先ごろ発売されたマセラティ初の電動化モデルであるギブリ・ハイブリッドも、マセラティのそうした特徴をしらないファンにとっては意外なほど快適で、エレガントな身のこなしを示すラグジュアリーモデルといえる。
サスペンションはストローク初期の動き方が特にソフトでしなやか。このため路面のザラツキを消し去り、目地段差の乗り越えでも不快なショックを伝えにくい。ただし、ただソフトなだけでなく、サスペンションの動き始めからほどよくダンピングが立ち上がるので、乗り心地にはほのかな重厚感も漂う。ダイレクトでスポーティな足まわりというよりも、市街地での快適性に重点を置いた乗り心地だ。
ただし、ドライビングモードの切り替えでスポーツを選ぶと、ダンピングレートが一段と向上してボディをフラットに保ってくれるが、コーナリング性能だけを考えればスプリングとダンパーをもっと締め上げてもいい。それでも、マセラティが敢えてそうしなかったのは、ギブリ・ハイブリッドというモデルのキャラクターを考慮した結果だろう。
インテリアの作り込みも、あくまでもエレガント。たとえば試乗車のシートは赤のレザー張りだったが、赤の発色がフェラーリあたりとは明確に異なっていて、もう少し落ち着いた色合いに見える。このため、インテリアを貫く雰囲気はあくまでもシックで、いわゆるスポーツカーとはひと味もふた味も異なっている。まさにオトナがゆったりと寛ぐための空間だ。
巧みなハイブリッド・システム
注目のハイブリッド・ドライブトレインは、排気量2.0リッターの直列4気筒ガソリンターボ・エンジンに48Vのマイルド・ハイブリッド・システムを組み合わせたもの。大人しい内外装とは裏腹に、2.0リッターから330psのパワーと450Nmの大トルクを生み出すハイチューン・エンジンとされている。
もっとも、実際に試乗した印象は、そんなスペックを感じさせず、実に洗練されていてエレガント。低回転域では、4気筒らしいややざらついた感触を伝えるが、5000rpmを越える領域まで回すとむしろ回転フィールが滑らかになるとともに、エグゾーストサウンドも高周波成分が主体となり、ほのかな色気が感じられるようになる。ちなみに0〜100km/h加速は5.7秒、最高速度は255km/hと発表されている。
ハイブリッド・システムの利き具合は、ベースとなるエンジンが十分にパワフルなせいか、あまり明確には感じられない。
裏を返せば、ハイブリッド・システムのチューニングがそれだけうまくいっているともいえるだろう。
進むマセラティの電動化
ところで、このギブリ・ハイブリッドは、マセラティが推し進める電動化戦略のほんの序章に過ぎない。すでにギブリに続いてSUVの「レヴァンテ」のハイブリッド仕様も発表済みだが、間もなく登場する次世代の「グラントゥーリズモ」と「グランカブリオ」は、いずれも100%バッテリー駆動のEVとしてデビューする見通し。それ以外にも、マセラティの全モデルに電動仕様を設定するという。これには、久々に誕生するミドシップスーパースポーツカーの「MC20」も含まれている。
私は、今年2月にマセラティ・ジャパンの代表に就任したグレゴリー・ケイ・アダムズ氏にインタビューしたことがあるが、そのとき彼は、今後のマセラティについて次のように語った
「マセラティは4ドアのグランドツアラーを作るイタリアで唯一のラグジュアリーカーブランドです。ピュアスポーツがメインのフェラーリとは、この点が大きく異なります。グランドツアラーは一般的にスポーツカーよりもラグジュアリーな要素が強く、静かで速く、そして快適に走れるクルマを意味します。この点、電動化はマセラティというブランドにとてもよくマッチしています。つまり、マセラティは今後電動化に向けてシフトしていくのではなく、電動化に向けて進化していくといえるでしょう」