Home in LA to Unwind
「シンプル」なLAの住まいは安息の場
日本で実現できなかった憧れのシンプル空間
音楽活動を本格的に始めた20代のころは、ジュエリーやフィギュアにハマり、大人っぽいライフスタイルを目指していたVERBAL。30代は時計などの蒐集癖が募り、置き場所がなくなるほどの物に埋もれた生活をしていた。そうして数年前に、40代を目前にした頃からVERBALは「シンプルに生きる人に男気を感じるようになった」という。そんな彼の人生シンプル化計画の第一歩となったのが、アメリカ・ロサンジェルスの私邸だ。
グローバルな活動の拠点のひとつとして、2017年にVERBALが所属するLDHのUSAオフィス設立とともに構えた彼の住まいは、近年、再開発の頂点にあり、LAのエンターテインメント勢力が新旧ともに集まるハリウッド地区にある。22階建ての高層レジデンス内には、地元のアーティストの作品が配されていて、ジムやレストランはもちろん、アプリで頼めるコンシェルジュもいる。アメニティが充実しているばかりでなく、「友人も含めたいろんな人が住んでいて、ロータリーでクルマを待っている間に知り合って仲よくなることもあります。屋上のレストランでは、いきなりミュージックプロデューサーのランディ・ジャクソンが隣でご飯を食べてるなんてこともありました」。というように、LAらしい出会いやネットワークに満ちたライフスタイルのホットスポットでもある。
VERBALの部屋は、落ち着いたグレーと、木、麻、ウールなどの自然素材をちりばめたオーガニックな印象で、すっきりとまとまっている。壁一面の大きな窓からはハリウッドを一望できる。新築の部屋なので、家具はあえてヴィンテージにしたという。
LAのヴィンテージショップでは「派手で、おもしろい家具につい目がいってしまう」というVERBALだが、この部屋にかぎってはシンプルなインテリアだけを置くと決め、むやみな購買欲を抑えることを覚えたそうだ。よけいな飾りのない部屋を目指しつつ、見た目だけではない、ライフスタイルに合った使い勝手も重視した。デザイナーの家具にはこだわらず、オフィス家具などもミックスしながら、心地のよさと「ほどよい」テイストを、インテリア選別の決定軸にしている。ふくらもうとする物欲を我慢して抑えて、本当に納得する物だけを選んだ結果、冷たくなりがちなモダンでクリーンな空間は、ヴィンテージレザーの質感など、長年愛されてきたタイムレスなデザインに満ちた心地のよい雰囲気に落ち着いた。
部屋のデコレーションは数点のコンセプチュアルアート作品と観葉植物に限定されている。リビングの壁にかけた白いネオンのハートはLAのビジュアル&パフォーマンスアーティスト、バート・ロドリゲスの作品だ。「ただのハートだったらネオン屋さんでもできちゃいますが、バートはホイットニー美術館などでも展覧していて、この作品は『白い部屋に置かれた白いライトを見つめることで、思考も真っ白な状態にする』といったコンセプトを基にこのライトを作ったそうで。この人の思想がおもしろいから、作品としてもおもしろいと思ったんです」。アート作品はすべてが一見シンプルな作風だが、すぐにはわからない背景のストーリーや作者の意図に着目して選んだ。
インテリアやアートに具現されたシンプル志向は、引き算による余白が象徴的だが、この部屋では、物がなくても寂しいと思わず、むしろ「ほっとするようになった」という。がらんとした空間には、創作活動も日常行動も突発的な融通のききやすいLAらしい”チル”な余裕が垣間見える。
VERBAL
ラッパー、音楽プロデューサー、DJ、デザイナー。1975年東京都生まれ。セント・メリーズ・インターナショナル・スクールを経て、米ボストン・カレッジ卒業。米証券会社スミス・バーニーなどに勤めた後、98年に音楽グループ「m-flo」でミュージシャンとしてデビュー。2014年にEXILEのリーダー、HIROの呼びかけでクリエイティヴユニット「PKCZ®」を結成。