試写を観た田中圭は、映画の後半でずっと泣いていたという。
「自分が出ている映画の試写で泣いたのは初めてでした。頑張る人、それを支える人、頑張っても報われない人、それでも諦めない人……そういう人たちを観ていたら涙が止まらなくなってしまって。自分の演技なんかどうでもいいやと思ってしまいました(笑)」
9月に公開される映画『総理の夫』は、日本初の女性総理とその夫の奮闘を描いたポリティカルコメディ。総理大臣・相馬凛子を中谷美紀が、その夫・相馬日和を田中が演じている。
「女性総理という前例のない役ですから、どういう人物像であるべきかは考えました。世界の女性リーダーたちを見ていて思うのは、しっかりと感情のコントロールができているということ。性差別という理不尽を前にしても、常に冷静に対応している。日本に女性総理が生まれるとしたら、やはりそういう人だろうなと思い、冷静に、ときにはわきまえたフリもできる(笑)、やわらかい、でもしっかりと強い芯を持った女性をイメージして凛子を演じていました」(中谷)
原作は、2013年に書かれた原田マハの同名小説。当時から蔓延していたであろうこの国の閉塞感は、コロナ禍でますます強まったように思う。たとえ映画のなかだけでも、そんな現状に風穴を開けながら突き進む凛子の姿は、頼もしく、そして爽快だ。
「僕が演じた日和は、基本的になんにもしない。ただそばにいて凛子を信じて支える夫。でも中谷さんの凛子を見ていたら、自然と支えたくなるし、応援したくなるんです。そういう意味ですごく演技しやすかったです。むしろ俳優としての自我が変にでないように苦労したくらいです(笑)(田中)
そんな田中の存在が中谷にとっては、"救い"だったという。
「田中さんが日和としてそこにいてくれるから、とても楽でした。いい意味で人畜無害というか(笑)、同じ空間にいてもリラックスできるんです」
笑いあり、涙あり。『総理の夫』は、純粋にエンターテインメントとして楽しめる作品だ。それでも現在の日本の状況で観ると、考えさせられることも少なくない。
「僕としては、こんな時代だからこそ、日常の小さな"息抜き"として楽しんでほしいという思いがいちばんです。でもこのコロナ禍で若い人も政治に興味を持つようになったと聞きます。どうやったって時代は進むし、政治も変化していくでしょう。そういうときに凛子のような、自分のことと同じくらい、他人の幸せを考えることができるリーダーが出てきてくれたらいいなと思います」(田中)
「凛子の好きな台詞があるんです。『私は総理の椅子にしがみつくつもりはない。自分の理想を実現するいちばんの近道が総理大臣というポストだっただけ』。日本に女性総理が生まれるとしたらこういう強かさを持った人だと思いますし、私自身もそうありたいと感じました」(中谷)
日本に限らず、時代は間違いなく転換点にあるように思う。そのタイミングでこういう映画が生まれたことは、ある意味必然だったのかもしれない。
もし日本に女性総理が生まれるとしたら……。そんな思考実験のような原田マハのベストセラー小説を映画化。監督は『チア☆ダン』『ニセコイ』などを手がけた河合勇人。出演は田中、中谷の他に貫地谷しほり、工藤阿須加、余貴美子、岸部一徳など。9/23全国ロードショー
PROFILE
1993年に女優デビュー、「ケイゾク」(99)での好演が話題に。大森一樹監督『大失恋。』(95)で映画デビューを果たし、同年の『BeRLiN』で初主演を務める。2002年には『壬生義士伝』(02)で日本アカデミー賞助演女優賞にノミネートされる。2006年には『嫌われ松子の一生』で国内映画賞の主演女優賞を総なめにした。『オーストリア滞在記』(幻冬舎文庫)が発売中。@mikinakatanioffiziell
俳優
1984年、東京都生まれ。2002年「ごくせん」でドラマデビュー。18年は「おっさんずラブ」でブレイク。「GQ MEN OF THE YEAR」でブレイクスルー賞を受賞した。今後は、Huluオリジナルドラマ「死神さん」(9月17日から配信)、TX金曜8時のドラマ「らせんの迷宮」(10月期)、映画『そして、バトンは渡された』(10月29日公開)、『あなたの番です 劇場版』(12月10日公開)が控えている。
Photos 伊藤彰紀 Akinori Ito@aosora
Styling 伊里瑞稀 Mizuki Iri(Tanaka)、
岡部美穂 Miho Okabe(Nakatani)
Hair&Make-up 花村枝美
Emi Hanamura@MARVEE(Tanaka)、
下田英里 Eri Shimoda(Nakatani)
Words 川上康介 Kosuke Kawakami