鏡リュウジ&しいたけ.が語る「占いとのつきあい方」って?
しいたけ. 僕が占星術を学んだときの教科書的な本をたくさん書いていらっしゃる鏡さんにそう言っていただけて感激です。いろいろな占星術の本があるなかで、鏡さんの著書に興味を持った理由のひとつは、鏡さんがユング心理学を研究されていたからです。僕はもともと夢占いや集合的無意識といったことに関心があったこともあり、最初は鏡さんの本で勉強を始めたんですよ。
鏡 そうだったんですか。それはうれしいですね。
しいたけ. 星占いは、今ここで起きている事象が自分にとってどういう意味なのかというのを読み解くことですよね。鏡さんの本では、土星とか山羊座といった象徴が古典から読み解かれていた。大学が現在のように専門化細分化される前、すべての学問を網羅して学ぶところだった頃の知識体系をベースにしていらっしゃるから、それがとても面白かったんです。
鏡 星占いの本は本当にたくさんありますからね。その中で、しいたけ占いは「当たった感」のある新感覚派だなと思いました。しいたけ.さんの占いは、まさに「星占い文芸」の系譜。70年代に始まった文学的な、あるいは詩的な表現の星占いで、日本でのさきがけがルネ・ヴァン・ダール・ワタナベ先生、最近ではしいたけ.さんや石井ゆかりさん。外国だと、本誌でもおなじみのスーザン・ミラーや、故ジョナサン・ケイナーもそうですね。
しいたけ. なるほど、「文芸」か……。
鏡 さまざまな占いがあるなかで、星占いを読み慣れた人は「牡羊座は短気……」と言われると「はいはい、わかってます」って思っちゃう。そういう手練れの読者を相手に1回や2回オリジナリティを出せたとしても、それを継続するのは本当に難しい。それをあたかも簡単なことのように言われると「簡単? じゃあ一年中、毎月毎月やってみ?」って言いたくなります(笑)。
しいたけ. そうですね(笑)。
鏡 だから「星占い文芸」と僕が勝手に名付けている系譜の人たちは本当にすごい。星占いって、いわば物語生成マシーンのようなもの……星座や天体といった素材から物語を紡ぎ出すAIみたいなものなんですよね。でも、AIは同じ材料からは一つの同じ文章しか生成できないけれど、石井ゆかりさんやしいたけ.さんは、自分のオリジナルな表現でずっと発信し続けられるのですから。
しいたけ. メディアで星占いを発表するようになってからは、自分の言葉で勝負しなければと思って。本やほかの先生の占いを読まないようにしていました。「今月、著名な占い師の人がこう言った」とわかると、気持ちが弱いのでうっかり引っ張られちゃうんです(笑)。文体なども影響されてしまうと思ったので、僕なりのけじめとしていったんほかの先生の占いを読むことをやめました。
鏡 そうだったんですね。今もそれは続いていますか?
しいたけ. 最近はまた読み始めています。ただ、影響を受けやすい性質だからでしょうか、神社に行ったときなども、説明は読まずにまずは自分で一巡りするようにしているんですよね。説明を読んでしまうと、その解釈のなかでしかイメージが湧かないから。
しいたけ. つい先日、京都に用があったので足を延ばしてとあるお寺に行ったら具合が悪くなってしまって。あれは何だったんだろう。
鏡 具合が悪くなったって、お腹が痛くなったとか?
しいたけ. いや、そうではなくて何て言ったらいいのか……(しばらく考え込んで)……あまりにも清浄過ぎて、僕に合わなかったのかな。僕には多少雑多なところのほうが合っているのかも(笑)。プランクトンのいない海で弱ってしまった魚のような状態でした。そういえば、去年まで気分がよかった神社やお寺が、今年はなんとなくおかしく感じるとか、今年は気になる神社があったから行ってみたいとか、そういう感覚って自分の今の流れを読み解く上で大事なことだと思っています。旅に行かないまでも、僕は毎日夕方に必ずコーヒーを一杯飲んで、おいしいか苦く感じるかといった感覚で自分の体調を測るんですが、それと似ているかもしれないですね。
鏡 しいたけ.さんは、もしかしたら「古代人」的なのかもしれない。ある宗教学者は時間と空間をフラットに捉えるのが近代人、そこに濃淡や質の違いを「感じる」人たちを古代人的だと考えました。古代人って、時間と空間の違いによる空気の質の差を感じていた人たちなんです。神社があるところの空気、お正月の空気、満月のときの空気–––それぞれが違うと信じていたし、それを生きていたのが古代人の感覚と言えるでしょう。毎日飲むコーヒー一杯で自分の状態を知るのも同じだと思いますよ。
しいたけ. 面白いですね。
鏡 古代人、いいと思いますよ(笑)。一方、近代人は時間を時給に換算したり土地を坪単価で計算したりできる。その基準は世界のどこへ行っても通用するわけで、時間と空間の均質化と言ってもいいと思います。そういう意味で、しいたけ.さんの神社に対する感じ方の違いは古代人的と言ってもいいですね。星占いというのは、星の配置にある種の時間のクオリティが反映されていることが前提になっているんです。それと、われわれのコンディションがどういう化学反応を起こしているか考えていこうということなんですよね。
しいたけ. さすが鏡さん、わかりやすいです。まさにそういうしくみですよね。
鏡 シェイクスピアは「人生は舞台。我々は役者に過ぎない」と言いましたが、星の配置は世界全体という舞台と、役者である僕たち個人の両方とに関わっています。その「舞台設定」であるベースの部分が2020年に向けて大きく変わろうとしている、というのが今の状況ですよね。
しいたけ. はい。それは僕も感じていました。2019年には僕らの世界認識が今よりカオスになるのかなと思っていて。2018年は天災も多かったし、2019年は元号も変わります。これって、古代であれば社会の一大事なわけで。そんなとき、占い師はそういうことを読むのにもっと忙しいはずなんですが……。社会全体の大きなことよりも「獅子座の私は来年何色のシャツを着たらいいですか?」といった個別の需要のほうが上回っているのが現代なんですよね。
鏡 そうですね。占いの位置づけが昔とは違ってきているからでしょうね。というのも、今、占いと呼ばれている象徴体系は、かつては社会の秩序を表していると考えられていたんです。身分に応じて身につけてはいけない色があり、つけていい紋や持ち物までが決まっていた。たとえば冠位十二階に対応する色がありますが、それは陰陽五行、つまり占いから来ています。細かい事柄までが、宇宙的に、そして「占い的」に決定づけられていた。それが、今はすべてが自由になり、何を選んでもよくなった。そうしたら今度は逆に、それを宇宙的に意味づけてくれる占いを求めるようになったんでしょうね。
しいたけ. それなら、こういう来年を占う対談の場で「2019年は牛が来るぞ」とか無責任にわけのわからないことを言ってみたくなりますね。いや、冗談ですよ。
鏡 牛来るぞ(笑)。いや、牛、本当に来るかもしれないですよ。来年3月に天王星が「牡牛」座に入りますからね(笑)。
しいたけ. あ、今、宇宙とつながったかな(笑)。
しいたけ. 僕はSNSとの距離の取り方が変わるんじゃないかと思っています。SNSは面白くてずっとやってしまうけれども、そろそろ情報を制限しようという方向になるんじゃないかと。本当に大事な話はリアルで会って話そうとか……。あとは自分に正直でいることとか。仮面を脱いで本当の自分をさらけ出していくようなイメージ。
鏡 占星術的に結びつけると、それは2020年から始まる新しい時代の幕開けを先取りした感覚かもしれませんね。占星術では2020年が大きな転換点になりますが、それは年末に木星と土星が重なる「グレートコンジャンクション」と呼ばれる現象が起こるからなんです。グレートコンジャンクションの起こる星座は、200年ごとに4つのエレメントの星座グループを移っていくんです。火から土、土から風、風から水、という進み方で。なので、20年に一度のグレートコンジャンクションに注目すると、20年で一巡するサイクルと、200年前後で一巡するサイクルの両方に気づきます。前回までは土のエレメントの星座で起こっていたのが、2020年からは風の星座で起こる200年が始まるんですね。だから2020年は占星術的には新しい200年サイクルの始まりの年になるのです。土は物質、風は情報を象徴するので、2020年は本格的な情報の時代の幕開けと言えるわけです。
しいたけ. そういう大きな流れを把握できるのも、占星術の興味深いところですよね。
鏡 そう考えると、しいたけ.さんの着眼点はすごく面白くて。普通は、風の星座の時代が始まるといえば「情報の時代だ、情報に敏感にならなくては」と、AIだVRだと情報にまつわる現象が盛んになっていく未来を思い浮かべがちですし、そういう占いをたくさん目にすることになるでしょう。でも、しいたけ.さんは違っていましたね。「情報とのつきあい方」「情報との距離の取り方」に着目している。
しいたけ. 今、情報の扱い方を間違えると本当に怖い時代ですしね。
鏡 僕も、情報も無意識もダダ漏れにするSNSのありようには抵抗を感じていて(笑)、しいたけ.さんのおっしゃる「成熟した距離の取り方を」という言葉には救いを感じます。2019年は木星が射手座に滞在する年ですが、僕のイメージでは射手座木星は、先ほどしいたけ.さんの言われた「カオス」を俯瞰しながら、高い理想に向かって飛んでいくような感じ。
しいたけ. 僕にとって、射手座は壁をぶっ壊す人のイメージです。その前の蠍座は迷路を粘り強く最後まで進んでゴールするけれど、射手座は壁の向こうがゴールだと気づけば迷路を無視して壁をダイナマイトで破壊してしまう。昔でいうと戦の前に太鼓を叩いて「これに勝たなきゃ明日はねーぞ」と盛り上げたあと、先陣を切って突っ込むのになぜか最後まで生き残っちゃうような人。恐怖心を封印することによって生存確率を高めている人たちというか。
鏡 なるほど、面白い。射手座木星というとピュアなイメージがあるのですが、そのピュアさって壁があっても気づかないくらいの「鈍感力」と言い換えてもいいですよね。シャットアウトできる力、スルーできる力を持つと2019年をうまく乗りきれるのかもしれません。そういえば、先ほどしいたけ.さんは京都のお寺を訪ねたときに具合が悪くなった理由を、しばらく考え込んで言葉を選びながら考えて説明していましたよね。それは、ご自分で感じたことを言葉に落とし込む作業に数十秒かかったんだなとわかりました。しいたけ.さんは外から与えられた出来合いの情報を遮断して、「ちょっと待った」ができる人。来年からはそういう力がカギになるのかもしれませんね。
しいたけ. その人にしか言えない言葉って、喋らない時間のなかで培われると思うんです。旅行中にSNSに写真を投稿し続けて更新しまくる人、いるじゃないですか。旅番組のタレントじゃないんだから、そこまでやらなくてもって思うときがあるんです。自分の印象や感じたことをリアルタイムに伝えようとするのではなく、スピードアップしている世の中だからこそ、じっくり染み入るのを待てるといいですよね。
鏡 そうですね。それに、たとえば旅行に行くにしても、日本人は一日に訪問する場所をいくつも詰め込むツアーが好きですよね。そういうスタイルではなく、自分のなかで何が起こっているか、何を見たいのか、もう一度確認する時間を持つのもいいでしょうね。実は僕はせっかちだからそれが苦手なんだけど(笑)。
しいたけ. ほぼ無職でフリーターをしていた頃に、どんな組織にも属していなかったので、自分が今「何点取っているか」がわからない。「今日はチャーハンがうまくできた」というのはありましたが(笑)。でも、全体のなかでこれが正しいのか、大きくはずれていないのかがわからなかった。それで、その目安に、と占いを勉強し始めたんです。
鏡 自分を採点するために、と。
しいたけ. 正しく採点できないにしても「自分の星回りがこうなっている、でも、実際に生きている自分はこうなんだけど」と思いながらホロスコープを眺めていました。フリーターなので不安もあって、今がどういう時期なのかというのを大まかに知りたかったというのもあります。占いを勉強することによってわかったことは、「何をしてもうまくいかない時期」、たとえば「家電が壊れたり人が離れていったりが重なる時期」があるんだということ。その後、個人鑑定を始めたら、人生をうまく生きている人ほど、「この時期は何をやってもうまくいかない」という自覚があるときは休むみたいだ、ということがわかってきました。そういうときは無理せずじっとしていて、勝負時が来たら一切のつきあいを断ってでも仕事に集中したりするんですね。そういうケースを見ているうちに、うまくいかない時期は次を迎えるためにある程度仕方のないことなんだなと思うようになってきて。
鏡 なるほど。でも、占いをしていると「うまくいかないときはどうすればいいですか?」聞かれることもあるでしょう。
しいたけ. そんなときは、とりあえず積極的にどうでもいい失敗をすることですね。変なリュックを買うとか(笑)。
鏡 おお、これこそまさに「しいたけ.節」ですね! 「センスの悪い服を買う」ではなく「変なリュックを買う」という言葉選び。絶妙です(笑)。要するに悪運を使っちゃうということですよね。
しいたけ. そうですね。リュックに関しては、僕、本当に買っちゃったんですよ。変なリュックを(笑)。本屋さんに売っていたリュックがなぜか欲しくなって。「本屋でリュックを買うなんて信じられない」と言われてしまいましたね。
鏡 実話だったんだ(笑)
しいたけ. 僕の場合はそうやって恥をかくことが当たり前になっちゃったんですが。占い師をやっていてわかったのは、変なリュックを買って死ぬほど落ち込んでいる人が多いということ。でも、そういうときは変なリュックや変なオトコと出会っちゃう運命なんですよ、と。でも、そこから学ぶこともあるんですよね。
しいたけ. 今は情報過多時代だから、SNSなどを見て知らず知らずのうちに同世代の有名人や人気のある人に強く影響されてしまうような気がするんです。そんなとき、たとえば「牡牛座は不機嫌になったら部屋に閉じこもって誰にも会わないで好きな動物をスーハーする人」と僕が書いたのを読んだ牡牛座の人が、「ああ、周りに合わせて社交的にならないとって無理してたけど、牡牛座だからそういう生き方をしてもいいんだ」と思えるなら……。
鏡 それは、迷える牡牛座にとっては救いの言葉ですよね。
しいたけ. はい。迷子になったとき、占いが原点に戻れる形を提供できているならうれしいなと思っています。ただ、その一方で読者やクライアントの方々が僕の占いを見なくなることも一つのゴールだと思っていて。
鏡 リピーターになってくれるのではなくて?
しいたけ. 「一度、占いではなくて自分で考えてみようかな」って思うようになって、また1年2年と間を置いてまた見てくれるとか。そういうつきあいも大歓迎なんです。一方で、僕自身はファンを持つことで成長させられてるんですよ。端的に言って、サボってると見抜かれちゃうんです、ファンの人には。鏡さんは個人鑑定をなさらないけれど、占いファン全般に対してはどんなふうに感じていらっしゃるんですか。
鏡 僕は高校生の頃から星占いの記事を書いていた「子役上がり」のようなものなんです。当時はまた景気も悪くなくて、社会に余裕があったんですよね。河合隼雄やユングがブムになるくらいで、リアルな世の中では役に立たないことの豊かさ、たとえば人文的な教養を深めることにもカッコよさを求めるようなところがあった。その空気を知っている世代からすると、今は占いも占いの読者も、より世知辛くなってきているように感じます。占いが「こうすると愛されてお金持ちになります」というのに直結しているみたいでね。星の世界を遊泳すれば何の役にも立たないことをイメージできて、その豊かさを楽しめるのに、それを現世的なことにだけ結びつけるのはもったいなくない? って思ってしまうんですよね。
しいたけ. 鏡さんがそうおっしゃると、すごく納得させられます。
鏡 星占いの背景には、もっとリッチで面白い世界もあるよ、と伝えられたらなと思います。星占いを星占いとして楽しめるくらいの余裕のある社会になってほしいですよね。
しいたけ. そうですね。そんなふうになったらいいですね。
(2018年11月 対談収録)
★自分のなかで何が起こっているか、何を見たいのか、一度ゆっくり確認する時間を持つことが大切。
★何をやってもうまくいかない。そんなときは、積極的にどうでもいい失敗をして悪運を使い果たしてしまおう。
★SNSとは成熟した距離の取り方を。物事がスピードアップしている今こそ、発信前に自分の中に一度落とし込んで。
★占いからあえて一度離れてみることもアリなのでは? 占いをエンターテインメントとして楽しむ余裕を持ってみよう。
日本において西洋占星術を幅広い世代に浸透させてきた第一人者。アカデミックなバックグラウンドを強みとしつつ、親しみやすい「星占い」を提供し続けてきた。著書のほか『ユングと占星術』『世界史と西洋占星術』などの訳書も多数。
VOGUE GIRLウェブサイト連載「WEEKLY! しいたけ占い」でおなじみ。占いとオーラリーディングを心に染みる言葉にするスタイルで人気。初のエッセイ『しいたけ.の部屋 ドアの外から幸せな予感を呼び込もう』(KADOKAWA)が発売中。