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「中国の“親日ムード”は全部政府が作った」って本当ですか?

高口康太ジャーナリスト、翻訳家
2019年11月28日、東京で開催された微博群英会に出席するリンピンさん。

今、中国では「親日ムード」が広がっている。安倍首相の訪中など外交レベルでの緊張緩和が続いていることに加え、日本旅行ブームが続くなど民間レベルでの日本人気も上がっていた。この土台に加え、医療物資支援などが大きく報じられたことが影響しているようだ。

一方で、この「親日ムード」は国際的な孤立を隠すために中国政府が作り上げたものに過ぎないとの見方もあるようだ。日本経済新聞は2020年2月21日、「日本の中国離れ警戒 習指導部が「親日」宣伝」と題した記事を掲載。尖閣諸島近海では中国公船による領海、接続水域への新入が続いていると指摘。「親日ムード」も政府によって演出されたものに過ぎないとの見方を示した。

中国ではすべては政治によって決定される。こうした見解をとるチャイナウォッチャーが多いが、果たしてそうなのだろうか? 中国には政治しかないのだろうか?

「政治のことはわかりませんが、政治以外の日中のつながりはちゃんとありますよ」

そう話すのは在日中国人インフルエンサーのリンピンさん。SNSや動画配信サイトを通じて、日本の観光地や自然、そしてさまざまな商品などの魅力を中国に伝えてきた。

「2014年ごろから日本を訪問する中国人観光客が増えましたが、実際に日本の文化や人に触れることで日本ファンが増えていったんです。日本側でも中国人観光客を暖かくもてなしてくれるお店が少なくありません。先日、湖北省武漢市に住む私のファンからこんな話を聞きました。1年前に京都を旅行して着物体験をしたそうなんですが、その時にお世話になったお店から宅配便が届いた、と。中にはマスクやお菓子が詰まっていて、「ご無事を願っています。健康でいてね」とメッセージが入っていたのだとか。とても感動していました。こうした気配りが民間の“親日”を育ててくれたんです」

リンピンさんがインフルエンサーになったのも、草の根の日中交流が始まりだった。

「2012年ごろ日中関係が悪化したことで、中国メディアが日本の情報を取りあげなくなりました。それでも日本カルチャーのファンはたくさんいて、どうにかして日本のことが知りたいと思っていたんです。そういう人に情報を届けようとして、SNSにはいくつもアカウントができました。私もその一人なんです。外交レベルでは日中関係は悪かったのかもしれませんが、その時でも草の根のつながりはしっかりありました」

リンピンさんは続ける。

「親日は中国の国策だ。米中関係が悪化したから日本にすり寄った。日本の人からそういう話を聞くと悲しくなります。日本人はもっと自信を持って良いと思います。政府に言われたからではなく、日本の文化や気配りが好きな人たちはいるのだって」

ジャーナリスト、翻訳家

ジャーナリスト、翻訳家。 1976年生まれ。二度の中国留学を経て、中国を専門とするジャーナリストに。中国の経済、企業、社会、そして在日中国人社会など幅広く取材し、『ニューズウィーク日本版』『週刊東洋経済』『Wedge』など各誌に寄稿している。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)、『現代中国経営者列伝』(星海社新書)。

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