二拠点生活は基本「無理ゲー」だが、チャンスと娯楽は二倍になる (寄稿:徳谷柿次郎)

著: 徳谷 柿次郎 

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こんにちは、編集者の徳谷柿次郎と申します。

長野にある満開のヒマワリ畑。自然の生命力を感じると共に、ヒマワリをずっと眺めてると「大きな目」に錯覚して怖くなりませんか? 

 

前回、長野⇄東京の二拠点生活が始まったことをお伝えしました。最大の難関である「嫁の理解」を得て、待ち望んだ世界に飛び込んだわけですが……

 

これが慣れるまで超大変!

 

世の中にあまり参考事例がないのはもちろん、環境によって悩みが変わってきます。片方は実家なのか。両方とも賃貸物件なのか。

二拠点生活のやり方も何パターンか考えられるわけですが、私が選んだ選択肢は「賃貸」×「賃貸」の組み合わせ

これがまぁ、ググっても絶対に答えの出てこない世界なわけです。当たり前ですが、単純にお金が二倍かかることは先にお伝えしておきます。

 

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地方創生や働き方改革の文脈で「豊かな移住生活」「都市と地域を行き来する二拠点生活」とよく語られていますが、実際のところ修羅の道な気がしてなりません。

言っちゃうと基本的に無理ゲーなんじゃないかな、と。

もちろん、その「価値」「楽しさ」を見出しているからこその選択であり、踏ん張った分だけのリターンもある。理想の世界に行き着くまでには、少し時間がかかりそうです。

 

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本記事では、二拠点生活を始めたばかりだからこそ語れる「家が二つある難しさ」。そしてそこに付随する小さな悩みを紹介しつつ、「二拠点を始めて良かった」と思えるメリットについても主観で触れたいと思います。

物事には表と裏があり、新たな文化にはメリットとデメリットがある。

 

二拠点生活を始めて気づいた「生活の難しさ」

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とにかくお金がかかる問題

賃貸物件を二軒借りているため、当然ながら家賃が二軒分かかります。 こんな当たり前のロジックに後で気づきました。勢いだけではどうにもならないんですよね。

 

 

東京の家賃が60平米で75,000円と超安いことは過去に紹介したんですが……もうひとつ二拠点生活を後押しした条件があってですね。

それは起業したものの、世の中の逆張りで”あえてオフィスを借りず”に、二拠点目となる長野の家を選んだことです。

 

実践してみて最初に思ったのが、とにかくお金がかかることかかること!前述の家賃はもちろん、公共料金、ネット料金(定額!)、交通費、車の維持費などなど……なけなしの貯金が笑えるぐらい減っていきます。

不在時の家賃を日割りで計算し始めたら、頭が狂ってしまいそうなので控えたほうが得策です。とにかく金銭面で胆力を試される場面が多い。それが二拠点生活!  

 

留守が多すぎて荷物受け取れない問題

もう一つの初期の大きな悩み。どちらかの家にしかいないため、引越し用の荷物がぜんぜん受け取れないことでした。

家具を受け取るためだけに長野へ移動したり、配送予定日がズレて受け取れないまま倉庫へ転送されたりなど、東京で仕事をやりながら引越し準備をするストレスがやばかったです。

また、宅配ドライバーから電話を受けたときに「長野ですか?東京ですか?」と返答しないといけないため、「え?(何言ってんのコイツ)」という間が絶対生まれます。ドライバーへの申し訳なさが募りました。すまねぇ……。

 

ゴミ処理、ゴミ捨てがシビアすぎる問題

二拠点生活で移動をしていると、曜日指定のゴミ捨てタイミングが全然合いません。しかも都会よりもシビアというか。小さなコミュニティで適当にゴミ捨てなんてしたら、信用が地の底まで落ちるでしょう。

ある梅雨の日、生ゴミを雑に処理したままゴミ袋に放置。そのまま東京へ向かい、数日経って戻ってきたら、悪臭とコバエの二重奏で地獄でした。しかも可燃ゴミを捨てる日はまた東京滞在というピンチ……。

焦って買ってきた強力殺虫剤でコバエをみな殺しにして、重曹を全体に振りかけてジップロックへ収納。冷凍庫保管することでコバエの繁殖を防いで難を逃れたものの、この時ばかりは心が折れました。ゴミ処理問題は今後も課題!

 

移動しすぎて自問自答したくなる問題

毎週新幹線で移動していると「あれ?なんでこんな移動してるの?」「なんで二拠点生活始めたんだろう?」「家が一つって楽だったな……」と自問自答してしまいます。

 

車が2台ないと暮らせないモータリゼーション問題

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何をするにしても車がないと生活できません。しかも、あちこち移動する前提の自分用SUV車と、買い物中心の嫁用の軽自動車で2台必要な想定でいます。冬はスタッドレスタイヤ。長野の冬をまだ経験していないんですが、油断した車が坂道でツルツル滑って事故……なんて話はよく耳にします。

ただ長野に来て驚いたのが「意外とクルマは格安で譲ってもらえる」こと。当初、3万円で上記のシトロエンを譲ってもらって助かりました。

 

飲みに誘われにくくなる問題

びっくりドンキーのノンアルコール黒ビール、めちゃめちゃ美味いんだが!ドライバーに優しい!#長野の柿次郎

毎日どこにいるかわからないため、良くも悪くも誘いの機会が減りました。

あと長野の知り合いは自営業が多いため、平日は意外と忙しいことが判明。さらに車移動前提だとお酒が飲めないので、東京みたいに気軽に「飲みに行こうぜ!」が通用しません。また車移動でお酒は飲めず、ノンアルコールビールを飲む機会が激増。びっくりドンキーの「ノンアルコール黒ビール」が美味いのでオススメです。

 

●モノがどっちの家にあるのかわからなくなる問題

長野と東京を行き来する際に、「あ、これ必要かもしれない」「役所の手続きで書類が必要だ」「向こうで暇つぶしのときに持っていこう」などと持ち物が毎週移動します。ただでさえ家にモノがあふれているのに!モノの場所が動き続けるなんて!

結果的にモノが消えます。紛失したのかどうかもわかりません。まぁ、ここに関しては私の管理不足、脳のメモリ不足に起因しています。無くなるはずのないモノが消え続ける日々……想像していただけないでしょうか?(マジでどこいったの??)

 

●移動時間が増えて「腰」が痛い

最近めっちゃ痛いです。移動の負荷による神経痛……?

 

もちろん二拠点生活ならではの利点がある

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ここからは「念願の二拠点生活」で見えてきたメリットについて整理します。いや、ほら、楽しいことがないと続かないわけで! 人生ツラいことばかりじゃないから!

 

仕事のオンオフを切り替えやすくなった

https://www.instagram.com/p/BZAzNdVA49I/

東京滞在時は打ち合わせを詰め込む。営業マンみたいに渋谷周辺を移動する。それが二拠点生活スタイル。SmartHRの宮田くんとようやく仕事できそう!

現時点では「東京 週4日」「長野 週3日」ぐらいのバランスで動いていて。東京滞在のときに仕事の打ち合わせや取材、飲み会の予定を詰め込んでいます。

一方、長野滞在時はほぼ予定がありません。週末であれはイベントに行ったり、温泉に行ったり、娯楽的な予定が入るものの、基本的には自宅で集中してデスクワークに取りかかれます。

そんな時間を過ごしていると人恋しくなります。良い意味で孤独を感じ、その孤独を抱えた状態で東京へ移動する。

欲張りな性格だからこその二拠点生活ですが、この孤独の反復横跳びこそ精神的なメリットかもしれません。

 

自然との接点が増えて「思考」の選択肢が増えた

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編集者という職業柄、日々触れている情報から企画のタネが生まれるものです。

長野で過ごしていると「山に囲まれてると安心感があるな」「車がないとこんなにも不便なのか」「庭があるから家庭菜園をやってみよう」といった新たな視点で物事を考えられるようになりました。思考の選択肢が増えたことは思わぬメリットです。

 

東京の刺激的な価値に改めて気づけた


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長野と東京を反復横跳びすることで、改めて東京の刺激的な価値観に気づくことができました。例えば「明日、◯◯で飲みましょう!予定空いている人はぜひ~」とFacebookで呼びかけたら、友だちが友だちを呼んで10人ぐらいの飲み会に発展。人との出会いの数は、やはり東京は化け物レベルと言って差し支えないと思います。

 

また、アートやカルチャー系のイベント、美術館、映画館の数々など、日常的に吸収できる刺激は当然ながら東京は飛び抜けていてるのも事実。東京だけの暮らしではスルーしていたのに、少し距離を置いて客観視すると「東京すげー!」なんて頭の悪い感想がわいてきます。

 

10分で「温泉」に浸かれる回復力

長野の家から10分も車を走らせれば、自信を持って胸を張れる温泉施設「うるおい館」があります。

朝風呂もやってるし、サウナと水風呂の交互浴もキメれるし、食事処もある。何より泉質と露天風呂の雰囲気は長野ならでは。午前中は仕事をして、昼ごろにランチとセットで温泉に浸かる……この地味な時間の過ごし方はかねてから憧れていたものです。

日々の疲れを癒す温泉スポットは、豊かなアルプス山脈に囲まれた長野の圧倒的な強み! 30代以降はファイナルファンタジーのコテージみたいな回復力を見つけないと、身体がガッチガチになって衰えていく一方です。老い、疲れ、マジで怖い。

 

頼もしい仲間たちとの「助け合い」が心の拠りどころになる

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ここで「長野に家を借りて良かった !」と心から思えたとっておきのエピソードを紹介させてください。

新居の作業環境を良くするべく、立派な本棚をオーダーしました。唯一の仕事場のこだわり。オフィスみたいなもんですからね。

 

今回お願いしたのは、古材のレスキュー&再活用の事業をやっている「リビルディングセンタージャパン」の代表・東野唯史さん。長野の古民家から回収した古材だけで、作業場に合わせたデカい本棚をオーダーしました。

  

そして搬入当日。思いもよらない事態に陥ります。

 

本棚がデカすぎて階段で詰まった。

 

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本棚の重さは60〜70kg。男3人で担いで搬入したところ、都会で脳みそしか使っていない編集者2名(自分含む)の非力さも相まって、完全に身体の限界を超えてしまいました。

階段途中でアゴから汗が大量に滴り落ちて、今にも両手の握力が0になるレベル。すなわち死。手を離したら賃貸物件が傷だらけになる。

 

 

己の無力さに打ちのめされそうになったところ……数々のピンチを乗り越えてきた東野さんが代案をポロッと口にしました。彼は常に冷静です。

 

「よし、二階のベランダからロープを使って搬入しようか」

 

え、そんなことできるの? ロープだけで……??

 

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※自身のFacebookメッセンジャーのやりとりから引用

偶然近くに頼れる知人がいることを思い出して、早速SNSで「本棚搬入助けてー!」と必死感のあるSOSを飛ばしました。

一人は力仕事なら任せろと言わんばかりの建築士。もう一人は引越しバイト経験含めて、身体を使ったノウハウに長けた無職の若者です。ちなみに東野さん含めて、3人とも身長は約180cm。何食ったらそんな身体になれるの?

 

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日頃から身体性と精神性を同時に鍛えている猛者で、インターネットで生計を立てているガリガリの私とは雲泥の差です。なんだろ。この生物として絶対敵わない感じ。

 

現場に到着するやいなや素早く状況判断をして、最適な搬入方法を決断。毛布で本棚と二階ベランダの手すりを保護し、ロープ3本で本棚を縛って持ち上げることになりました!

 

「長野のアベンジャーズだ……」

 

頼もしいヒーローに助けられる一般市民の気持ち……今ならわかる。さらに駆けつけてくれた他の仲間たちも二階に上がって準備万端です。

 

 

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いっけぇぇぇぇぇぇ!

 

あっという間に重い本棚が上へ上へとあがっていきます。たぶんロープだけで何でもできるんじゃないかな。 

 

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ポイントは一人が中心のロープを引っ張って、建物側に本棚がぶつからないよう阻止すること。無職の若者の引越し屋バイト経験が生きています。

 

https://youtu.be/K_rHz9VJo9E

 

※動画だとこんな感じです

 

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一番心配だったベランダへの引き上げ時も、毛布が潤滑剤のようになってスルスルと動く仕掛け。これ考えた人にノーベル本棚搬入賞をあげたい

いやー、途中で本棚が地面にオチたらバラバラになる恐怖心も、この瞬間にすべて消え去りました!

 

というわけで……

 

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長野のたくましい人たちのおかげで無事搬入完了……!

 

この時ばかりは土地の優しさに触れて泣きそうになりました。ヒトは一人では生きていけない。お金で解決できない困難にぶちあたったときこそ、他人に頼る気持ちが人間関係を深くする。トラブルを乗り越えたことで、より本棚にも愛情が芽生えたのは言うまでもありません。いやー、本当に良かった。

 

二拠点生活のまとめ

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特殊な例とはわかりつつも、あえて二拠点生活のメリット、デメリットについて紹介させていただきました。どの環境でも良い部分と悪い部分があるものです。

数ヶ月実践してみて強く感じたのは、「片方の拠点は実家 or 誰か住んでいた方が絶対にラク」だということ。そりゃそうです。生活環境を維持するためには、ひとつの家で営む方が圧倒的に効率が良いに決まっています。賃貸×賃貸はツラい。

 

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車で一時間走れば、北アルプスの壮大な山を眺められる 

 

 

ただ、私が無謀にも二拠点生活にチャレンジした理由は、「東京」「ローカル」双方の価値を知ることなんですよね。ローカルに飛び込むことで新しい働き方の可能性を探り、同時に自然の豊かさに触れる。

8年住んでいる東京の魅力も、少し距離を置くことで客観視できるようになりました。東京が作り出すエネルギーは目を見張るものがあり、この生活を始めてから「やっぱ東京すげーな」と気づくことばかりです。

また仕事面でいえば、ローカルに飛び込んでから新たな仕事の機会も増えたし、登山やキャンプなどの娯楽の選択肢がグッと身近に。いいとこ取りの欲張りな生き方ですが、何とかやっていけそうな気がしています。まぁ、ダメだったらダメでやり方を変えればいいだけ!

 

二拠点生活は基本「無理ゲー」だが、チャンスと娯楽は二倍になる。


これが現時点での正直な感想です。

 

ではまたお会いしましょう。

 

 

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著者:徳谷 柿次郎 (id:kakijiro)

徳谷 柿次郎

株式会社Huuuu代表取締役。おじさん界代表。ジモコロ編集長として全国47都道府県を取材したり、ローカル領域で編集してます。趣味→ヒップホップ / 温泉 / カレー / コーヒー / 民俗学など。

Twitter:@kakijiro

イラスト:小野 一絵