この料理にあう飲み物をください、という言葉の流行

僕がバーテンダー修行を始めた1995年頃のこと。

もうしょっちゅう言われた注文が「何か柑橘系で飲みやすくてさっぱりしたロングのカクテルをお願いします」というのがあります。

これ、その当時の雑誌の特集で「バーでの注文の仕方」みたいなのがあれば、必ずこの注文で間違いないって感じで紹介されていたし、カウンターでも「そうやって注文すると良いよ」って教えているシーンをよくみかけました。

だから今、40才以上の人で、バーに行くような人は必ずこのフレーズは言ったことあると思うし、バーテンダーの方は、このフレーズ、懐かしいなあって感じていると思います。

こういう、「こうやって注文するのが時代の流れ」っていうのがあるんですね。

例えば、焼酎が流行ったときは、「すごく臭い芋焼酎ある?」って言うのが流行ったり、90年代のワインブームの時は「渋くてどっしりした赤ワインくれる?」って言うのが流行ったり、自然派ワインブームの時は「淡いワインある?」とか「田舎くさいワインある?」とかって言うのが流行りました。

 ※

僕はいつも言うのですが、こういう流行りって別に「良いとか悪いとか」ではなくて、街の空気が「そういう感じ」になってしまっているんです。

それが新しいし、時代の空気なんです。

後になってみれば「ああ、懐かしいなあ、あの頃、なんか高い焼酎、飲んでたなあ」って思うのですが、その時はそういう空気なんです。

 ※

でも、例えば、古い昔からの居酒屋さんで、生ビールは置いてなくて、サッポロの赤星の瓶だけで、日本酒は大手1種類だけで、焼酎もいいちこだけって感じのお店ありますよね。

でも、季節の食材を使った和え物とか、焼き魚とか、煮物が美味しくて、サービスのスタッフがみんな60才をこえた女性で、いい雰囲気の居酒屋。

そういうお店で、「もっと辛口の日本酒ないの?」とか「ええ? 焼酎、これしかないの?」とかって言ってる方、たまにいましたよね。

あれ、「悲しいなあ、お店の雰囲気を考えてよ。ここはそういう今流行りのメニューを追求しているお店じゃないし」って言いたくなるんですよね。

で、ネットで「日本酒が○○しかないのが残念」とか「焼酎をもっと揃えたらいいのでは」とかって書き込んであったりすると、「ううん、悲しい」とかってよく思ったものです。

 ※

さて、最近の「街の空気」で、こういう注文が、という流れだと「この料理にあう飲み物をお願いします」というものですよね。

ペアリングです。

これ、本当に口の中で「ピタッ!」とあうと感動的なんですよね。ほんと「食べたり飲んだりすることって面白いなあ、味覚って不思議だなあ」って感じる瞬間といいますか、「こういう味にはこういう味がぶつかる、こういう味があう」とかって感じで、みんなが「味覚」を総動員して楽しもうという感じがあって面白いです。

これ、以前は「マリアージュ」と呼んでまして(今でもマリアージュって言いますが)、よく話題になったんですね。

それで、ちょっと恥ずかしい経験をしたことがありまして、ある場所にチーズを買いに行って、「こういうブルゴーニュの赤ワインにあうチーズを」とかって感じで、マリアージュのことばっかり伝えてたら、「まあ、マリアージュも大切だけど、チーズそのものを味わってくださいね」って感じでやんわりと諭されたんです。

そりゃそうだよなあ、別にマリアージュの喜びを売っているわけじゃないもんなあ、美味しいチーズを売ってるんだもんなあってちょっと反省しました。

 ※

ところで先日、とあるビストロで食事をしていたら、隣で「この料理に合うワインを」って感じでずっと注文している方がいたんです。

でもそのビストロ、上の昔ながらの居酒屋と同じで、そういうお店じゃないんです。

南仏のカジュアルだけど美味しくてすごく安いハウスワインがあって、しっかり食べて飲んでください、って感じの、フランスに普通にあるようなビストロなんです(僕はフランス行ったことないのですが…)。

時代の空気ってもちろん「アリ」だけど、「そのお店がどういう風に食事と料理を提供したいか」っていうのを読みとってほしいなあと感じた一件でした。

 ※

いやほんと、街の空気、時代の空気、のようなものがありまして、「こういう風に注文する」っていうのって時代や場所で変わっていくんですよねえ。

#コラム

色んな質問に答えた本が出来ました。『ちょっと困っている貴女へ バーのマスターからの47の返信』 https://goo.gl/dZ32IW 立ち読みできます!
https://goo.gl/Q6mRvL

bar bossaに行ってみたいと思ってくれている方に「bar bossaってこんなお店です」という文章を書きました。→ https://note.mu/bar_bossa/n/n1fd988c2dfeb

この記事は投げ銭制です。面白かったなと思った方は下をクリックしていただけると嬉しいです。おまけでちょっとした個人的なことをほんと短く書いています(大した事書いてません)。今日は「こういう飲食ネタって」です。

ここから先は

118字

¥ 100

サポートしたいと思ってくれた方、『結局、人の悩みは人間関係』を買っていただいた方が嬉しいです。それはもう持ってる、という方、お友達にプレゼントとかいかがでしょうか。