俳優・永山絢斗の“ヤングタイマー”探訪記第2部「少年探偵団編」のVol.12─トヨタ・セルシオ(初代)

「ボ、ボ、ボクらは少年探偵団・ヤングタイマー探訪記第2部」のはじまりです。1980年代、1990年代に販売された“ちょっと、古い、クルマ”に焦点を合わせ、クルマをこよなく愛する俳優・永山絢斗が当時の車両の正体を暴く“探偵”に扮します。永山探偵をサポートする“物知り少年”は自動車評論家の小川フミオ(少年O)とGQ JAPAN編集部のイナガキ(少年I)のふたり。取り上げるのは、世界の高級車を変えたとも言われるトヨタの初代「セルシオ」だ。
トヨタ TOYOTA CELSIOR セルシオ レクサス LS LS400 LEXUS トヨタ自動車 C仕様 Fパッケージ 自動車電話
Hiromitsu Yasui

初代セルシオとフラワーロック

少年I ♪ズンチャ、ズンチャ。

少年O どうしました? ギター抱えて、サングラス。しかも顔のまわりには花びら。ジェネシス時代のピーター・ゲイブリエルですか。

少年I 最後の部分、誰もわからないと思います……。なにはともあれ、これ1988年に発売された玩具「フラワーロック」のマネです。

【前話】マツダRX-8

少年O 音楽が流れると、鉢植えの花が踊り出すという玩具ですか。大ヒットしましたね。

探偵 それが今回のクルマと、どう関係があるのでしょうか?

少年I 今回は1989年に登場したトヨタの初代セルシオを採り上げます。フラワーロックと同時代に日本が生んだ、世界的にインパクトのある工業製品というつながりです。

初代セルシオは、海外ではレクサス・ブランドのフラッグシップ「LS400」として販売された。

開業当初のレクサスは、LS400のほかに、日本市場の「カムリ・プロミネント」を「ES250」として販売した。

少年O たしかに当時、海外の自動車メーカーのデザイナーから、「取材に来るときはフラワーロックのいちばん新しいバージョン、買ってきてくれませんか?」と、何回か頼まれたものです。海外でも人気でした。

探偵 セルシオはエポックメーキングなクルマだったんですよね。私はその年に生まれたので、発表当時のことは詳しくは知らないんですけれど……。

初代セルシオが登場した1989年は永山さんの生まれ年でもある。「自分と同い年のクルマとは思えないですね。今見ても古さを感じません」とのこと。

Hiromitsu Yasui

少年O 1989年1月のデトロイト自動車ショーで「レクサス」ブランドがデビュー。そのときの看板車種「LS400」として発表され、ものすごい反響を呼びました。私もそのときベールを剥がす瞬間を会場で見ていました。トヨタのひとたちも興奮していましたが、各国から来たジャーナリストも興奮していました。

【俳優・永山絢斗の“ヤングタイマー”探訪記】
メルセデス・ベンツ500E
ランチア・デルタHFインテグラーレ
マセラティ・ギブリ(2代目)
メルセデス・ベンツGクラス(2代目)

世界の高級車が驚いた!

探偵 どこがすごかったのでしょうか?

少年O ひとつは、日本車がそれまで未踏の領域だった3万5000ドルクラスのプレミアム市場に足を踏み入れた点。そしてその裏付けともいうべき、ひとつひとつの部品を精密に作り、組み付け精度を上げ……と、当時の言葉でいうところの“源流主義”にしたがったモノづくりの成果が、きちんと反映されたクルマになっていた点。これが大きいですね。

エンジンは、4.0リッターV型8気筒DOHC32バルブの「1UZ-FE」。セルシオのほか3代目「ソアラ」や初代「アリスト」にも搭載された。

Hiromitsu Yasui

組み合わされるトランスミッションは電子制御式4ATのみ。

Hiromitsu Yasui

探偵 実際に乗っても驚きでしたか?

少年O 日本では1989年10月にトヨタ・セルシオの名前で発売されました。4.0リッターV型8気筒ガソリン・エンジンはパワフルだったし、ハンドリングはよかったし。飛ばして楽しいのは、追いかけるように発売された日産の「インフィニティQ45」でしたが、セルシオには破綻のない高い操縦性がそなわっていたのに感心したのをおぼえています。

【俳優・永山絢斗の“ヤングタイマー”探訪記】
日産PAO
スバル・レガシィ・ツーリングワゴン(初代)
ユーノス・ロードスター(初代)
ホンダ・NSX(初代)

セルシオのライバルだった日産の「インフィニティQ45」。七宝焼きのエンブレムやグリルレスデザイン、油圧式のアクティブ・サスペンションなどが注目を集めた。

少年I 当時の宣伝用フィルムを観ると、シャンパン・タワーをエンジンのうえに築いているんです。スクープグラスを重ねていって、エンジンを始動させても、タワーが崩れない。それほどの低振動性を謳っているのですから、すごいとしか言いようがありません。

少年O 当時、米国ではかなり強いブランドだったメルセデス・ベンツやキャデラックの市場に食い込むなんて、日本車に可能なの? という周囲の疑問もなんのその、作りのよさと、宣伝の巧みさでもって、あっというまに人気を獲得しました。当時、米国のレクサスは、たとえばカリフォルニアの各市町村で週末になると開かれるポロ大会や、スワップミートなどのスポンサーをやって、きれいな垂れ幕などで、高級なイメージをユーザーに訴求していました。

クオリティの高いインテリア。本物のウッドを各所に使っている。

Hiromitsu Yasui

試乗車のシートはレザー張りだった。フロントは電動調整式。シートベルトのアンカー位置も電動で調整出来る。

Hiromitsu Yasui

SRSエアバッグ付きのステアリング・ホイールは電動調整式。

Hiromitsu Yasui

探偵 そういうのが大事なんですね、米国では。

少年O 同時に、北米で自動車を買うひとが重視する調査会社JDパワー・アンド・アソシエーツによる品質調査で、ずっと1位を獲得。おかげで、米国では“酒のレクサス”なんて、ほかの業界の品質評価で使われるほどになったんですから。“世界最速でブランドになったクルマ”とも言われていました。

試乗車には、かつて使用されていた自動車電話がそのままあった。永山さんも、初めて見る自動車電話に驚いていた。

Hiromitsu Yasui

自動車電話サービスが日本で開始されたのは1979年12月とのこと。1988年に大容量自動車電話方式と呼ばれる高効率方式が導入された。フロントのセンターアームレストには、自動車電話用に形状が工夫されている。

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パイオニア製のカセットデッキを装備。エアコンの性能は当時、トップクラスを誇った。

Hiromitsu Yasui

色褪せぬ素晴らしい走り

少年I 今回のクルマは1991年型のセルシオC仕様Fパッケージ。ホイールストローク感応型電子制御エアサスペンション装着の最上級グレードです。いまのオーナーのSさん(29歳)は、横浜の大黒埠頭で知り合った前オーナーから買い取ったそうです。

探偵 さっそく運転させてもらいます。(中略)これはいいですねえ。すばらしいコンディションではないでしょうか? しっかりしたステアリングと、トルキーなエンジン……エアサスによる、乗り心地も最高ですね!

足まわりをチェックする永山さん。

Hiromitsu Yasui

アルミホイールは当時の純正だ。

Hiromitsu Yasui

少年I 全長4995mmもある車体なのに、重さとか大きさを意外なほど感じさせないのには、やはり1989年生まれの私も驚きました。30年以上前のクルマとは思えません!

少年O 車重は1790kgあるので、数値からするとそう軽くもないんですけれど、操縦性は軽快なんですよね。私は、2019年にプエルトリコでレクサスの30周年を祝った試乗会に参加。そこで、LS400でもってワインディングロードを走りまわるチャンスをもらいました。そのとき「これは楽しい!」と、うれしい驚きを感じたのをよくおぼえています。いままた、レクサスの開発者は、この初代がどうやって作られていたか、実車をバラしたりして研究しているんだとか。そういう名車なんですよね。

【俳優・永山絢斗の“ヤングタイマー”探訪記】
シトロエンCX
メルセデス・ベンツSクラス(W126)
ローバー・ミニ
フェラーリ360モデナ

初代セルシオ開発のため、トヨタは北海道士別市に新しいテストコースをつくった。社運を賭けた1台だったのだ。

Hiromitsu Yasui

電動格納式のコーナーポールも装備。360°カメラや超音波センサーの発達により、今ではあまり見かけなくなった装備だ。

Hiromitsu Yasui

メーターは「オプティトロンメーター」と呼ぶもので、グレースモークのフィルターを前面に設けて構成したブラックフェイスパネルに、指針と目盛が鮮明に浮かび上がるアナログメーター。より判読しやすいメーターとすることを狙いとし、またハイテク感あふれる意匠性も同時に実現した。浮かび上がる指針と目盛用透過照明には冷陰極管を採用し、高い視認性を確保するための高輝度化を図ったという。

Hiromitsu Yasui

少年I 当時のマークⅡ(X80型)が“名車の予感”というキャッチコピーを使っていたように、1980年代後半のトヨタは勢いがすごかったのですね!

探偵 室内は品がいいし、コクピットの造型もきれいにまとまっています。これが出てきたら、欧米プレミアムカーのメーカーは焦ったんじゃないでしょうか?

【俳優・永山絢斗の“ヤングタイマー”探訪記】
フォードRS200
フォード・エスコート(マーク1)
マツダRX-8

リアシートに座る永山さん。その広さに驚いていた。

Hiromitsu Yasui

Fパッケージは、リアシート重視の仕様だ。

Hiromitsu Yasui

リアシートの電動調整用スウィッチやエアコン、オーディオコントローラーなどはセンターアームレストにある。

Hiromitsu Yasui

リアシート用イヤホンには、セルシオのロゴ入りだ。

Hiromitsu Yasui

リアドアのアームレストには、リッド付きの灰皿が備わる。使用された形跡はなかった。

Hiromitsu Yasui

少年O レクサス以前と以降とで、静粛性とか品質感への認識が変わったと言われています。

探偵 トヨタの底力ってすごかったんですね。

少年I いまのオーナーのSさんは、若いのに、ちょっと古い欧州車をいろいろ乗り継いできています。セダンでは、名車と言われるメルセデス・ベンツの「320E」(W124)と、1993年のマイナーチェンジで「Eクラス」の名称が設定された際に車名変更になった「E320」を乗り継いだ経験をお持ちです。セルシオを所有してみて、「これだけのものをトヨタが作っていたことに驚きました」とのことでした。それに「これがメルセデス・ベンツよりずっと安かったのにもやはり驚いています」と、言っています。

セルシオはその後、3代にわたり生産・販売された。4代目以降は、日本でのレクサス店開業に伴い、「LS」として販売されるようになった。

Hiromitsu Yasui

少年O 今回のセルシオC仕様Fパッケージの価格は当時620万円。足まわりが異なるA仕様では455万円。6気筒搭載のメルセデス・ベンツE320は、1993年当時で710万円でしたから、だいぶ違いますね。

探偵 初代セルシオから、日本の高級車はスタートし、いまでもしっかり前へ前へと進んでいこうという精神こそ、すばらしいことかもしれませんね。

Hiromitsu Yasui

【俳優・永山絢斗の“ヤングタイマー”探訪記】
メルセデス・ベンツ500E
ランチア・デルタHFインテグラーレ
マセラティ・ギブリ(2代目)
メルセデス・ベンツGクラス(2代目)
アルファロメオ・スパイダー(初代)
日産PAO
スバル・レガシィ・ツーリングワゴン(初代)
ユーノス・ロードスター(初代)
ホンダ・NSX(初代)
シトロエンCX
メルセデス・ベンツSクラス(W126)
ローバー・ミニ
フェラーリ360モデナ
フォードRS200
フォード・エスコート(マーク1)
マツダRX-8

【プロフィール】
俳優・永山絢斗(ながやまけんと)

1989年3月7日生まれ。東京都出身。2007年『おじいさん先生』(日本テレビ系列)で俳優デビュー。連続テレビ小説『おひさま』や『べっぴんさん』(NHK総合)、『ドクターX〜外科医・大門未知子〜 第5シリーズ』(テレビ朝日系列)、そして2021年には『俺の家の話』(TBS系列)に出演。映画では2010年の『ソフトボーイ』で第34回日本アカデミー賞・新人俳優賞を受賞。

<出演情報>
・2022年1月7日(金)20:00より放送テレビ東京系列 新春ドラマスペシャル『優しい音楽~ティアーズ・イン・ヘヴン 天国のきみへ』に出演。
・2022年2月20日(日)23:00放送・配信WOWOWオリジナルドラマ『にんげんこわい』第3話『紺屋高尾』主演。

まとめ・小川フミオ 写真・安井宏充(Weekend.) スタイリスト・Babymix メイク・竹下フミ ヘア・大野愛郎(BEAUTRIUM) 撮影協力・横浜ベイホテル東急