Text by Anna Schaverien
何世紀もの歴史を持つイギリスの邸宅「ブリックリング・ホール」は、所蔵する貴重なタペストリーやカーペット、家具を守るため、人間の目では見ることもできない昆虫と手を組んだ。
ロックダウンにより人間の訪問者が途絶えていたあいだ、イギリスのこの歴史的建造物の静まり返った部屋には、招かれざる客が集まっていた──クローゼット、天井の梁、床板にはびこり、貴重なタペストリーや家具、カーペット、調度品を食い荒らす「ガ」である。
イギリス東部ノーフォークにある古い邸宅、ブリックリング・ホールではいま、こうしたガの被害を食い止めるため、目には見えない生き物が懸命に働いている。
ホールを管理する歴史的建造物の保護団体「ナショナル・トラスト」が望みをかけたのは、「ハチ」である。ガの卵をハイジャックして乗っ取る、体長わずか0.5ミリという極小のハチを無数に放つことで、ガの撃退を期待しているのだ。
「タペストリーが壁から落ちかけているとか、ぼろぼろに食い荒らされているというわけではありません」と、ナショナル・トラストの保存修復士アシスタント、ヒラリー・ジャービスは言う。
「ですが、どんな損害も受け入れられないということです。何か見つかるたびに胸が痛みます。ガがそこにいることはわかっています。呑気にしてはいられません。ガたちに繁殖のチャンスを与えてはならないのです」
博物館の害虫対策を行う会社「ヒストリオニックス」による計画はこうだ。「トリコグラマ・エバネッセンズ」と呼ばれる寄生バチの一種を、カード状の容器を使って建物内に放つ。そこから飛び出したハチたちはガの卵を探し出し、中に自らの卵を産み付け、ガの繁殖を阻止するのだという。
「ですが、どんな損害も受け入れられないということです。何か見つかるたびに胸が痛みます。ガがそこにいることはわかっています。呑気にしてはいられません。ガたちに繁殖のチャンスを与えてはならないのです」
2週間で死んでハウスダストに
博物館の害虫対策を行う会社「ヒストリオニックス」による計画はこうだ。「トリコグラマ・エバネッセンズ」と呼ばれる寄生バチの一種を、カード状の容器を使って建物内に放つ。そこから飛び出したハチたちはガの卵を探し出し、中に自らの卵を産み付け、ガの繁殖を阻止するのだという。
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