?

A : 就任当初、ブライトリングの顧客には2つのコミュニティがあることがわかりました。1940年代から70年代のヴィンテージを愛する人たちと、この40年くらいのブライトリングのファンがいることです。それは素晴らしいことなのですが、問題は両者の交流が活発でなかったことで、これは驚きでもありました。この2つのコミュニティの橋渡しをすることに注力した3年間だったかもしれません。それから、過去数十年間、ブライトリングはタフで男性的なコレクションが充実していましたが、そのイメージが強すぎて距離を置いていたファンがいたのも事実です。そこでブライトリングの素晴らしいアーカイブを活かして現代的なひねりを加えることが、コミュニティの統合につながると考えたわけです。

Q : 近年復刻モデルをリリースしていますが、どのような効果がありますか?

A : アーカイブから歴史的なモデルのデザインをそのまま復刻させたものが『リ・エディション』です。2019年のバーゼルワールドで発表した1959年の初期ナビタイマーの復刻モデル『ナビタイマー Ref.806 1959 リ・エディション』が該当します。そして1940年代のアーカイブに着想を得て、最新テクノロジーとデザインなどによって現代的に解釈したのが『プレミエ ヘリテージ コレクション』です。このヘリテージ路線の充実は、ヴィンテージを愛する既存のブライトリング・ファンだけでなく、ブライトリングをよく知らないヴィンテージ好きな若い世代へのアプローチにも効果的でした。既存のコレクションに、アーカイブを活かしたエレガントなモデルが充実するコレクションを加えることで、コミュニティの統合がうまくいったように思います。

文・神谷 晃(GQ)

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ジョージ・カーン  ブライトリングCEO

1965年、ドイツ・デュッセルドルフ生まれ。2002年に36歳という若さでIWCのCEOに就任。17年にブライトリングからCEOに指名され、就任後は時計のコレクションを整理して製品ポートフォリオの再構築に着手した。

Words 広田雅将 Masayuki Hirota / Photo 星 武志 Takeshi Hoshi@estrellas / Styling 石川英治 Eiji Ishikawa@T.R.S