有料会員6000万人を突破!成長中のSpotifyが「Podcast」市場開拓に乗り出す

「やっと日本でもサービスを使えるようになった」

Spotifyが日本に上陸した時、留学経験のある友人がこう言っていたのを憶えている。これだけユーザーに支持されるサービスとは、一体どんな体験をもたらすのだろうかと気になった。

日本への上陸が度々噂され続けてきたSpotifyは、2016年9月に日本でサービス提供をスタートした。日本法人が設立されたのが2012年。約4年越しのサービスリリースだった。

上陸から1年が経過したSpotifyは、相変わらずユーザーから愛され、世界で成長を続けている。

有料会員数が6,000万人を突破したSpotify。Apple Musicを大きく引き離す

Spotifyは、世界60カ国でサービスを展開し、その有料会員数は2017年7月に全世界で6,000万人を突破した。同社は、2017年3月に5,000万人の突破を発表したばかり。約4ヶ月間で有料会員が1,000万人も増えたことになる。有料の会員が、だ。このままの成長率を維持できれば、2018年末には有料会員数が1億人を突破する。

Spotifyの有料会員には、月額9.99ドル(日本では月額980円)の通常プラン、月額4.99ドル(日本では月額480円)の学生プランが存在する。6,000万人の会員が月額9.99ドルの通常プランだと仮定すると、その売上規模は月間5億9,940万ドル(約653億円)に上る。

Spotifyに次ぐストリーミングサービスであるApple Musicが、2017年6月に発表した有料会員数はSpotifyの半分以下の2,700万人。ライバルの有料会員数を大きく引き離すSpotifyは、音楽ストリーミングサービスのリーディングプレイヤーであると言えるだろう。

音楽ラインナップの充実と、音楽プレイリストのカスタマイズがSpotifyの成長を牽引

Spotifyが急成長を続けられたのは、ユーザーとミュージシャン双方に徹底的に真摯に向き合い続けてきたからだろう。

Spotifyはユーザーと音楽の出会いを最適化するため、ユーザーの好みに合わせてカスタマイズされた30曲のプレイリストを毎週自動生成する「Discover Weekly」の機能をApple Musicに先駆けて2015年にローンチ。その他にも「Dailiy Mix」や「Spotify Radio」など様々なプレイリストをユーザーに合わせて作成する機能も提供している。

音楽ラインナップの充実もSpotifyの成長を牽引している。2017年6月には、テイラー・スウィフトの全楽曲がSpotifyで配信された。

テイラー・スウィフトは「無料会員であっても楽曲を聴くことができる」という理由から、2014年に全アルバムをSpotifyから引き上げた。Apple Musicは3ヶ月のトライアル後に楽曲を聴くには、有料会員にならなければいけない。Appleは会員が無料のトライアル期間であっても、有料会員が再生した際と同等のライセンス料をテイラー・スウィフトに支払うという契約のもとで、テイラー・スウィフトはApple Musicに全アルバムを提供していた。

テイラー・スウィフトの楽曲解禁には、Spotifyの2つの変化が影響したと考えられる。1つはSpotifyのユーザー数の増加だ。無料会員も含めると月間1億4,000万人のアクティブユーザーを抱えるSpotifyに楽曲を提供しなければ、その膨大な数のリスナーにアプローチする機会を失うことになる。

もう1つは、適切なライセンス料を支払うための取り組みが進められていることだ。2015年にSpotifyは、ミュージシャン David Loweryから、著作権料の未払いで1億5000万ドルの支払いを求める訴訟を起こされていた。

このことから、Spotifyは「アーティストに十分なロイヤリティを払っていない」というイメージがついてしまっていた。このネガティブイメージを払拭する取り組みのひとつとして、ブロックチェーン企業Mediachain Labsを買収。同社の技術を活用することで、Spotify上で提供される楽曲と、その楽曲の権利者を紐付け、クリエイターに適切なライセンス料を支払うことを検討している。

テイラー・スウィフトのように、ライバルとなるプラットフォームに楽曲を配信していたアーティストを自社サービスに引き込むことができれば、ライバルの優位性を取り除くことができる。自社サービスの強みである「プレイリスト」を強化するだけではなく、楽曲をApple Musicが独占して配信する状況を打破するような施策もSpotifyは打っている。

ユーザー数、市場規模の拡大が期待される「Podcast」

有料会員数が6000万人を超えたSpotifyだが、成長のための課題はまだ残されている。

Spotifyの2016年の純損失は約5億4,000万ユーロ(約693億円)。楽曲の再生時間に応じて音楽レーベルやアーティストに支払うロイヤリティが負担になっている。ロイヤリティの支払い額は、Spotifyの総収入の約75%以上を占める。

Bloombergによれば、Spotifyは2017年後半にIPOを実施する計画だという。IPOのためには財務状況の改善が必要であり、新たな収益源の確保が目下の課題となっている。

そのためには、Spotifyはユーザーのサービスとの接触時間を増やし、広告収入の増加を狙っていかなければいけない。音楽に加えて、新しいコンテンツをSpotifyのプラットフォーム上で提供できないか――Spotifyが目をつけたのは、Podcastだ。

Bridge Ratingsの調査によれば、2017年末までにアメリカ人の3人に1人以上が、月に1度以上はPodcastを聴くようになると予想している。この数字は、2016年に比べると20パーセント以上も上昇している。

SpotifyがPodcastのオリジナル番組制作に乗り出す

盛り上がりを見せるPodcast市場で、番組配信のプラットフォームとしての立場を貫いてきたSpotifyが、2017年から独自コンテンツの制作をスタートした。

Spotifyは、2017年に入ってから人気Podcast番組の制作を手がけるスタートアップGimlet Mediaとともにオリジナル番組の制作に着手。番組にはラッパーの50 CentやBusta RhymesのプロデューサーであるChris Lightyが出演し、Spotify上で先行配信される予定だ。

これまでユーザーはPodcastを再生するためにSpotifyを離脱し、Apple MusicやYouTubeなどの競合サービスを開いていた。しかし、他のプラットフォームと同様のPodcast番組をSpotifyで展開する以上に、Spotifyのみでしか配信されないオリジナルのPodcast番組が充実していけば、「Podcast番組を聴くプラットフォーム」としてSpotifyが選ばれやすくなるだろう。

Spotifyは音楽に加えて、Podcastのような音声コンテンツを揃えることで、ユーザーのサービスとの接触時間を増やし、広告収入の増加を狙っていく。これまでユーザーはPodcastを再生するためにSpotifyのアプリを離脱し、Apple MusicやYouTubeなどの競合サービスを開いていたが、その必要はなくなっていく。

音楽ラインナップの充実や、音楽関連スタートアップの買収を通じた新機能の実装、そしてPodcastへの重点的な取り組みなど、Spotifyは音楽を軸に様々な手を打っている。IPOに向けたSpotifyの今後の動きが楽しみだ。

img : Spotify, Jonathan Velasquez

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