世界の空き家対策

米山秀隆 編著
小林正典・室田昌子・小柳春一郎・倉橋透・周藤利一 著

内容紹介

日本に820万戸もある空き家。なぜ、海外では空き家が放置されないのか? それは、空き家を放置しない政策、中古不動産の流通を促すしくみ、エリア再生と連動したリノベーション事業等が機能しているからだ。アメリカ、ドイツ、フランス、イギリス、韓国にみる、空き家を「負動産」にしない不動産活用+エリア再生術。

体 裁 四六・208頁・定価 本体2000円+税
ISBN 978-4-7615-2686-3
発行日 2018/09/05
装 丁 赤井佑輔(paragram)


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計17ページ公開中!(はじめに、1章の一部)

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はじめに

1章 日本と海外の空き家対策最前線  米山秀隆

1 空き家の実態
2 空き家を放置しない対策
3 エリア再生と連動した空き家対策

2章 アメリカ 空き家の発生を抑える不動産流通システム  小林正典

1 住宅市場の現状
2 住宅市場を支える不動産流通システム
3 コミュニティ・ランド・トラスト ―空き家・空き地を再生してエリアの価値を高める
4 ランドバンク―未利用不動産を市場に戻す
5 学ぶべき公民連携と再生不動産取引の活性化

3章 ドイツ 公民連携で空き家対策からエリア再生へ  室田昌子

1 ドイツと日本の比較
2 住宅の現状と空き家の特徴
3 連邦政府の放棄不動産対策 ―管理不全・利用不全・エリア再生
4 ノルトライン・ヴェストファーレン州の住宅監視法とローカルアライアンス
5 ヴッパータール市のスクラップ不動産対策と住宅アクションプログラム
6 学ぶべき早期解決とエリア型の再生  107

4章 フランス 多彩な政策と公民連携による空き家リサイクル  小柳春一郎

1 住宅市場と空き家の現状
2 住宅不足を解消する空き家対策
3 リール、サンテティエンヌ市の空き家リサイクル
4 学ぶべき多彩な政策と公民連携体制

5章 イギリス 行政主導で空き家を市場に戻す  倉橋透

1 住宅市場の特性
2 空き家の現状
3 強制力を伴う空き家対策
4 リバプール市の空き家を市場に戻す対策
5 学ぶべき行政主導の空き家管理

6章 韓国 スピード感のある空き家整備事業  周藤利一

1 住宅市場と空き家の現状
2 空き家整備の事業手法を立法化
3 ソウル、釜山、仁川、大邱市の空き家対策
4 学ぶべき空き家整備のスピード感

[編著者]

米山秀隆(よねやま・ひでたか)

富士通総研経済研究所主席研究員。1963年生まれ。筑波大学第三学群社会工学類卒業。筑波大学大学院経営・政策科学研究科修了。野村総合研究所、富士総合研究所を経て現職。専門は住宅・土地政策、日本経済。主な著書に『捨てられる土地と家』(ウェッジ)、『縮小まちづくり』(時事通信社)、『限界マンション』『空き家急増の真実』(以上、日本経済新聞出版社)など。

[著者]

小林正典(こばやし・まさのり)

一般財団法人不動産適正取引推進機構研究理事兼調査研究部長。1970年生まれ。ハーバード大学大学院修士課程(都市計画・都市政策専攻)修了。国土交通省土地・建設産業局不動産市場整備課不動産投資市場整備室長等を経て現職。主な共著書に『不動産政策研究(総論・各論Ⅰ~Ⅳ)』『既存住宅市場の活性化』(以上、東洋経済新報社)など。

室田昌子(むろた・まさこ)

東京都市大学環境情報学部教授。1957年生まれ。東京工業大学社会理工学研究科博士課程修了。博士(工学)。武蔵工業大学(現・東京都市大学)講師、准教授を経て現職。専門は都市計画、居住環境、コミュニティ再生。主な著書に『ドイツの地域再生戦略―コミュニティマネージメント』(学芸出版社)などがある。2001年日本不動産学会賞研究奨励賞、2003年都市住宅学会論文賞、2017年日本不動産学会論説賞等受賞。

小柳春一郎(こやなぎ・しゅんいちろう)

獨協大学法学部教授。1954年生まれ。東京大学法学部卒業、東京大学大学院法学政治学研究科単位取得退学。東京大学博士(法学)。山梨大学教育学部講師、同助教授を経て現職。主な著書に『震災と借地借家―都市災害における賃借人の地位』(成文堂、日本不動産学会著作賞受賞)、『日本の土地法―歴史と現状』(共著、成文堂)、『原子力損害賠償制度の成立と展開』(日本評論社)など。

倉橋透(くらはし・とおる)

獨協大学経済学部教授。1959年生まれ。東京大学経済学部卒業。ケンブリッジ大学大学院土地経済研究科修士課程修了。東京大学博士(工学)。1981年建設省入省。建設省住宅局、新潟大学法学部助教授(出向)、千葉大学法経学部助教授(出向)等を経て2005年より現職。さいたま市空家等対策協議会長等を兼務。専門は公共政策。論文に「イギリスにおける空き家対策」(都市住宅学会『都市住宅学』第80号)等がある。

周藤利一(すとう・としかず)

明海大学不動産学部教授。1956年生まれ。東京大学法学部卒業。北海道大学博士(工学)。1979年建設省入省。在大韓民国日本国大使館二等書記官、住宅局住宅政策課住宅政策調整官、土地・水資源局土地情報課長、不動産適正取引推進機構研究理事、日本大学経済学部教授、国土交通政策研究所所長などを経て現職。2006年日本都市計画学会論文奨励賞、2015年日本不動産学会著作賞受賞。

日本における空き家問題は、単に過疎地域だけの問題ではなく、郊外住宅地の衰退や中心市街地の空洞化などの問題としても現れており、全国的な広がりを見せている。空き家のほか空き地も増えており、さらに空き家・空き地の中で所有者不明となる物件も出るなど、問題はより深刻化している。対策としては、単に問題となっている空き家を解体したり、まだ使える空き家の活用を進めたりするだけではなく、空き家・空き地を含むエリア全体をどのように再生させていくのかという観点から、総合的に考える必要性が次第に高まっている。

海外でも空き家問題は一つの課題とされている。日本と同様、少子高齢化が背景にある国では、危険な状態となった空き家が取り除かれるような対策が講じられている。他方、人口が増えている国では問題の性質が異なり、住宅供給を増やす必要性から、空き家を空き家のままにさせず、市場に戻す対策が重視されてきた。しかしこうした国においても、衰退しているエリアは存在し、衰退エリアをいかに再生させるかという意味では、日本と同じ課題に直面している。

すなわち、人口動態の違いによって各国の空き家対策の重点の置き方は変わってくるが、空き家・空き地が多い衰退エリアはどの国でも存在し、そのエリアが今後とも居住地として残すべきエリアであれば、再生を図っていくことが求められている。これは、まちの成熟化が進んだ後に、そのまちの魅力を回復させ、まちとして存続させていくためにどのような取り組みが必要になるのかという問題になる。

特定エリア内の空き家・空き地の権利関係を調整し、土地利用を再編しながらまちの再生を図っている例は日本でも存在するが、海外においてはそうした取り組みがより広範に行われている例がある。さらに最近は日本でも、空き家対策とまちづくりを明確に連携させた対策を講じる例も現れている。こうした取り組みにおいては、行政の資金と民間のノウハウの組み合わせといった公民連携の体制も有効になる。

一方、所有者不明土地問題については、登記が任意の日本ではこうした問題が生じやすい。しかし、日本ほどではないが、海外でも登記がなされず所有者不明問題が発生している例もある。この問題については登記義務化の必要性がしばしば指摘され、そうした方向性も検討課題の一つになっているが、義務化しても実効性を担保できるかは定かではないとの意見も根強い。

問題の本質は、人口減少時代においては、今まで使われていた土地の次の使い手が現れる可能性が低く、現在の所有者も将来にわたって責任を持って管理し続けることが難しくなっている点にある。こうした土地を誰がどのように管理していくのかについて、今後人口が著しく減少すると見込まれる日本であればこそ、新たなしくみを構築できる可能性を秘めている。

本書においては、海外各国の空き家事情、空き家対策を紹介し、そこからどのような示唆を得られるかを探ることを目的としている。対象国としては、アメリカ、ドイツ、フランス、イギリス、韓国を選び、それぞれを専門とする第一人者の参加を仰いでいる。各研究者は現地調査も行いつつ、実態の把握に努めた。

これまで各国の空き家対策を比較分析した書籍はなく、貴重な情報源になると考えている。本書によって、各国の空き家対策に関する理解が深まり、日本の空き家対策をより一層進化させていくためのヒントが得られると幸いである。2018年は総務省「住宅・土地統計調査」の5年に1回の調査年にあたり、空き家の最新動向が2019年に判明することを受けて、空き家対策に関する議論は、今後、もう一段盛り上がってくると考えられる。

本書を刊行するにあたっては、学芸出版社の宮本裕美、森國洋行の両氏に大変お世話になった。とりわけ、宮本氏の着想がなければ本書が世に出ることはなかった。深く感謝申し上げる。

2018年8月
米山秀隆

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