知名度ゼロでいきなり世界を獲った覆面ユニットの「ヒットの方程式」

その名は"AmPm"

素性も年齢も非公表

無名の日本人ユニットが、メジャーレーベルや大手事務所の力も借りず、インディペンデントな体制のまま世界進出を果たし成功を手にしている。

それが、2017年3月にデビュー曲「Best Part of Us」をリリースしたクリエイティブユニット、AmPm(アムパム)。本人たちの素性も年齢も非公表、覆面の二人組だ。

彼らの人気に火をつけたのが定額制音楽配信サービス、Spotifyだった。「Best Part of Us」はリリースから半年となる10月に800万回再生を記録。その後も「Daring Break Free」や「I don’t wanna talk」などのシングルをリリースし、いずれも100万回再生を突破した。

Spotifyは、楽曲の再生1回あたり平均で約0.5円をアーティスト側に支払っていると言われる。彼らは音源をCDでリリースしていないが、これまで配信された数曲の合計で、すでに累計1000万回以上が再生された計算となる。

しかも、その大半が国外からの再生だ。リスナーの所在地は日本以外にもインドネシア、メキシコ、台湾、フランスと世界各国に広がっている。

彼らは今夏、インドネシアのジャカルタで開催された音楽フェス「SPOTIFY ON STAGE」に出演を果たした。初のステージが1万人規模のライヴ、しかも海外の有名アーティストが集うフェスに日本代表として出演を果たしたことになる。

一体何が起こっているのか。

 

CDに縛られた日本市場は無視

筆者は昨年、講談社現代新書より『ヒットの崩壊』を上梓した。そこで論じたのは、激変する音楽ビジネスの世界的潮流に乗り遅れた日本の音楽市場の姿だ。

アメリカを筆頭に世界各国の音楽市場ではSpotifyなどの定額制音楽配信サービスが急速に拡大し、その収益が音楽市場全体を押し上げている。

一方で、日本においては「売れない」と言われ続けているCDがいまだに市場の大半を占めている。特典商法の定着によりCDセールス枚数と流行歌の指標が乖離し、主題歌やCMソングなどのタイアップなどが牽引したかつての「ヒットの方程式」も有効性を失っている。

AmPmは、こうした時代に「Spotify発、日本を飛び越えていきなり海外でファンを獲得する」という今までない形のヒットを生み出したと言える。

デビュー直後に彼らの楽曲がラジオやテレビや雑誌など日本の音楽メディアで取り上げられることはほとんどなかった。当然、主題歌やタイアップなどの露出もない。

ピコ太郎「PPAP」や岡崎体育「MUSIC VIDEO」などを筆頭にYouTubeでのMV動画がSNS上でシェアされたりすることをきっかけにで話題が広がり楽曲がヒットする例は昨今でも多いのだが、そのパターンでもない。

海外にファンの多い彼らだが、いわゆる「クールジャパン」的な受け方をしているわけでもない。

代表曲「Best Part of Us」を聴けば一目瞭然なのだが、特に「日本らしさ」を打ち出した音楽性ではない。サウンドはスムースで聴き心地のいいエレクトロニック・ポップ。フィーチャリングに迎えたヴォーカリストMichael Kanekoが流暢な英語で洒脱なメロディを歌う。チェインスモーカーズを彷彿とさせるような、現行のポップミュージックのトレンドを押さえた曲調だ。

では、なぜAmPmは今までにない形の成功を手にすることができたのか?

それを探るため、首謀者の一人「AmPm_右」にインタビューを行った。話を聞く中で見えてきたのは、とても特異な彼らのスタンスだった。

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