2018.04.29
# 研究生活

生命科学者、天皇陛下に一本取られる

陛下の夕食会に参加して

陛下と会食? マジで?

実は、天皇陛下と皇居で食事をするという奇跡に恵まれたことがある。もちろん、筆者自身はそんなVIPではないので、偶然と幸運が重なったためだ。

2015年のお正月に、神経科学会の重鎮であるN先生が、天皇陛下の御前で「ご進講」という講義をしたのがそもそもの始まり。ご進講の1ヵ月後に、陛下が講師を皇居に招き、お礼の意味で食事会を開く、というのが慣例となっているそうで、その時に、2名の随行者を連れていくことが許される。N先生は神経科学が専門のK大学医学部教授の先生をひとりと、もうひとりになんと筆者を指名してくれたのである。

指名してくれた理由は、筆者の専門が、「動物の縞模様ができる原理の研究」だからである。陛下が魚類の分類学者であることは、ご存知だろうか。宮内庁のHPに行くと、陛下の論文のリストがある。全部で28編もあるが、そのほとんどがハゼ類の分類に関する論文である。魚種の分類には、様々な形態的特徴が使われるが、その中で模様の締める割合はかなり大きい。N先生は、筆者を連れていけば魚の模様で「話が持つ」と考えたのだろう。

出席を即座にOKしたのはもちろんだが、同時に、大きなプレッシャーがのしかかってきた。食事会の場を盛り上げるのは、お前に任せた、という意味でもあるからだ。相手が天皇・皇后両陛下では、得意とするアニメもゲームもアイドルの話もできない。魚の模様の話は得意だが、模様形成の理論や細かい実験の話をしても、会話は盛り上がらないだろう。食事中の会話としては不適当だ。う〜、どうすればよいのだ……。

縞のあるハゼ縞のあるハゼ(ヒメタデハゼ) photo by iStock

とりあえず、準備だけはしておこう、ということで陛下の論文全てをダウンロードして、論文に出てくるハゼの模様を調べた。ふむふむ、これなら何とかなりそうだ。筆者は、「動物の皮膚で化学反応の波が発生し、それが模様になる」というTuringの理論を研究しているのだが、論文に出てくるハゼの模様は、その理論を組み込んだ計算で作ることができた。

続いて、その理論を、できるだけ解りやすく解説する練習をする。だが、楽しんでもらえるだろうか……不安である。学生相手ではないのである。解っていただけなければ、100%こちらの落ち度なのである。

さらに、両陛下、特に皇后陛下が、鋭い質問をするという話も聞いたことがある。

かなり以前に、私の恩師のH先生とN先生が、皇太子時代の両陛下と歓談する機会があった時の話である。遺伝子とたんぱく質の関係を説明していた時に、当時の美智子妃殿下が、「タンパクとはどういう意味ですか?」とお尋ねになったそうだ。普段そんなことは考えたこともないので、固まる両先生。しかし、こんな基本的な教養も無いようでは恥とばかりに頭を絞るが出てこない。

その時、もうひとり、臨席していたK先生が、「卵の白身という意味です。ピータン(皮蛋)という中華料理がありますが蛋は卵で、白が白身です」と助け船を出してくれたそうである。

普段考えたこともない斜め方向からの質問は怖い。予習のしようがないからだ。そのような質問が来ないまま無事に終わるのを祈るしかない。

とりあえずは準備万端整えて(スーツと靴を新調。今までに買ったことのない値段だった。まるで七五三である)、その日を待ったのでありました。

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