進化のポイント
都会派にも使いやすいサイズで、価格もこなれているジープのコンパクトのSUVが「コンパス」である。内外装と安全支援システムがグレードアップされた新型が、6月2日に日本でも発売された。トルクたっぷりのエンジンと安心感の高いステアリングフィールなど、デザインを含めて、日欧のSUVとはまたひと味ちがうキャラクターが印象的だ。
コンパスは、全長4420mmと、日本の市街地でも扱いやすい。「グランド・チェロキー」や「チェロキー」と共通の「7スロットグリル」と呼ぶフロントグリルが目をひく。前輪駆動仕様も用意され、乗り手を選ばない。コンパスには、トヨタの「RAV4」や「ハリアー」から乗り換える人もそれなりにいるという。なるほど、それもわかる気がした。
右ハンドル、2.4リッター直列4気筒ガソリン・エンジンに、前輪駆動は6段オートマチックを、オンデマンド型全輪駆動は9段オートマチックを組み合わせる。今回のマイナーチェンジによって、外装は、従来から要望の多かったというフルLEDヘッドランプが全車標準装備となった。内装は、ダッシュボードを中心にデザインが大きく変わった。10.1インチのタッチスクリーンが設置され、Apple CarPlayとAndroid Autoが使える。
運転支援システムも機能が追加された。死角を走る隣の車線の車両との接触を避けるためのアクティブレーンマネジメントシステムを、ジープとして初採用したのだ。隣の車線に近づくと、強い力によるステアリング操作で押し戻される。
輸入元のFCAジャパンでは、新型コンパスで新しいユーザー層を積極的に取り込みたいとする。日本におけるSUV市場で、もっとも人気の高いコンパクトSUVセグメントは,
従来、「レネゲード」が奮闘していただけに、コンパスでも、というわけなのだ。
アメ車らしい乗り味
コンパスには独自の魅力がある。229Nmの最大トルクを持つエンジンは、軽くアクセル・ペダルを踏んだだけで、地面を力強くつかんで進んでいくようなフィールだ。しゅんしゅんっと上までまわるキャラクターのエンジンでないものの、けっして遅くはない。
もうひとつ、日欧のSUVにはないキャラクターがある。高速を含めて、走らせているとき、長めのサスペンションストロークでもって、ボディがゆったりと上下動する独自の乗り味が味わえる点だ。
ステアリングフィールはしっかりとしていて、カーブを走るのも得意科目である。乗り心地は路面の凹凸をよく吸収して、乗員にとって不快な揺れもなく、終始快適である。
全輪駆動の「リミテッド」のドライブトレインは、オンデマンド型だ。通常は前輪のみ駆動していて、路面状況やタイヤの負荷によって後輪へトルクが送られる。なので、今回の試乗では、ほとんど前輪駆動で走り、カーブの脱出などで強めにアクセルペダルを踏みこんだときのみ、全輪駆動になったはずだ。
従来のコンパスでは60%強のユーザーが、全輪駆動を選んでいたという。メーカー発表の燃費は、全輪駆動車がリッター11.5kmであるのに対して、前輪駆動車は11.8km(ともにWLTC)と、大きな違いはない。オンデマンド型4WDシステムが効率よく作動している証だろう。
前輪駆動との直接的な比較が出来ないのでなんともいえないものの、前後輪の駆動力をしっかり使って安定して走れるという点で全輪駆動はいいかもしれない。
ただし、車重の差は110kgで、価格差も小さくない。前輪駆動の「ロンジチュード」との価格差は50万円。ベースモデルの「スポーツ」では89万円に差が開くから、前輪駆動仕様というのも、じゅうぶんにあり得る選択だ。
悪路走破性を含めたオールマイティな操縦性をとるか。軽快な前輪駆動をとるか。選ぶ楽しみを与えてくれるモデルである。
そういえば、リミテッドに搭載されていたアルパインの純正オーディオは、低音が強く出る設定で、ビートの効いたサウンドの再生が得意だった。繊細なピアノジャズよりヒップホップ。それもこのクルマのキャラクターの一部と感じられる。明るい気分にしてくれる米国製の最新コンパクトSUVであるのだ。
文・小川フミオ 写真・安井宏充(Weekend.)