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【GQ読書案内】9月に読みたい「アートにまつわる本」3冊

編集者で書店員でもある贄川雪さんが、月にいちど、GQ読者にオススメの本を紹介します。
【GQ読書案内】9月に読みたい「アートにまつわる本」3冊

9月に入り、急に秋めいてきました。今月は「芸術の秋」に向けて、アートにまつわる本を3冊ご紹介します。

川内有緒『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』(集英社インターナショナル、税込2,310円)

本当のアートの楽しみ方

こちらは、まさにタイトル通り「全盲の美術鑑賞者」白鳥建二さんと美術館を巡り、アートを鑑賞した体験をまとめた1冊だ。ノンフィクション作家の川内有緒さんは、友人からの「白鳥さんと作品を見るとほんとに楽しいよ!」という誘いをきっかけに、白鳥さんとアートを見にいくようになる。

「見えない」のにアートを「見にいく」とは一体どういうことか。まず、晴眼者は作品を前に、何が描かれ表現されているのかを読みとりながら自分の言葉にして表現する。白鳥さんは、それらの会話を通してアートを鑑賞するのだ。みんな最初は、作品の色や形といった情報を客観的に白鳥さんに伝えようとする。だが、それからが面白い。次第にそれぞれが作品から受けた印象や気分を話し出し、時にはその絵を見て思い出した私体験なども語られ、共有されていく。

それらは、作家の意図とはまったくかけ離れたものになることもある。しかし白鳥さんは、事実や史実を聞くよりこっちのほうが面白いと言う。晴眼者のほうも、絵を通して会話をすることで、ぼんやり鑑賞していた自分の目の解像度が次第に上がり、新しい世界の扉が開かれていく。そして、白鳥さんと川内さんが「お互いの体の機能を拡張し合いながら」繋がっていく。その快感が、読んでいても伝わってくる。鑑賞術の本は依然人気だし、それももちろん面白いのだけれど、いったんその呪縛から自分を解放し、アートを率直に語り合うのも良いな、という気持ちになった。

一緒に読みたいおすすめ本
ヨシタケシンスケ=さく、伊藤亜紗=そうだん『みえるとか みえないとか』(アリス館、2018)

グレイソン・ペリー著、ミヤギフトシ訳『みんなの現代アート 大衆に媚を売る方法、あるいはアートがアートであるために』(フィルムアート社、税込1,980円)

著名アーティストによる「アートとは何か?」の追求

著者は、イギリスを代表する現代アーティストの1人、グレイソン・ペリーさん。現代社会を風刺した作品と、トランスヴェスタイト(文化的・社会的なジェンダーの服装規範とは異なる服をまとう人。ペリーさんは女性の服を着用している)としても知られている。

そんなペリーさんが、いまやすっかり身近な存在となった“アート”について、「そもそも作品ってどう鑑賞すればいいの?」「『良い』アートって何?」といった今さら聞きづらい疑問から、権威からの評価やマーケット論理などが渦巻くアート業界の闇まで、現代アートのわかりづらさを読み解き、それを皮肉とユーモアたっぷりに語るものだ(原書は2014年刊行)。

……というのが本書の説明で、それも正しいけれど、私には少し違うように感じられた。大衆に向けた解説、というより、とても内省的に思えた。既にイギリスにおいて芸術の権威である公の自分と、幼少期の記憶や現役のアーティストである私・個の自分が重なりながら、現代アートとは何か、を追求しているように見えたのだ。皆さんにも、彼のもう1冊の書籍『男らしさの終焉』と併せて読んでみてほしい。

一緒に読みたいおすすめ本
グレイソン・ペリー著、小磯洋光訳『男らしさの終焉』(フィルムアート社、2019)

福井安紀『職業は専業画家 無所属で全国的に活動している画家が、自立を目指す美術作家・アーティストに伝えたい、実践の記録と活動の方法』(誠文堂新光社、税込1,980円)

画家版のビジネス本

最後に紹介するのは、「画家版のビジネス本」と言えるだろうか。画家の「自営業者」「商い」の面に特化した本だ。著者の福井安紀(ふくい さだのり)さんは、脱サラして30歳から20年間、絵だけで3人家族の生計を立てている。画廊に所属することもなく、自分の“ご縁”だけで、各地の店舗や寺院などでふすま絵、壁画、天井画などを描き続け、個展も精力的に開催しているという。

本の中では、作品の価格設定、個展にきた人への声の掛け方や接客方法、画廊の選び方・付き合い方など、福井さんが創作の継続のために行ってきたさまざまな努力と、培ってきた「専業画家」のノウハウが、驚くほど詳細に、惜しみなく披露される。

「絵だけで食っていくのは難しい」という雰囲気は今も強く、そんな現況を残念に思う。しかし福井さんがこうした本を書いたのは、作家間の情報交換を促し、より多くの作家が自分の方法を見出して創作に専念できるようになれば、それが未来の文化力に繋がると信じているから。画家ではないが、フリーランスで活動する私は、その志にとても励まされた。

●一緒に読みたいおすすめ本
中島健太『完売画家』(CCCメディアハウス、2021)

本屋plateau books

贄川雪(にえかわ ゆき)
PROFILE
編集者。本屋plateau books選書担当・ときどき店番(主に金曜日にいます)。

本屋plateau books(プラトーブックス)
建築事務所「東京建築PLUS」が週末のみ営む本屋。70年代から精肉店として使われていた空間を自らリノベーションし、2019年3月にオープン。ドリップコーヒーを味わいながら、本を読むことができる。

所在地:東京都文京区白山5-1-15 ラークヒルズ文京白山2階(都営三田線白山駅 A1出口より徒歩5分)
営業日:金・土・日・祝祭日 12:00-18:00 
WEB:https://plateau-books.com/
SNS:@plateau_books

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