M4とは異なる印象を受けたM3
おなじ成り立ちのはずなのに、すでに試乗した「M4」にはない迫力をM3から感じるのはなぜだろう?
試乗車の正式名はM3コンペティションとM4コンペティションであるものの、以降は単にM3とM4と表記させていただく。それはさておき、諸元表で比べるとM4よりM3のほうが20mm、全幅が広い。よくよく見ると、M3のみ小さなリップがリアフェンダーに取り付けられているので、全幅の違いはこれに起因するのかもしれないが、そんなものが視覚的な迫力を大きく左右するとは思えない。
また、M4は目にも鮮やかなサンパウロ・イエロー、M3は深みのあるアイル・オブ・マン・グリーン・メタリックとボディカラーが異なっているのも事実であるものの、そればかりが理由とは言い切れないだろう。
しばらく2台を見比べていて、セダンとクーペというボディ形状の違いが迫力の違いを生み出しているのではないか? という、ある意味で当然の答えに辿り着いた。
M3とM4は、どちらも前後のフェンダーが大きく張り出していて、これが一種の凄みを生み出しているが、もともとスポーティなM4のクーペボディにはこのワイドなフェンダーが無理なく溶け込んでいるのに対して、端正な3シリーズのセダンボディとワイドフェンダーの組み合わせは、ちょっと強引というか、軽い違和感が伴っていて、これがM4にないダイナミックな印象を与えているような気がするのだ。
おなじフェンダーの造形でいえば、ボディサイドに溶け込むような形状のワイドフェンダーよりも、別部品を後付けするオーバーフェンダーのほうが“異物感”が強い分、迫力が増すのと同じ理屈。まあ、そんな理由はどうでもよいのだが、いずれにしても、私がM3にM4以上の力強さを感じたのは事実である。
驚くほどの扱いやすさ
でも、そんな外観の印象を別にすれば、M3とM4はとてもよく似ている。
乗り心地の印象はいくぶん硬め。でも、下からガンガンと突き上げてくる感触は薄いので、ガマンできないほど乗り心地が悪いというわけでもない。むしろ、これまでのM(正確にはMハイパフォーマンス)モデルにくらべればはるかに快適。「スポーツモデルだったら、これくらいフツーでしょ」と“したり顔”でいうベテラン愛好家は少なくないはずだ。
エンジンはいうまでもなくストレート6。ところが、M4の試乗記でも書いたとおり、このストレート6がターボエンジンとは思えないほどの “生っぽさ”を生み出しているのだ。しかも、“クォーッ”という吸気音と排気音が入り交じった音に、シャカシャカというメカニカルノイズが適度にあって、ドライバーの闘争心をほどよく刺激してくる。
かすかに感じられる細かな振動も、エンジンの“生っぽさ”が伝わる一因。いずれにせよ、絶対的な音量はそれほど大きくないので、長距離ドライブでも疲れないはずだし、早朝のお出かけや深夜の帰宅でもご近所迷惑にならなくて済む。実にうまい設定である。
もちろん、エンジンのレスポンスは自然吸気と見紛うばかりのシャープさ。それも、電気仕掛けで無理やり反応を鋭くしているのではなく、あくまでもよくできた自然吸気エンジンのように仕上げてあるところが嬉しい。
いっぽうで、エンジンパワーは回転数に応じてリニアに立ち上がっていくタイプで、最高出力が510psもあることが信じられないくらい扱いやすい。これも嬉しいポイントのひとつだ。
特別なM3の誕生
嬉しいといえば、ハンドリングの変化についても触れておきたい。まず、微妙な路面の凹凸への追従性が高まったことで、タイヤから安定したグリップを引き出せるようになった。しかも、M4の試乗記でも記したとおり、ブレーキを残しながらコーナーに進入するトレーリングブレーキを使っても、落ち着いたハンドリングを示してくれる。
これはブレーキングに伴う前荷重をうまく保つダンパーの設定が効を奏しているからだろう。ボディの姿勢が常にフラットに保たれる点も、ステアリングを安心して握っていられる理由のひとつといえる。
結果として、M3は後輪駆動なのにまるで4WDのような高いスタビリティを生み出してくれるのだ。
そんな安定した挙動に勇気づけられた私は、今回、チョイ濡れのワインディングロードでひとつのチャレンジをしてみた。DSC(スタビリティ・コントロールのBMW流言いまわし)をオフにしたときのみ設定を変えられるMトラクション・コントロールを試したのだ。
今回は10段階切り替えとなっているMトラクション・コントロールを「+4」に設定。つまり、半分以下の利きになるように調整したが、そうするとコーナリングの脱出で少し強めにスロットルペダルを踏み込んだとき、理想的ともいえるスピードでテールがヌルッと滑り出し、絵に描いたようなオーバーステアの姿勢を作り出したのである。
こんなことを試すことができたのも、Mモデルがこれまでとは別次元のスタビリティを発揮してくれたからこそ。個人的にも、かつてMモデルをここまで振りまわした経験がなかったので、自分との距離感がぐっと縮まったように感じられた。
私にとっては、まさに特別なM3の誕生である。
文・大谷達也 写真・安井宏充(Weekend,)