XperiaやGalaxyといった並みいるスマホを差し置いて、存在感を発揮していたのが、ZTE製の「M」だ。
ドコモは10月18日に冬春モデル、全15機種を発表した。お手頃料金端末「ドコモwith」の大幅拡充などがある中、目玉となったのは、なんと中国ZTE製の新端末「M」(「M Z-01K」、2018年1月以降発売予定)。人気、知名度ともに高いGalaxyやXperiaを差し置き、発表会で紹介される端末の大トリも務めた。
誤解を恐れずいえば、日本でのZTEの知名度は決して高くない。SIMフリースマホを展開しており、徐々に採用も増えているが、まだまだ知る人ぞ知る存在だ。そんなメーカーの端末が、なぜここまで高い注目を集めたのか。
ドコモが「世界でも売る」2画面スマホ
大きな理由は、その見た目だ。
Mは、約半日前の17日に、ZTEがアメリカのニューヨークで発表した「AXON M」のドコモ版。一目で分かる最大の特徴は、ディスプレイを2枚搭載し、折りたためることだ。
それぞれのディスプレイは、5.2インチだが、開いた状態だと2つのディスプレイを同時に使うことができ、約6.8インチ相当に拡大する。ベゼルレスではないため、2画面を並べると中央部分に隙間ができてしまうものの、通常のスマホよりも、大迫力で映像などのコンテンツを楽しめる。
折りたたむとよくあるスマホに見えるが……。
カパッと開くと2枚分の大画面に。雑誌も見開きで読めるほか、モードを変えればそれぞれの画面に個別のアプリを表示することもできる。画面の開閉時にはヒンジのカチッとした節度感があり、実機を触るとしっかりと作り込まれていることがわかる。
2つの画面には、それぞれ別のアプリを表示させられる。AndroidはOSバージョンの7.0で、パソコンのように複数ウィンドウでアプリを使える「マルチウィンドウ機能」を強化しており、Mはこれを活用した。
YouTubeの動画を再生しながら、その感想をツイートするといった使い方や、メールを見ながらスケジュールを書き込むといった使い方など、さまざまなタスクを同時にこなせる。
一般的なスマホの画面は大きくても6インチ前後。しかもアプリを分割表示すると、正方形に近い形になってしまい、使い勝手が落ちる。しかし、Mならば、2画面使えば、いつもと変わらないサイズで、2つのアプリを同時に表示できる。
左画面で検索を、右画面でGoogleマップをみているところ。こんな風に2つのアプリを同時に表示することもできる。
また、中央には2つのディスプレイをつなぐヒンジがあり、半分程度まで開いた状態にしておける。この場合、スタンドなしで端末をデスクやテーブルの上に置いておけるため、動画の鑑賞もしやすい。2つのディスプレイに同じ内容を表示することもできるため、2人で動画やゲームを楽しむこともできる。
半開きの状態だと自立するため、スマホスタンドなどを使わずに、動画視聴もできる。
2画面スマホを投入する機が熟したと語るドコモの吉澤社長。
もっとも、2画面スマホ自体は、すでに他社も製品化している。ドコモ自身も、かつて2013年に「MEDIAS W」というNECカシオ製の2画面スマホを販売していた。約4年半前の当時の状況を、NTTドコモの吉澤和弘社長は、
「2画面といいながらも、どう活用していいのか(定まっていなかった)。テクノロジーもそろっていなかった」
と振り返る。その後、NECカシオは携帯電話事業から撤退。京セラも海外で2画面スマホに取り組んでいたが、同様の理由で、大きな結果を残せていなかった。
2画面スマホにとって「機は熟した」のか?
当時との最大の違いは、4年半という歳月を経て、テクノロジーが成熟したところにある。ドコモのプロダクト部長、森健一氏は、
「昔に比べると、カメラの画素数、ディスプレイのサイズ、CPUなどが格段に進化している。前は額縁が見えたが、狭額縁にも対応できた」
と語る。Androidのマルチウィンドウ対応もその1つ。2画面スマホを出すためのピースが、すべてそろい、機は熟したというわけだ。単なるサプライズではなく、実用度が上がり、利用シーンが明確に思い描けるようになったこと。これが、注目を集めた1つ目の理由だ。
実際、海外では、サムスンが曲げられる有機ELを使い、折りたためるGalaxyを開発していると報じられている。アップルも、部材レベルでの検討に入ったとのウワサで、メジャーなメーカーも、“次のスマホの形”として折りたたみに注目を始めている。
Mを見ると、厚みなど、まだまだ解決しなければいけない課題もあるように感じたが、次の時代への挑戦という意味では、今、出しておいてもいい端末だ。先ほどの森氏も「通信が5Gになり、伝送レートも高くなれば、大きな流れとして大画面化が出てくる」と述べており、将来を見据えた端末であることを強調している。
ドコモにとって共同開発スマホの「事業的価値」は?
ビジネスモデルの観点でも、Mはチャレンジングな端末だ。これが、注目を集めたもう1つの理由でもある。
この端末はZTE製だが、実は企画を立案・主導したのはドコモで、ZTEとドコモの共同開発という位置づけになる。通常のスマホ、特にグローバルモデルは、メーカーが企画、製造した端末をキャリアが購入し、キャリアの仕様を盛り込んだうえで店頭に並ぶ。企画の主体がドコモという点が、Mの大きな特徴なのだ。
ただ、先に述べたとおり、Mは海外でもAXON Mとして発売される。ドコモの発表会でも、アメリカのAT&Tや、ヨーロッパのVodafoneで取り扱うことが明かされた。通常のメーカー製端末であれば当然かもしれないが、このモデルはドコモが企画しているため、メリットが見えづらい。
ドコモが企画し、AT&TやVodafoneなどの海外キャリアでも発売される。キャリアが企画し、国外で端末を発売するというのは世界的にも珍しい。
ここにはカラクリがあり、「AT&TやVodafoneの販売台数に対して、ロイヤリティがドコモに入る仕組みを整えている」(吉澤氏)のだという。見方を変えれば、ドコモがこれまで培ったノウハウを生かし、端末の企画事業を始めたともいえる。
こうした背景があるため、海外キャリアへの営業も、「ZTEのマーケティング部隊と協同」(森氏)で行ったという。もちろん、規模の経済で調達価格が下がることも期待できる。
Mがグローバル展開するメリットは、ドコモのロイヤリティだけではない。
2画面スマホは仕様が特殊ゆえに、日本にマーケットが限定されてしまうと、特徴を生かしたアプリが生まれづらい。AT&TやVodafoneが取り扱うことで、アプリのエコシステムを世界規模に広げられる可能性が高まる。ZTEもグローバルで開発者向けの環境を整えると明言しており、少なくとも、MEDIAS Wよりは、2画面をいかした独自の対応アプリが増えることになりそうだ。2画面スマホの反響が大きければ、Androidの標準仕様に取り込まれる可能性もある。
2画面スマホに限らず、ドコモにはさまざまな端末を企画してきたノウハウがある。時代や技術が追いついておらず、“変わり者”のレッテルを貼られただけで消えていった端末も少なくない。過去にアイデア先行で消えた企画も、Mと同様、機が熟し、販路さえ確立できれば、再び陽の目を見ることは十分考えられる。
スマホの多様化を中国メーカーと協力して「日本から発信する」という点でも、Mでの取り組みは注目に値する。
(文、写真・石野純也)
石野純也:ケータイジャーナリスト。出版社の雑誌編集部勤務を経て独立後、フリーランスジャーナリストとして執筆活動を行う。国内外のスマートフォン事情に精通している。