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完成度の高さに衝撃! 乗ればすぐにわかる“違い”と“進化”とは?──新型トヨタ・ランドクルーザーZX ディーゼル試乗記

約13年ぶりのフルモデルチェンジによって進化を遂げた新型「ランドクルーザー」のディーゼルモデルに大谷達也が試乗した。
TOYOTA トヨタ トヨタ自動車 ランドクルーザー landcruise ランドクルーザー300 陸の王者 4WD SUV クロカン
Sho Tamura

普通の道でも進化点はよくわかる

「どこへでも行き、生きて帰って来られる」

という謳い文句のトヨタ・ランドクルーザーの新型“300シリーズ”に試乗した。もっとも、試乗コースは都内の一般道と首都高速という、キャッチコピーが示唆する世界とは似ても似つかない“ヤワ”な環境。それでも新型の進化点ははっきりと確認できたので、ご報告しよう。

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試乗車は装備が充実した「ZX」というグレード。エンジンは「F33A-FTV」と呼ばれる新開発の3.3リッターV型6気筒ディーゼル・ターボを搭載する。ちなみにシートレイアウトはガソリン・エンジンが3列7人乗りとなるのに対し、ディーゼル・エンジンは2列5人乗りのみとなる。価格は760万円。

【主要諸元】全長×全幅×全高=4985×1980×1925mm、ホイールベース2850mm、車両重量2550kg、乗車定員5名、エンジン3345ccV型6気筒DOHCディーゼルターボ(309ps/4000rpm、700Nm/1600〜2600rpm)、トランスミッション10AT、駆動方式4WD、タイヤサイズ265/55R20、価格760万円(OP含まず)。

Sho Tamura

エンジンの始動ボタンはメーターパネル左側の、やや高い位置にある。実は、嬉しくないことにランクルは窃盗団からも大人気のため、新型では指紋認証システムを導入。あらかじめ登録したユーザーと指紋が合致しないとエンジンが始動しないセキュリティ・システムを装備している。ただし、今回はシステムがオフになっていたので、私にもエンジンを始動させることができた。まずはほっとひと安心である。

ディーゼルは3.3リッターV型6気筒ツインターボで、最高出力は227kW(309ps) 、最大トルクは700Nm。可変ノズル付きの2Wayツインターボ機構を搭載し、低速域ではシングルターボの高レスポンスによる力強い加速を、高速域ではツインターボの大吸気量によるのびやかな加速を、それぞれつくりだすという。

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盗難の多いランドクルーザーならではのセキュリティ強化策が、このトヨタ初の「指紋認証スタートスイッチ」。スマートキーを携帯し、ブレーキを踏みながら スタートスイッチ上の指紋センサーにタッチする。車両に登録された指紋情報と一致しなければエンジンが始動しないというもので、ZX、GRスポーツ、VX、AXに標準装備され、GXにはオプションで搭載できる。

Sho Tamura

ランドクルーザーのロゴが入ったキー。

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ランクルの広い室内に腰掛けていると、新開発のディーゼル・エンジンが発する音はごく小さく感じる。でも、そのとき車外にいたトヨタ関係者がなにかを話しかけてきたので窓を開けたら、ガラガラと意外なほど盛大なノイズがキャビンに飛び込んできた。もっとも、ここは天井があまり高くない地下駐車場。エンジン音がコンクリートの壁で反響したために、余計にうるさく感じられたのだろう。いずれにしても窓を閉めていればエンジン音はほとんど気にならない。この印象は、地下駐車場を抜け出して地上に出てからもほとんど変わらなかった。

タイヤサイズは265/55R20。ZXには、路面状況や運転操作に応じ、ショックアブソーバーの減衰力を4輪独立で電子制御するAVS(Adaptive Variable Suspension)を標準搭載する。

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インパネ上部は水平基調で、車両姿勢を把握しやすい形状だ。純正ナビゲーションシステムはJBLプレミアムサウンドシステムとのセットオプション(45万7600円)。

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格段に洗練された乗り心地

新型のボディサイズは全長4985mm、全幅1980mm、全高1925mmという立派なものだが、最近の欧米製フルサイズSUVのなかには、これよりも大きなモデルがいくつもあるので、とりたてて扱いにくいとは感じなかった。

むしろ、直線的な形状のボンネットは見切りが良好なため、狭い路地にも自信をもって進入していけたくらいだ。

高張力鋼板の採用を拡大し、ボンネット、ルーフ、および全ドアパネルをアルミニウム化するなどして約200kgの大幅な軽量化に成功したとされ、さらに、最新の溶接技術の活用などにより旧型より約20%剛性を高めたという。

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都内の一般道を走っていてまず気づいたのが、旧型に比べて格段に乗り心地が洗練されたこと。サスペンション系のフリクションがいかにも少なそうで、タイヤがスムーズに上下している感触が伝わってくる。この辺は、サスペンションダンパーを直立に近づけて、サスペンションが上下する動きとダンパーのストローク方向を近づけたことが利いているのだろう。

いずれにしても、リアサスペンションがリジッドアクスル式とはにわかに信じられないくらい、足まわりの動きは軽快でスムーズだ。

ダイアル式の走行モード切り替えスウィッチ。

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トランスミッションは10ATのみ。発進時を除くほぼ全域でロックアップ機構を作動させ、ダイレクトなフィーリングを実現したという。

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新型にはエコ、コンフォート、ノーマル、スポーツ、スポーツ+、カスタムという6段階のドライビングモード切り替えが装着されているが、このうちコンフォートを選ぶと波うった路面でボディがユラユラと軽いピッチングを起こすくらい、足まわりの設定は柔らかめになる。こうしたソフトなサスペンションは、本格的なオフロード走行の際に役立つものと考えられる。オンロード志向の強い最近のSUVにはあまり見られないセッティングで、私は大いに好感を抱いた。

いっぽう、こうしたピッチングが気になるようであればノーマルもしくはスポーツを選べばフラット感の強い乗り心地に変わるので、ご安心いただきたい。いずれにせよ、リアにリジッド式サスペンションを備えたSUVとしては非常に洗練された乗り心地である。

メーターは、過酷な路面状況下でも車両状況が把握しやすいよう、スピード・エンジン回転 ・燃料・水温・油圧・電圧が直感的に視認できる6針式を採用。

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新しいパワーステアリング・システムは、油圧式パワーステアリングに電動の操舵アクチュエーターを組み合わせたもので、この結界、操舵支援機能を追加出来るようなったうえ、低速時の取りまわしがよくなり、悪路走行時のショック(キックバック)も低減できたという。

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とはいえ、五官を研ぎ澄ませて観察すれば、リジッドアクスル式らしい足まわりのドタバタ感が伝わってくることもある。それは、高速道路などで目地段差を乗り越えたときのように、タイヤが素早く上下したときに起きることが多い。これとは別に、やはり目地段差ではアクスルが上下方向ではなく左右方向に揺れたような感触が伝わってくることもあった。もっとも、これらは車輪の動きに神経を集中させて、ようやく感じられる程度の些細な現象に過ぎない。従来型のユーザーや、リジッドアクスル式のSUVに乗り慣れているユーザーであれば、新型ランクルのスムーズな乗り心地に驚くこと請け合いである。

4WDモードの切り替えスウィッチ。

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360°カメラも搭載。

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オプションのJBLプレミアムサウンドシステムは14スピーカーで構成される。

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心から拍手を贈りたい完成度

ハンドリングの進化も目覚ましい。新型は高速走行時のステアリングのすわりがよく、ドライバーが特に意識しなくても自然とまっすぐに走っていく。

また、車線内で少しだけ進路を修正したいときは、わずかにステアリングを切るだけでスムーズかつ正確に向きを変えてくれる。ステアリングの中立付近に大きな遊びがあったり、切ってからしばらく待たないと向きを変えてくれなかったりするようなことは皆無。この辺は、リジッドアクスル式サスペンションを採用していた往年のクロカンSUVとは大違いである。

パワートレインの搭載位置を車両後方に70mm、下方に28mm移動して、重心を下げ、前後重量配分を改善した。

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シート表皮はレザー。フロントは電動調整機構付き。

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幅広で機能的なセンターコンソールボックスは、両開き機構を採用し、運転席・助手席だけでなく後席からもアクセス出来るようになった。また、ペットボトル飲料などを保冷できるクールボックス機構も追加出来る(GXを除く全車にオプション)。

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電動開閉式サンルーフを装備。

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窓を閉め切っている限り、エンジン音がうるさく感じられないことは前述のとおり。正直にいえば、最近はこれより静かなディーゼルSUVがないわけでもないけれど、新型ランクルの場合は音色が耳障りではなく、また高回転域でも安っぽいビビリ音を響かせたりしないので、快適性は高い。むしろ、アクセルペダルを大きく踏み込むと、クォーッという迫力ある吸気音が耳に届いて、気分が高揚してくるくらいだ。

エンジンのトルク特性は全回転域でフラット。スロットルレスポンスも良好で、4200rpmと思しきレッドゾーンまで引っ張ってもエンジンのスムーズさは失われない。充分にパワフル、そして意外なほどスポーティなディーゼルエンジンだと思う。

シートのヒーター/ベンチレーション機構は、フロントにくわえ、2列目にも装備。

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リアシート用エアコンは標準装備。

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リアエンターテインメントシステムは17万4900円のオプション。

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数々の運転支援装置を装備していることも新型の見どころのひとつ。試乗車にはアダプティブ・クルーズコントロールにアクティブ・レーンキーピング(トヨタはレーン・トレーシング・アシストと呼ぶ)も装着されていたが、残念ながら後者は作動がややぎこちなかった。

新しいランクルでは、このアクティブ・レーンキーピングを実現するためにステアリングコラム上に電動ステアリングアシストを装備しているが、これだけでは「どこへでも行き、生きて帰って来られる」のに必要な信頼性が確保できない恐れがあると考えたトヨタの技術陣は、実績のある油圧式パワーステアリングを残して電動式と組み合わせた。もっとも、ステアリングコラム式の電動アシストは、もともとコンパクトカー向けに開発されたもの。新型ランクルに装着されたシステムがどの程度の出力を持っているのかはまだ確認していないが、ひょっとしてこの電動アシストの能力が充分に高くないことが、アクティブ・レーンキーピングがギクシャクする原因ではないかと要らぬ想像を巡らせてしまった。この点については、後日、技術者と懇談する機会があるので、その際に確認しておきたい。

2列目シート使用時のラゲッジルーム。テールゲートには、キーを携帯していれば、リアバンパーの下に足を出し入れするだけで自動開閉する「ハンズフリーバックドア」を標準装備した。

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ラゲッジルームサイドにはAC100Vのコンセント付き。

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2列目を倒すと全長1865mm、全幅1320mmのラゲッジルームがあらわれる。

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ラゲッジルームフロア下には小物入れがある。

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いずれにせよ、新型ランクルで私が物足りないと感じたのは、高速道路の目地段差を乗り越えたときの些細な違和感とアクティブ・レーンキーピングのスムーズさの2点だけ。これを除けば、新型は驚くほどの洗練されたSUVに仕上がっていた。とりわけ、乗り心地とハンドリングはオンロード向けに開発された最新のSUVと比べても遜色がないくらい。これは本格的なオフロード性能を備えたクロカンSUVとして異例なことといっていい。

そもそも、こうした舗装路での乗り心地やハンドリングは、ランドクルーザーにとって付加価値のようなもの。そんな領域でさえ驚くほど高い完成度で仕上げられた新型ランドクルーザーの出来映えには心から拍手を贈りたい。こうなると気になってくるのが、ランドクルーザーの本領というべきオフロード性能の完成度だ。

いつの日か、新型ランドクルーザーと道なき道を走ってみたいものである。